柴犬の社会化トレーニングは一生続く! 人、犬、動物病院に慣れる方法

 子犬の時期の「社会化」は、犬の一生を左右するほど重要なことです。もし飼い主さんが柴犬の社会化を行わなかったり、誤った方法で熱心に進めたりすると、共に暮らす十数年が大変なことになってしまうかもしれません。

 獣医師の山下國廣先生は「柴犬は社会化期が洋犬より早く終わる」と考えています。柴犬の成長過程に合わせて社会化を進めましょう。社会化は「社会性を身につけさせるトレーニング」なので、成犬や老犬にも必要です。

社会化は柴犬の一生を左右する

 社会化とは社会性を身につけるためのトレーニングのことで、広い意味ではいろいろな人、犬、環境、刺激に慣らすことも含みます。社会化に最適な時期は社会化期といわれる生後12週齢ころまでですが、柴犬は早い段階で終わりに向かいます。

 社会化期は犬にとっては敵と味方を学ぶ時期でもあります。保護者が見守っている時期に触れ合う者を敵ではないと学ぶので、家族以外の人と会わずに自立期に入れば警戒心が強くなり、見慣れない人や犬にほえるようになります。家族以外と仲良くできないということではなく、警戒して排除すべき相手という認識をもってしまうわけです。

 社会化期に経験が不足すれば新しい刺激になじみにくくなり、見慣れないものに警戒や恐怖を抱きやすくなります。柴犬の社会生活に支障をきたすだけでなく、共に暮らす飼い主さんも配慮が必要になります。

柴犬は成長過程がはっきりしている

 柴犬は子犬から成犬へと心理的に早く成長し、しかもその過程がはっきりしています。人の場合、親に守られていた子どもが自立したおとなになるまで20年程度ですが、柴犬は生まれてから1年半程度で一気に成長します。飼い主さんに赤ちゃんのように扱われて喜んでいた子犬でも、あっという間に自立して自分で考えながら生きていこうとするわけです。柴犬の大まかな成長過程を知っておきましょう。

柴犬
体と同じくらい、心理的にもぐんぐん大きくなる

・社会化期(社会化適期)/4〜12週齢
 保護者に守られながらいろいろな環境や刺激に慣れる時期。好奇心旺盛で警戒心が低いときなので、社会化トレーニングに最適。このときに触れ合った者を仲間と認識する。一般的には12週齢ころまで社会化期が続くといわれるが、柴犬は早い段階で終わりに向かう。12週齢の前から警戒心が強くなり、見慣れないものを怖がることもある。

・自立期(反抗期、思春期)/〜1歳
 自己主張をするようになって “おとな”へと成長する。柴犬は生後4カ月ころから急に変わり始め、6カ月のころにはおとなびた態度を見せる犬も少なくない。自己主張が反抗的に見え、「素直だったのに言うことを聞かなくなった」と感じる飼い主もいる。反抗期や思春期と表現されることもある時期。

・青年期/1歳〜3歳
 歳を重ねるにつれて自信と落ち着きを身につける。社会化期に経験しなかった物事には警戒する。「1歳になったら別犬に変わった」と悩む飼い主さんもいるほど、精神的に著しい成長を遂げる。柴犬には個体差があり、3歳ころまで子どもらしさが残るタイプもいる。

柴犬の社会化トレーニングの注意

 いろいろなタイプの人や犬、体を触ったり拘束したりすること、環境や物音などに慣れるためのトレーニングが社会化です。柴犬の社会化のポイントは、最初は少し怖がっても時間が経てばなれる程度の刺激から始めること。犬がおびえ続けるほどの刺激や、まったく気にしない刺激では社会化が進みません。飼い主さんが犬の反応を見ながら無理なく慣らしていきましょう。

 社会化やしつけ、トレーニングのいずれも、子犬のころにできていたことができなくなる理由は、犬がある程度覚えたところで飼い主さんがごほうびを与えなくなるからです。犬にとっては「仕事を覚えたら給料はなし」と言われたようなもので、仕事を放棄するのも当然。とはいえおやつを与えすぎるとカロリーオーバーになるので、主食のドッグフードをごほうびとして与える方法がおすすめです。

 また、「たくさん我慢してちょっとごほうび」ではなく、「ちょっと我慢してたくさんごほうび」を心がけてください。柴犬は水が苦手なので、シャンプーなどは社会化を進めても一定のところで嫌がることも。途中で逃避できない状況にして実行することもときには必要です。

柴犬
動物病院やしつけ教室の「パピークラス」に参加してもよい

(1)足拭きなどのケア
 柴犬は接触や拘束が苦手なタイプが多い。足に触ったらごほうび→足を握ったらごほうび→足をウエットティッシュでなでたらごほうび→指の間をウエットティッシュで拭いたらごほうび……と、小さくステップを刻んで教える。これは抱っこや爪切りなどのケアにも共通。

(2)いろいろな人
 人が歩いているところを風景として見せるところから始める。次に犬が自ら寄っていく人にはなでてもらったりフードをあげたりしてもらう。犬が警戒する人にいきなり触れ合わせるのは避けて、犬の横を通りすぎるときにフードを落としてもらうことからはじめるのが理想。

(3)いろいろな犬
 犬同士を交流させるときは、リードをつけた状態で飼い主同士がしっかり見守る。犬がほえたり逃げたりしない距離を保った状態から少しずつ近づいて慣らす。犬同士の相性をトレーニングで変えるのは難しいので、同じ場所にいられるだけで十分。

(4)動物病院
 かかりつけの動物病院に犬を慣れさせる練習をしたいと相談する。OKであれば待合室や診察台でフードを与える練習を行う。獣医師や動物看護師からも与えてもらうと慣れやすい。

社会化は成犬になっても続ける

 社会化に関する最も多い誤解は、「社会化期に社会化をすれば完成」という考えです。社会化期とは「社会化に適した時期」という意味で、社会化は成犬になっても続けましょう。ただし子犬に比べて新しい刺激に慣れるまで時間がかかるようになり、許容範囲も限られてきます。無理をしないよう慎重に少しずつ行うことを心がけてください。

柴犬
成犬や老犬の社会化は無理なく進めることが大切

 自分に十分自信がついた5歳ころになると、それまでできていたことを嫌がることもあります。社会化をやり直すつもりで丁寧に教えましょう。老犬になると不安感が強くなるあるため、慣れる練習をするより犬が安心できる環境を整えるいたわりも必要です。

 社会化トレーニングを行えば何でも慣れると限りません。野生動物に近いプリミティブドッグの柴犬は優れたサバイバル能力をもっているので、「命に危険があった」と判断する出来事に遭遇すると一生慣れない可能性もあります。また、来訪者への警戒心や、犬同士の相性(特にライバルとなる同性)も変えられません。

 いろいろな物事に慣れるサポートを行うことも大切ですが、柴犬の特性を理解して折り合いをつけながら工夫して暮らすことも考えましょう。

【前の回】ルーツ、性格、オスとメスの違い 知っておきたい柴犬の基礎知識

監修:山下國廣(やました・くにひろ)
獣医師、軽井沢ドッグビヘイビア主宰。科学的なアプローチと犬の立場に立った発想で人と犬のコミュニケーションをサポート。家庭犬の問題行動治療、しつけ方指導、トレーニング指導のほか、里守り犬(モンキードッグ)など野生動物対策犬の育成指導も行う。愛犬のすぐり(甲斐犬)を日本犬初の救助犬に育てて多くの現場に出動した。

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金子志緒
ライター・編集者。レコード会社と出版社勤務を経てフリーランスになり、動物に関する記事、雑誌、書籍の制作を手がける。愛玩動物飼養管理士1級、防災士、いけばな草月流師範。甲斐犬のサウザーと暮らす。www.shimashimaoffice.work

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