柴犬のしつけは難しい!? 柴犬ならではの特性を知って、適した接し方をしてみよう
「柴犬のしつけは難しい」とはよく言われることですが、昔から日本にいて一緒に暮らしてきた犬なのに不思議だと思いませんか?柴犬の飼い主さんにも、それ以外の犬種の飼い主さんにも知ってほしい、柴犬の性格やしつけについてお伝えします。
犬の問題行動治療やしつけ方指導を行っている獣医師の山下國廣先生は、「柴犬のキャラクターを理解していないと、長所が短所にも見えてしまうのでしょう」と言います。プリミティブ・ドッグ(原始的な犬)の柴犬に適した方法でしつけを行うことが大切です。
柴犬とトイ・プードルの違い
日本犬の特徴は、心身ともに“おとな”へと成長すること! 体が大きくなっても“子ども”らしさを強く残すトイ・プードルなどの愛玩犬とは異なるところです。日本犬を含むプリミティブ・グループの犬は、野生動物の性質を強く残しているので、野生動物と同じくおとなになれば自立していきます。自然界では自立できなければ淘汰されてしまうわけですから。
しかし現在の日本では「犬はわが家の子ども」という感覚で飼われることが増えましたよね。人気犬種の多くが成長しても幼児性が残る犬種なので、子どもっぽい犬であることを前提にした接し方やしつけ方が広まっています。それがおとなになる柴犬のキャラクターに合わず、否定的な評価を下されやすいのではないでしょうか。
山下先生の資料をもとに、柴犬の成長の変化を紹介します。無邪気な子どもから自我をもつおとなへと育っていくことがわかりますね。
子どもからおとなへ、成長に伴う柴犬の変化
〈子犬のとき〉 → 〈成長すると〉
保護者に頼る → 自立する
見知らぬ相手で仲良くできる → 親しい相手を選ぶ
警戒心が弱い → 警戒心が強い
触られることに鈍感 → 触られることに敏感
好奇心が強く積極的に挑戦する → 保守的で慎重になる
ちゃかちゃかと動く → 省エネであまり動かない
柴犬の短所と思われがちな行動の理由と対処
柴犬は頑固、飽きっぽい、そっけない……と短所として挙げられる特徴の多くは、成長による行動の変化が関係しています。しかしおとなになることは止められず、そもそも悪いことではありませんよね。飼い主さんの主な悩みをもとに、柴犬らしさを生かせるような接し方やしつけ方を紹介します。
(1)頑固→覚えたルールをちゃんと守る長所もある
柴犬は散歩中に座り込んで動かなくなるなど、「イヤなものはイヤ」と意地っ張りなところがあります。自立性や保守性の現れで、なくすことはできません。
しかし頑固さには身についた習慣を守るという良い面もあります。たとえば、犬が届くところにドッグフードの袋を置いても食器に入れてもらうまで食べないなど、成犬になるまでに覚えたルールには従ってくれます(好奇心が上回るタイプは食べることもあります)。
(2)飽きっぽい→好きなことには集中するのでやる気を引き出す
トレーニングをしたり遊んだりしてもすぐに飽きる、というのは実は誤り。柴犬は飼い主さんが集中してほしいことに集中するとは限らないだけで、自分がやりたいことや好きなことには熱心に取り組みます。
ただしエネルギーを節約する省エネタイプでもあるので、犬のモチベーションを引き出すごほうびを使って「やってみよう!」と気持ちを盛り上げてください。(参考「愛犬がもっと喜ぶ「ごほうび」をみつけよう 上手に選んで使うと犬とより仲良くなれる」)
(3)指示に従わない→トレーニングを楽しい時間に変えよう
オスワリやフセなどの指示を出しても無視する場合、ひとつはトレーニングに嫌な印象を与えてしまったのかもしれません。柴犬は食べ物が最高のごほうびとは限らないタイプが多いので、おやつを与えたとしてもトレーニングが「やりたくないことをやらされる我慢の時間」になってしまうことがよくあります。
もうひとつは、犬がやりたくないときに限って飼い主さんが指示を出しているケース。犬が夢中でにおいを嗅いでいるとき、大好きな公園から帰るとき、苦手なシャンプーをするとき……など、思い当たることはありませんか?
犬がやりたくないときに従わせるのはとても難しいので、まずは「(2)飽きっぽい」と同様にごほうびを上手に使い、犬がやってくれそうなときを狙って練習しましょう。
(4)そっけない→小さなサプライズを用意して飼い主の魅力をアップ
子犬のころは保護者である飼い主さんにぴったりくっついて甘えますが、成長しておとなになれば適度な距離感を保って自分の時間を大切するようになります。
飼い主さんが呼んでも知らんぷりするほどそっけない場合、飼い主さんの魅力不足。犬のために小さなサプライズを常に用意しましょう!思いがけないときにおやつをあげたり、いつもの散歩コースを変えたりすると、犬が「次は何をしてくれるのかな?」と飼い主さんに期待して意識するようになります。
(5)飼い主をかむ→要求や希望を通すための行動なので接し方を見直す
飼い主さんに噛みつく理由の多くは、自分の状況を有利にする(要求や希望を通す)ための行動です。よく聞くのが「犬をなでていたらかみつかれた」という悩みですが、これは犬が、求めていないスキンシップを断っているわけです。自分の気持ちを押し付けるのはやめて、犬に心地よい距離感で付き合いましょう。
過剰なスキンシップは犬にとってストレスにもなります。「足を拭いていたらかまれた」という場合も、ごほうびをあげて少しずつ慣れる練習から始めてください。
柴犬の一部の系統に、ごくわずかな不満やストレスで前後不覚の攻撃行動に出る犬もいます(怒りながら尻尾を追いかけて回ることもある)。これは遺伝的な要素が大きく、犬種ではなく系統の問題と考えられます。
子犬の柴犬に教えておきたいしつけ
現代社会では柴犬の強すぎる警戒心は生活の支障になることが多いので、子犬のころからの社会化トレーニングが重要です。嫌な体験をさせると逆効果になるので、個々の犬の感受性に合わせて行いましょう。人間社会にあるさまざまなものに対して、警戒しなくていいことを一つずつ教えていきます。
飼い主さんが犬を見ていられないときには、子犬が何をしてもよい住環境を整えましょう。室内ならサークル、庭ならフェンスで囲ったりリードでつないだりします。いきなり自由にさせて「あれもこれもダメ」と叱るのはNG。行動範囲を少しずつ広げていき、やっていいことといけないことを一つひとつ教えましょう。
子犬のじゃれがみは人に対して犬同士の遊び方をしているだけなので、そのままでも将来のかみつきにつながることがありません。やめさせたい場合はかんだときに遊びをやめることを繰り返しましょう。(参考「愛犬のその後を決める 「犬の社会化」に必要なこと」)
成犬の柴犬に教えておきたいしつけ
柴犬は警戒心や自己防衛の性質が強いため、近づいてきた人や犬に対して危険と感じれば身を守ろうとします。「人や犬を噛むのは悪い行動だからトレーニングでやめさせる」という発想ではなく、噛む必要がないことを理解させましょう。
たとえば散歩中に知らない人が愛犬をなでようとした場合、飼い主さんが「うちの犬は怖がりであいさつできないんです」と相手を止めて、犬に自ら攻撃する必要がないと理解させるわけです。これを徹底しないと、先制攻撃で噛むようになったり、ストレスによるてんかん発作を起こしたりすることもあります。保護者として愛犬を守ってあげてくださいね。
老犬の柴犬に教えておきたいしつけ
いままでできていたことができなくなったら老犬と考えて、日常生活のストレスを減らす工夫をしましょう。苦手なものや怖いものを克服させるより、環境を変えたりして避けたほうが犬の負担が少なくて済みます。平穏な暮らしが送れるようにいたわってあげてください。
寝る時間が長くなりますが、楽しいやりがいとして散歩や遊びを続けましょう。柴犬の場合、飼い主さんが盛り上げようとしてもしらけてしまうことが多いので、犬らしさを発揮できる「ノーズワーク」などの遊びがおすすめです。
人と犬が対立しないしつけで良い関係をつくる
家庭犬のしつけで大切なことは、日常生活の中で飼い主さんと犬が同じ価値観で暮らせるように教えること!良い関係をつくることがしつけであり、オスワリなどの指示が必要なのは暮らしの中のごく一部です。
「人にとって不都合だから叱る」ことはしつけ(=意図した方向に行動傾向を変えて行くこと)にはなりません。好ましい行動を見逃さずに強化する(=ほめて報酬を与える)ことがしつけの基本です。「やりたくない」と言う犬と「やりなさい」と言う人で対立関係が生じやすいので、犬と飼い主さんが同じ気持ちで暮らせるように心がけてくださいね。
ほめるしつけ(モチベーション・トレーニング)はすべての犬に共通ですが、モチベーションになるものは個々の犬によって違います。それぞれの個性に合う方法で実践することが重要です。柴犬に合うモチベーションになるものを探さずに「頑固、飽きっぽい、そっけない」とレッテルを貼っていませんか?まずは柴犬の特性を理解することから始めましょう。
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- 監修:山下國廣(やました・くにひろ)
- 獣医師、軽井沢ドッグビヘイビア主宰。科学的なアプローチと犬の立場に立った発想で人と犬のコミュニケーションをサポート。家庭犬の問題行動治療、しつけ方指導、トレーニング指導のほか、里守り犬(モンキードッグ)など野生動物対策犬の育成指導も行う。愛犬のすぐり(甲斐犬)を日本犬初の救助犬に育てて多くの現場に出動した
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