おもちゃと格闘中! よくよく見ると床が剝がされている!?(お母さん提供)
おもちゃと格闘中! よくよく見ると床が剝がされている!?(お母さん提供)

愛したいのにうまくいかない 1歳になってもギャンぼえするポメラニアンにもう限界

 人に犬にバイクに爆ぼえし、夜明け前からケージでほえ続け……。とにかくほえまくるポメラニアンの子犬。もう少し成長したら、1歳になったら落ち着くんじゃないか? と希望をもちつつ育てていたが、ますますエスカレートして1歳を迎えてしまった。

 UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の激アツ店長こと高橋信行さん、中目黒の駅前で叫ぶ。

「子犬の1日1日はとても大事。悩んだらすぐに相談してほしい」

困った行動フルコースのポメラニアン

「先にワンちゃん、お迎えしようか」

 結婚が決まっていたものの、コロナ禍の影響で挙式を延期せざるを得なくなった。結婚したら犬と暮らそうと決めていたカップルは、挙式のためにとためたお金で念願のワンコを探すことに。

 お母さんは実家で暮らしていたころ、チワワを飼っていた経験があったため、当初はチワワをと考えた。早速ブリーダーに会いに行ったが、あまりピンとくる子がいない。すると、そのブリーダーではポメラニアンの子犬も扱っていた。「そのことを知った夫が急に『オレ、ポメラニアンがいいな』と言い出したのです。実は以前から動画などでポメラニアンがかわいいと思っていたみたい」とお母さん。そこに1匹のポメラニアンの男の子が連れてこられた。

「きなこのおはぎみたいで、顔はちょっとブチャイク(笑)。でも夫はその瞬間、『この子がいい!』と陥落していました」

 お父さんが押し切る形でその子に決め、月齢2カ月でおうちにお迎えした。

ブチャイク? いえいえ超絶かわいい! でもほえも超絶級で……(お母さん提供)

 名前は「たぬ」に。「見たまんま、たぬきみたいだったので(笑)」とお母さん。自分の責任で育てるのは初めてだったが、「当初は夜鳴きもしないし、こんなに手がかからないんだ、よかったと思っていました」。ところが、月齢3カ月を迎えた途端、たぬくんは「覚醒」する。

 ほえる、手をかむ、引っかく、床をはがす、壁紙をはがす、お母さんの髪の毛を引きちぎろうとする、頭皮を掘りまくる……と困った行動フルコース! ストレスがたまっているのかもとは思ったものの、まだワクチンが終わっていなかったためお散歩に出かけることもできない。

「子犬ってこんなものなの? もう少し成長したら落ち着く? それすらもわかりませんでした」

 たぬくんの困った行動は加速していく。お母さんが仕事から戻るとケージの中でうんこまみれに。慌ててお風呂に入れると、嫌がって暴れ、かみつく。ようやく終わってお母さんが疲れからちょっとウトウトしようものなら、床剝がしに勤しむ。ケージの中に入れると、30分後にはあきらめて静かになるが、その30分間、たぬくんはほえ続けた。

 何よりしんどかったのが、朝のほえ。5時30分になるとワンワンほえる。寝る時間を遅くすればと思いきや、深夜まで粘っても5時半きっちりにほえ始めた。

「集合住宅で暮らしていたので、苦情が来るんじゃないかと毎日ヒヤヒヤしていました」

「ママ、寝ちゃダメー!」とほえる、床をはがすたぬくん(お母さん提供)

成犬になれば落ち着く?

 お母さんはプロを頼ることに。オンラインでアドバイスするトレーナーに相談したところ、たぬくんが問題行動をとったときに、ビー玉を入れたペットボトルを気づかれないように投げる、いわゆる「天罰方式」を指導される。

「ペットボトルを投げて大きな音がすると、確かにたぬは驚き、動きを止めました。効いた、これでたぬをコントロールできる! と思ってしまいました」

 ところが、たぬくんはとても頭がよく、すぐにお母さんが投げていることに気がついた。さらに、ペットボトル自体に嫌な感情を持ってしまったのか、天罰用以外でもペットボトルを見ると怒ってうなるように。

 月齢5カ月、ようやくワクチンが終わりお散歩デビュー。「ストレスを発散して少しは落ち着いてくれるかも」と期待したお母さんだったが、落ち着くどころか新たな悩みが増えることに。

「人、自転車、バイク、車、すべてにほえまくってほとんど歩けない。郵便局のバイクが一番嫌いみたいで『許さねーよ!』とばかりにギャンぼえしました。ほかの犬を見かけるとフセして臨戦態勢、近寄ればほえる。結局、人も犬も通らないような静かな裏道を、真夜中に人目をしのんでコソコソお散歩するようになりました」

 去勢をすると落ち着くと聞き、月齢6カ月になってすぐに手術。1日だけおとなしかったが、翌日からは元通りに。それまではドッグランでは大きな子におびえていたが、月齢7カ月、自分の脚が速いこと、気が強いことに気づき、周りの子をほえながら追いかけまわす。「嫌がられるので、ドッグランなのにリードでつなぎとめておかなければなりませんでした」

 こうして、あっという間にたぬくんは1歳になっていた。「成犬になると落ち着く、という話も聞きましたが、まったくそんな様子はなくて……」

あっという間に立派な成犬に(お母さん提供)

とうとう事件が起こる

 高橋店長は、常に「子犬育てに困ったら、できるだけ早く、月齢6カ月までにはカウンセリングを受けてほしい」と言い続けている。「甘がみしたり、分離不安でほえたりする子犬はたくさんいます。しかし、歯形がつく、血が出るほどかむ子は、間違いなく強い。早くプロの手を借りた方がいい。迷わずにカウンセリングを受けてほしい。子犬の時期の1日はとても重要なのです」

 たぬ家ではさらに大きな出来事が。都心から郊外の一戸建てに引っ越ししたのだ。新しい環境、新しい家に戸惑ったたぬくん。朝のほえが早朝4時からになってしまった。近所から苦情が来ないか不安な上、お母さんは十分に寝ることができないので体力的にもしんどかった。

「新しい家にはリビングに大きな窓があるのですが、人や車が通るとたぬがほえるので、昼間でも雨戸を開けることができない。小さな庭もあるのに、そこにたぬを出すこともできない」

 なんとかお散歩に行けた「暗闇の裏道」もなくなり、八方塞がりに。「たぬのことはすごくかわいいんです。でも、どうしていいのかわからない。ときどき憎たらしいとすら思ってしまう自分が嫌で嫌で……。たぬの中に『天使と悪魔』がいるような、そんな複雑な気持ちでした」

この笑顔、天使? 悪魔?(お母さん提供)

 1年以上もそんな暮らしが続いたある日、事件が起こる。

 その日はたぬくんを連れてアウトレットモールに遠出することになっていた。楽しみにしていたお母さんだが、たぬくんは早朝にほえ始め、何かを察したのかいつもよりさらに落ち着きがない。眠い目をこすりながら準備し、いざ出発。アウトレットでカートに乗せると、たぬくんはすれ違う人に爆ぼえし、お母さんを困らせた。

 ところが、さすがに疲れたのか、たぬくんがウトウトし始めた。普通ならほほ笑ましい姿。しかし、1年以上悩みに悩み続けたお母さんは、その光景にイライラが爆発してしまった。

「たぬのせいでこんなに苦しんでるのに!」

 感情を抑えきれず、号泣した。もう心も体も限界だった。「たぬから離れたい。そう言いながら泣き続けました」

 たぬくんがかわいい、愛したい。なのに全然うまくいかない、どうしたらいいのかわからない……。お母さんは、深刻な育犬ノイローゼに陥っていた。

 後編へつづく(12月26日公開予定)

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高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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