ケージから出ると飼い主の手足にかみ付く子犬 心も傷つき育犬ノイローゼ

幼い息子さんには近寄らせれなかった(お母さん提供)

 犬と暮らしたい、でも衝動買いはしたくない――。何度も何度も家族会議を重ね、ようやくお迎えしたスコティッシュテリアの子犬。一見おとなしそうに見えたが、ケージから出すとガブガブと家族を傷だらけに……。

 UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の激アツ店長こと高橋信行さん、中目黒の駅前で叫ぶ。

 「子犬は一日一日が大切。困ったなら、悩んで苦しんでいるなら、すぐに行動を!」

環境が整った、あとは出会いを待つだけ

「なんか……あの子だけボーッとしてない?」

 家族で訪れたペットショップ。多くの子犬が小さい体をいっぱいに使い必死にアピールしてくるのに、真っ白なスコティッシュテリアの子犬は寝起きなのか、ぼんやりとしていた。 

「その様子が何だかすごく気になってしまって。それから4、5回お店に行ったのですが、いつもボーッとしていたのです」

 お母さんは、3年前のその日のことをそう振り返る。

 犬を飼うことはお母さんのたっての希望だった。「実家でカニヘンダックスと暮らしていました。結婚、出産を経て、夫と息子とのこの家にも犬を迎えられたら、と考え始めたのです」。しかし、共働きなのでお留守番が多くなってしまう。子どももまだ小さい。なかなか一歩が踏み出せないでいた中、コロナ禍が猛威を奮い始めた。

「仕事がリモートワークになり、今後コロナが収束してもリモートという働き方を続ける、と会社が決定を下しました。ちょうど息子も小学校に入学し、ようやく犬を迎えられる環境が整ったのです」

 最初は保護犬を迎えることを考えた。団体に問い合わせるが、なかなか条件が合わず審査を通らない。「いい出会いがあれば、と思っていたので、焦らずにその出会いを待とうと、いったん犬を探すのを諦めました」

手足にかみ付く子犬に育犬ノイローゼ

 コロナの感染拡大で遊びに行くこともできない日々。ストレス解消も兼ね、家族で散歩に出かけた。その途中、ふらりと立ち寄ったペットショップ。それが冒頭のシーンだ。

 散歩のたびに様子を見に行くと、周りの子犬たちがどんどん売れていく中、スコティッシュテリアの子犬はまだ残っていた。思い切って抱っこさせてもらうと、おとなしくお母さんの腕の中におさまり、うれしそうな様子も見せた。

「すっかり心を奪われてしまいました。でも、衝動買いは私たちにとってもこの子犬にとってもよくない。一度冷静になろうと、後ろ髪を引かれながら帰宅しました」

 それから幾度となく家族会議を重ねた。実は、お父さんはそこまで乗り気ではなかった。以前、ペットとの別れを経験し、それがあまりにもつらかったという。お母さんは必死に説得し、何度も何度も話し合った。その間も売れてしまったのではとショップに電話をして確認すると、子犬はまだ売れていないという。1カ月後、ようやくお迎えを決めた。

 白い子犬は「福すけ」と名付けられた。念願の犬との暮らし。ところが、想像もしていなかった日々が始まった。ショップにいたとき同様、ケージの中ではボーッとしているものの、出すとひょうへん! 激しく興奮し、お父さんとお母さんの手に足にとガブガブとかみ付いたのだ。

「福すけは遊びたくてじゃれてるつもりなのかもしれないのですが、まだ月齢4カ月ほどの子犬なのに乳歯がとても大きくて鋭く、かまれるととてつもなく痛かった。私も夫も傷だらけになってしまって……」

 このままではいけない、ちゃんと教育しなくちゃ!とお母さんは焦り始める。 体力が有り余っているに違いないが、ワクチンが終わっていないためまだお散歩に行くことはできない。お母さんはネットの情報などを頼りに、家の中で遊ばせたり、しつけをしたりと試みる。しかし、福すけくんは体力底なし、疲れた様子を見せない。もちろん、かみもまったく治らない。

 お母さんは、腕だけでなく心もどんどん傷ついていった。

「息子の子育てでもこんなに悩んだことはなかった。完全に育犬ノイローゼに陥っていました」

「噛まれるのが怖くてケージに入れる時間が増えていきました」(お母さん提供)

私が飼いたいと言い出したせいで…

「寝ないで暴れる」がUGに来る子犬あるあるだが、福すけくんはケージの中にいるときは相変わらずボーッと静かにしているし、寝てもくれた。「困るほどの無駄吠えはなく、1匹でいるときは静かにできる。なのに、家族と一緒の空間に来ると暴れてかみまくる。その理由がまるでわからなかった」。苦肉の策で、家具などのかみ防止のための苦い味のスプレーを自分の手足に塗りまくった。しかし、福すけくんはお構いなしにガブガブっ!

「正直、命の危険すら感じてしまうほどでした。幼い息子とは決して同じ空間にはいさせられない」

 心労から眠れない日々が続いた。何よりつらかったのが、家族の顔を見ること。思っていた子犬との生活とはまるで違う状況に、お父さんも息子さんも笑顔を失ってしまった。

「私が飼いたいと言い出したせいでこんなことになってしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいになりました」

ケージの中だとおとなしいけれど……(お母さん提供)

 追い詰められたお母さんは、泣きながら実家に電話をする。ただならぬ様子に驚いたお母さんの母親が「このInstagram、読んでみたら?」と教えてくれたのが、UGのアカウントだった。

 一気に心をつかまれたお母さんは、過去の投稿、さらに高橋店長のブログを、徹夜ですべて読み漁った。「こんなふうに悩んでいるのは自分だけだと思っていたのです。でも、同じように子犬育てで悩んでいる飼い主さんがいると知り、救われた思いでした」

 朝を迎えるころには、心が決まっていた。

「この人しかいない!」

 起きてきたお父さんにすぐに相談し、一日半かけて説得。UGに連絡をして現状を説明すると、電話口の店長は「できるだけ早く連れてきてください」。カウンセリングを受けるため、お母さんは福すけくんを連れ中目黒へと向かった。

ケージから出ると、遊びたくてガブガブっ!(お母さん提供)

後編へつづく(9月26日公開予定)

高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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