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もの言えぬ動物たちを代弁し守っていく 「どうぶつ弁護団」始動します【前編】

 ペット関連の法律に詳しい細川敦史弁護士が、飼い主の暮らしにとって身近な話題を法律の視点から解説します。

 2022年9月、細川弁護士は動物虐待事件について捜査機関に対する刑事告発などを行うNPO法人を設立しました。法人の名称は、「どうぶつ弁護団」(英語表記:Animal Defense Team)。

 前編と後編に分けて、今回は設立に至る経緯について、次回は事業の概要について、それぞれ紹介していただきます。

動物虐待事件を刑事告発してきたこれまで

 私は、15年くらい前から、動物虐待事件を発見した市民や動物ボランティアの相談を受け、警察に適正に捜査してもらうために、代理人弁護士として刑事告発をしていました。一般市民やボランティアが通報や相談をしても、警察が対応してくれないとか、本当に捜査をしているのかどうかわからない―と相談者の皆さんは口をそろえて言っていました。

 弁護士の業務として、犯罪被害にあった人や企業の代理人として、警察などに刑事告訴をすることがありました。そのノウハウや経験をいかして、公園や私有地などで主に猫などの動物が殺され、傷つけられた事案について、個人ボランティアや小規模な動物愛護団体の依頼を受けて、刑事告発をしていました。年に1、2件程度であったと思います。

全国から集まる相談への対応

 ご承知のとおり、ペット問題を取り扱う弁護士は多くはなく、その中でも、動物虐待の告発手続を何度もやったことがある弁護士となると、全国でもほとんどいなかったのではないかと思います。

 そのため、関西エリアにとどまらず、東京など遠方の動物愛護団体からも、兵庫県にある私の事務所に相談があり、殺傷、虐待、遺棄事件の告発代理をやるようになっていきました。関西圏以外の事件を思い返してみると、北海道、青森、福島、埼玉、栃木、群馬、長野、福井、愛知、沖縄などがあります。ときにはこれら遠方の警察署に出向き、警察担当者の顔を見ながら事案を説明し問題性を訴えるなどしていました。

弁護士費用の負担をさらに軽減できないか

 そのような中、心に引っかかっていたのは、弁護士費用の負担の問題でした。虐待事件の相談を聞いて、あまりのひどさに義憤を感じつつも、無料ではできないため、人の告訴事件に比べて大幅に減額した費用で依頼を受けることで、バランスを取っていました。

 とはいえ決して安くはない弁護士費用は、個人の動物ボランティアや、動物愛護団体といっても実質は1人で運営しているところや、動物の保護活動をやっていてたくさんのお金が必要な団体などが支出していましたが、一方で、告発をして被疑者が処罰されるなどしても、彼らには1円も入ってくることはありません。

 このある種不平等な状態を何とかできないだろうか、というモヤモヤを抱きつつも、私も普段の弁護士業務に支障がない範囲内でしか対応できないし、所属弁護士会の役員に就任して本業の時間も取れない年もありましたので、そのままになっていました。

動物愛護問題についての取り組みが始動

 どうぶつ弁護団の構想が徐々に動き始めたのは、兵庫県弁護士会の中で、動物愛護の問題について取り組みを始めたことが大きな転機となったように思います。官民の保護施設を見学したり、多頭飼育問題や動物虐待の問題について弁護士が一緒に勉強したり。その中で、動物虐待事件を私と共同で受任してくれる弁護士が現れました。

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 そのようなよい流れの中で、2021年9月に市民シンポジウム「人と動物の共生社会をめざして」を開催しました。動物愛護をテーマとしたシンポジウムは、兵庫県弁護士会において初めての試みでした。

 Evaの杉本彩理事長から具体的な虐待事例を報告いただき、弁護士会の津久井進会長(当時)と獣医師会の中島克元会長をパネルディスカッションの壇上で引き合わせ、「このような現状についてどう思いますか?」と問いかけました。結果は、『動物の問題に弁護士会がもっと深く関わる必要がある』『いろんな専門分野の方々が一つのテーマのためにつながって情報交換することに勝る力はないと思う』といった前向きなコメントをいただきました。

「どうぶつ弁護団」プロジェクトチーム発足

 このシンポを受けて、弁護士会内でどのような仕組みで対応していくかを考えていくこととなり、プロジェクトチームが発足しました。このチームに手をあげて関わってくれた弁護士が、十数名いました。忙しい中、多くの弁護士がリモートで集まってくれて、十数回の会議を重ねました。

 当初は、弁護士会の中に対応窓口を設置することも考えましたが、結果として、外部にNPO法人を立ち上げることとしました。兵庫県内で弁護士会と緊密に連携している外部組織は、犯罪被害者、消費者被害、こどもシェルターの分野で既に存在していて、これらの仕組みも非常に参考になりました。

 NPO法人の設立総会の前には、弁護士だけでなく、獣医師会の中島会長が理事に参画してくださることになり、名実ともに弁護士と獣医師の連携組織となりました。今後、獣医師はもちろん、医師や研究者など、広い分野の専門家とも連携し、力を借りていきたいと思っています。

 2022年10月には、再び、兵庫県弁護士会主催の市民シンポジウム「動物虐待事件の実効的対応を考える」を開催しました。Evaの杉本理事長を再びお招きし、どうぶつ弁護団設立の推進力となった勝又陽香弁護士による事業説明という形でお披露目もでき、ありがたいことにNHKをはじめメディアの反応も上々でした。

一つひとつ誠実に取り組んでいく

 もの言えぬ動物の代弁者としての「どうぶつ弁護団」、若干大きく出た感はありますが、立ち上がったばかりの小さな組織です。虐待されている動物のレスキューや、即時の対応など「できないこと」があり、皆様の期待に沿えないこともあると思います。それでも、我々だからこそ「できること」を、一つひとつ誠実に取り組んでいくことで、これまでになかった、意義のある活動ができると確信しています。

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 どうぶつ弁護団は、「動物虐待の防止」を目的としていますが、その先には、人(とりわけ弱者)にもやさしい社会がつながっていると思います。動物虐待の防止は、動物愛護関係はもちろん、動物病院関係、ペット業界を含め、どんな立場の方であってもご賛同いただけるテーマではないかと思っています。

 ようやく12月1日からホームページを公開します。こちらで情報提供をしていただくことができます。なお、情報提供者からは、費用はいただきません。

 どうぶつ弁護団、多くのみなさまに、末永く応援していただけるとありがたいです。

【前の回】「抱っこさせたら勝ち」 衝動買いを促進するペットショップ そろそろ見直しを

細川敦史
2001年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。動物に対する虐待をなくすためのNPO法人どうぶつ弁護団理事長、動物の法と政策研究会会長、ペット法学会会員。
この連載について
おしえて、ペットの弁護士さん
細川敦史弁護士が、ペットの飼い主のくらしにとって身近な話題を、法律の視点からひもときます。
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