山の家でひとりと2匹で隔離されるの巻
山の家でひとりと2匹で隔離されるの巻

犬たちの優しい気遣いとスパルタリハビリ 山の家でひとりと2匹で隔離されるの巻

 先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。

(末尾に写真特集があります)

別行動したのに二人とも倒れる

 8月の上旬、新型コロナウイルスに感染した。まず妻が発熱したものの軽症だったので、私と大吉と福助で山の家に避難したのだが、翌日に発熱した。大福のためにも二人で倒れるわけにはいかないと別行動したのに、結果的に別々の場所でそれぞれ倒れる結果になってしまった。

 朝、抗原検査キットで陽性だった段階ではそれほど熱もなく、のどに違和感がある程度だったのだが、そこからみるみるうちに体調が悪くなり、数時間後にはベッドに倒れ込んだ。寒気がすごく、その一方で体温がぐんぐん上がっていくのが分かった(山の家に体温計がなかったが、経験的に39度くらいはあったと思う)。

 猛烈な倦怠(けんたい)感で、動けない。でも夕方の散歩には行かないと……、どうしよう。意識がもうろうとしてくる中で、そんなことがぐるぐる頭を回っていた。そのときの大福は、明らかに何かようすがおかしいと分かっているようで、いつもなら私がベッドに寝転ぶと隣で伸びて寝ているのだが、伏せをした状態で全然リラックスしていなかった。そんな彼らをたまに横目で見ながら、「すまん、動けないんだ」と布団をかぶっていた。

空気の変化に敏感な大吉

私を気遣ってか

 しかしすごいもので、夕方の散歩の時間になると無理やり起きて、彼らを家の前にあるドッグランに出した。「悪いけど、今日はその辺で用を足してくれ」と思っていると、本当にその通り、大吉も福助もドッグランで用を足してスタスタと戻ってきてくれた。

山の家の前に作ったドッグラン

 その後、またベッドに倒れ込んだが、大福は変わらずそばにいた。このままではまずい。でも薬もないし、彼らを残して病院にも行けない、そもそも運転出来る状態ではないし、どこへ行けば診てもらるのか調べる気力もなかった(救急車を呼ぶレベルではないと思っていた)。

 そうなると、自力でなんとかするしかない。そこで私がいつも風邪で熱が出たときにやることを試してみる。それは厚着して寝て汗をかいたらタオルで拭いて着替える、それをひたすら繰り返す。あとは飲めるだけ水を飲む。

 最初はパーカーを重ね着したが、寒気が勝って汗をかかない。仕方なく、冬用のインナーを2枚重ね着してみると、うっすら汗をかいてきた。時間の感覚もあいまいになってきて、今が何時ごろなのかも分からなくなってくる。それでも少し汗をかいたら着替えて水を飲むのをひたすら繰り返した。その度にちらっと大福を見ると彼らは起きていて、「どうしたんだろう」という不安そうな顔で見ていた。

いつも空気を読まない福助が今回は異変に気づいていた

熱が下がっても倦怠感で動けない

 寝たのか寝ていないのか分からない状態が一晩続き、何度も何度も着替えて朝になる頃には熱が少し下がっているのが分かった。しかしのどが痛く、倦怠感で動く気力すらなかった。食欲も一切なく、何も食べる気にならない。

 しかしまたすごいことに、「散歩に行かなくては」という使命感だけで起き上がり、大福を連れて外に出た(山の家は別荘地で人とはほとんど出会わない)。ただ相当体力を消耗したのか、ちょっとふらふらする。そんな様子を気遣ってくれたのか、大福ともに家のすぐ近くでウンチをしてくれた。

 帰宅すると、彼らの手作りゴハンを作る体力がないので缶詰を出し、また横になる。ほぼ平熱になっているはずだが、ほとんど動けない状態が二日ほど続いた。その間もゴハンや短い散歩といった最低限のことはしたが、彼らが不満そうな顔をすることはなく、ひたすら私のそばにいた。食欲は相変わらずなかったが、非常食としてあったレトルトのお粥を温めて食べた。

回復しても本を読む気力がなくネトフリを見まくっていた

歩けないのに歩かされる苦行

 そしてようやく3日目になる頃、少し動ける気力と体力が戻ってきたが、のどは痛いままで食欲もなかった。人間、たった二日寝込んだだけでかなり筋力は落ちるものだと実感した。倦怠感が残っていたせいかもしれないが、スタスタ歩けないし、体が重い。

 そんな日の夕方だった。散歩に行くと、分かれ道で福助が「そっちじゃない、こっちに行きたい」と踏ん張る。彼が示したのは上り坂だった。「え? そっち? 俺まだ辛いんだけど」と言っても頑として譲らない。

「しそうでしない病」発令中

 これはいつもの散歩でよくあることで、スムーズにウンチをする大吉とは違い、福助はウンチをする場所にこだわりがあるらしく、スタスタ歩いてウンチングポーズになっても「何かが違う」とまた歩き出すのを延々とやることがある。この「しそうでしない病」を今? という感じだった。

 仕方なく上り坂に付き合うのだが、私のことなど構わずぐんぐん登っていく。変な汗がダラダラ出てくるが、それでも彼は進む。結局、別荘地内の山道を1時間くらい歩かされた。帰ったときにはヘトヘトで、しばらく横になるくらいだった。

 ところが、翌朝もまた「しそうでしない病」を発令し、1時間ほど歩かされた。「もういい加減にしてくれよ」と思うのだが、ウンチをする方が重要だから諦めて付き合う。夕方の散歩でも同じ。すると不思議なもので、次第に体力が戻ってきた。1日1食お粥ばかり食べていたが、ちょっと空腹を感じるようになる。

こんな坂道を1時間歩かされる

大福のおかげ?

 思いがけず長いお盆休みになってしまったが、盆があける頃には見事に復活した。食欲も戻り、一週間ひと口も飲めなかったビールをうまく感じるほどまでになる。

 それにしても不思議なものである。本当に動けないほど辛くても、大福のことになるとどこかから力が湧いてきて、むくっと起き上がれたのだ。火事場の「犬力」というやつだろうか。さらに、散歩で否が応でも歩かなければいけないので、体力の回復が早かった。

 結果的に、福助による強制リハビリだったことになるのだが、果たして本人はそんなことを意識していたのか。いずれにしても常に優しい目ですんなりウンチをしてくれた大吉とは違い、福助はスパルタなんだなと思う。でもありがとう。

今回の回復に大きく貢献した人

【前の回】彼らがいるから頑張れる 犬は本当の「心の友」ではないだろうか

穴澤 賢
1971年大阪生まれ。フリーランス編集兼ライター。ブログ「富士丸な日々」が話題となり、犬関連の書籍や連載を執筆。2015年からは長年犬と暮らした経験から「デロリアンズ」というブランドを立ち上げる。2020年2月には「犬の笑顔を見たいから(世界文化社)」を出版。株式会社デロリアンズ(http://deloreans-shop.com)、インスタグラム @anazawa_masaru ツイッター@Anazawa_Masaru

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この連載について
悩んで学んだ犬のこと
先代犬は富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らす穴澤賢さんが、犬との暮らしで実際に経験した悩みから学んできた“教訓”をお届けしていきます。
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