ムキッ歯は平和的解決の合図 飼い主をかむ、家族にうなる柴犬の問題行動の理由は?
柴犬に見られる最も深刻な問題行動は、飼い主さんをかむことです。最初は飼い主が柴犬に愛情深く接していても、かまれ続けているうち恐怖に変わり、家族も犬も不幸な結果になってしまうことも少なくありません。
かむ問題が多いことから「柴犬は難しい」といわれることもあります。「柴犬は昔から日本人にとって身近な犬。本来は飼いにくい犬種ではないはずです」と獣医師の山下國廣先生。柴犬が飼い主に対してかんだりうなったりする理由を知っておきましょう。
かむ問題にはマイナスの感情がこめられている
犬は口を使ってコミュニケーションや意思表示を行うので、攻撃ではなく親愛の表現でかむこともあります。柴犬の飼い主さんから最も相談が多い問題行動は、マイナスの感情でかむこと。まずは柴犬が飼い主さんをかむ理由を「友好的」「感情を込めていない」「対立的」という3つに分けて紹介します。
●対立的なマイナスの感情のかみ
1.身体防御のかみ
犬がさわられたくないときや身の危険を感じたときに、反射的に歯を当てたりかんだりすることがある。飼い主さんにとっては大したことがないように見えても、犬が脅威を感じればかむ。
2.物や場所を守るかみ(資源確保攻撃)
犬が食べているガムや気に入っているソファなどを守るために、近づいてくる人を攻撃する。
3.衝動制御障害による攻撃
生まれつき感情をコントロールできない犬に見られる。わずかな不安や不満で全力でかむ場合は間歇性(かんけつせい)爆発性障害の疑いがある。動物行動診療を行う獣医師の治療が必要になることもある。
飼い主さんから「急にかまれた」と相談されることもありますが、大半の柴犬は事前にうなったりほえたりするいかくのサインを出しています。いかくが多い場合、飼い主さんと対立関係になっているので要注意。あまり問題視されませんが、かまなくてもうなることがあるなら、本記事を参考に柴犬への接し方を見直す必要があります。
>犬がかむ理由について詳しくはこちら
「ムキッ歯」ってかわいい?
「足を拭きたい飼い主VS足を拭かれたくない柴犬」「帰りたい飼い主VS帰りたくない柴犬」「嫌がる柴犬VS嫌がらせをする飼い主」……といった日常的に見かける出来事は、柴犬と飼い主さんと対立関係の現れ。この“柴犬あるある”の積み重ねが問題行動を引き出します。
歯をむき出してうなる顔を「ムキッ歯」などと呼んでSNSに上げているのを見かけますが、これはかむ前のいかく行動です。
人から見れば大したことではなくても、犬がやってほしいと思っていないことや脅威を感じることを無理強いしようとしたときに見られます。この段階での相談は少ないのですが、飼い主さんが対応を変えなければかむようになることもあります。
「かまないで済ませたいからやめてほしい」と犬が平和的解決を望んでいるサインなのに、飼い主さんがやめなければ攻撃せざるをえなくなってしまいます。最近の柴犬のなかには豆柴と呼ばれる小さい犬もいるので、歯をむいても危険なサインには見えないのかもしれませんね。しかしかむのを我慢してくれている場合も、犬にとってはストレス。相手が嫌がることをしてからかうのは「いじめ」と同じなのです。
じつは柴犬以外の日本犬の飼い主さんからは「ムキッ歯」を楽しんでいる話をほとんど聞きません。柴犬の飼い主さんもまずは犬のサインに気づいてほしいと思います。
柴犬が飼い主をかむ問題が増えた理由
柴犬が飼い主さんをかむ問題が増え、「柴犬は難しい」と言われることがありますよね。しかし昔から日本人にとって身近な犬だったことを考えると、本来はむしろ飼いやすいはず。2000年代以降、外飼いから室内飼いが増え、飼い主さんの接し方が変わったことが問題行動の増加につながっていると考えています。
外飼いのころに飼い主さんが柴犬と接するタイミングは散歩や遊び、ごはんの時くらいで、基本的に柴犬にとって良いことしか起きません。しかし室内飼いは飼い主さんと四六時中一緒に過ごすため、柴犬が望まないことを強いる場面が多くなったことがかむ問題が増えた理由ではないでしょうか。
さらに柴犬が生まれつきもっている性質と、生まれてから経験した出来事も、飼い主さんをかむ行動が出やすい原因になります。
●生まれつきもっている性質(先天的)
・サバイバル能力
野生動物が生き残るためにもっている素質で、自分の身を守るための能力のこと。野生の本能を強く残す柴犬にも受け継がれている。
・ブリーディングの弊害
姿形を重視して性格を考慮しない繁殖によって、異常に攻撃的な犬が生まれている。姿形が良い犬のなかにはやたらとかむ犬もいる。
●生まれてから経験した出来事(後天的)
・飼い主との対立
柴犬が必要と思わないこと、してほしいと思わないことを飼い主が無理強いすることで対立関係になる。柴犬が身を守るためにかむことにつながる。
・誤ったしつけ
子犬のころに甘がみを叱ったり、うなったときに体罰を与えたりする誤ったしつけが柴犬の攻撃性(サバイバル能力)を引き出してしまう。
柴犬にかまれやすい人の特徴
柴犬にかまれて悩んでいる飼い主さんの話を聞くと、5つの特徴に当てはまる人が多いと思います。
(1)愛情を押しつける
柴犬を愛するあまり過剰にスキンシップをしたり抱きしめたりしている人。柴犬は子どもから大人へと成長する犬種なので、成長に伴い接し方も変える必要がある。犬が望まないことはセクハラ・パワハラ・いじめにつながる。
(2)社会化トレーニングの不足
子犬のころは保護者の世話が必要なので接触に対して寛容だが、成長に伴い嫌がるようになる。年齢とともに保護者とのスキンシップは減っていくのは人もまったく同じ。触られる、抱き上げられる、足を拭かれることに慣れる社会化トレーニングが不足すれば、接触に対して嫌悪感が強くなる。
(3)威圧的・暴力的にしつける
マズルをつかんだりひっくり返したりする誤ったしつけ方をしていると、柴犬の攻撃性を引き出してしまう。柴犬は拘束(長時間続く苦痛)に対しては、叩かれる(一瞬の苦痛)以上に嫌悪感を覚える。また、家族が威圧的・暴力的に接していると、そのようなことができない人に対して、逆に犬が威圧的・暴力的な態度をとるようになる。
(4)愛犬に対してびくびくしている
びくびくした接し方は犬から見れば不審に見えるため、かまれやすくなる。
(5)犬にかまれやすい生活環境
犬がうなったりかんだりする場面をわかっていながら、生活環境をそのままにしている家庭では問題が悪化していく。たとえば、食べているときに近づくとうなるなら近づかなくて済む環境をつくる。
かむ理由に合わせて対処法を考える
柴犬がかむ理由や、かまれやすい飼い主さんの特徴を把握できたら、改善を目指して対処を始めましょう。次回の記事では、柴犬にうなったりかまれたりしやすい場面に合わせて解説します。
【前の回】柴犬が苦手な足拭きやブラッシングの慣らし方 ケアを受け入れてもらうトレーニング
- 監修:山下國廣(やました・くにひろ)
- 獣医師、軽井沢ドッグビヘイビア主宰。科学的なアプローチと犬の立場に立った発想で人と犬のコミュニケーションをサポート。家庭犬の問題行動治療、しつけ方指導、トレーニング指導のほか、里守り犬(モンキードッグ)など野生動物対策犬の育成指導も行う。愛犬のすぐり(甲斐犬)を日本犬初の救助犬に育てて多くの現場に出動した。
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