「猫の楽園」青島のリアル 過去に“島まるごと多頭崩壊”の危機、迫る無人島化のとき
瀬戸内海に浮かぶ人口5人の小さな島、青島。別名「猫の島」とも呼ばれ、約100匹の地域猫たちが、美しい自然の中で自由気ままに暮らす「猫好きのための楽園」として、世界中から注目を集めている。
一方で、現在島が過疎化し無人島化の危機にあることや、過去に増えすぎた猫たちの管理が行き届かず、”島まるごと多頭飼育崩壊”の危機にあったことはあまり知られていない。
この記事では、2015年から青島の猫たちのTNRやケアに取り組む「青島猫を支援する会」関係者を取材し、前後、後編の2回にわたってお届けする。前編の今回は、「青島猫を支援する会」(以下、「支援する会」)の瀧野さんに、2018年に行われた青島猫一斉TNRの経緯や、今後の「支援する会」の課題について伺った。
静かな島が「猫の島」に
「もともと青島は、観光地でもなんでもないふつうの島でした。たまに釣り客が訪れるくらいで、島民も静かに暮らしていた。それが、2013年の秋ごろだったでしょうか。突然メディアで『猫の島』として取り上げられて、世界中から猫を見に人が押しかけるようになったんです」
青島は、住所で言えば「愛媛県大洲市長浜町青島」。瀧野さんはその対岸に位置する、同じ大洲市長浜で暮らしていたため、仕事で青島に出向く機会があった。
「島民たちの戸惑いは、ダイレクトに耳に入ってきました。なにせ、ゴミ箱ひとつない島です。ここは、観光客と島の間に入り、ルールをつくる必要があるということで、対岸に住むよしみでSNSで啓発などの情報発信を始めました」
瀧野さんは当時から「支援する会」として青島の猫たちのケアをしていたわけではなかった。
「青島の情報発信や観光客への啓発を行うFacebookページを立ち上げ、私が単独で運営していたんです。そこに連絡をくれたのが、個人で保護猫シェルター『NEKOSUKI』を運営する佐々木一恵さんでした」
この出会いがきっかけで、瀧野さんと佐々木さんは、2015年ごろから青島の猫のTNRとケアに取り組み、2018年に「青島猫を支援する会」を発足する。
数年かけて一斉TNRを実現
「一斉TNRをする前は、昔ながらの考えで、『野良猫は自然に増えて自然に死んでいく。それでなにが悪いんだ』という島民がたくさんいました。でも、観光客が餌を与えるようになり、栄養状態がよくなった猫たちはとめどなく繁殖していった。島まるごと多頭飼育崩壊になるのは時間の問題でした。佐々木さんは島民たちに、島の猫たちに避妊・去勢を施して地域で見守るTNRの必要性を訴え、行政にそのための予算を申請してくれたのです」
しかし、全ての島民がすぐにTNRに納得したわけではなかった。佐々木さんらボランティアメンバーは、島や行政に何度も足を運び、数年がかりで島民を説得。そんな努力が実ったのは、計画から4年近く経ってからのことだった。
2018年10月、ついに島民全員からTNRの承諾がおりると、『公益財団法人どうぶつ基金』の出資と大洲市の協力で、青島の猫の一斉TNRが行われた。当日は瀧野さんや佐々木さんのほか、多数のボランティアが参加し、すでに手術済みの猫と合わせて、211匹もの猫の避妊・去勢を確認。その後は、佐々木さんはじめ、「支援する会」のメンバーが自費で島に通って取り残した猫たちのTNRを行い、現在はほぼ手術済みとなった。
「猫たちも高齢化が進み、ここ数年、子猫はほぼみかけなくなりました。それでも、全く生まれてこないわけではありません。再び猫が増えることのないよう、島の協力者とともに細心の注意を払っていかなければならない状況ですね」
人手が足らず全頭ワクチンができない
TNRという目的をほぼ達成できた今、「支援する会」の活動は猫たちのケアに移っている。高齢化した猫の介護や、けがや病気をした猫の通院・投薬などが現在のおもな活動だ。
「昨年末、島に強力な猫風邪が蔓延したときは、かなりの数の猫が亡くなりました。今は、島の協力者や「支援する会」のメンバーが、症状のある子に投薬したり、重症化した子を医療にかけたりしてほぼ収束したところ。ありがたいことに、SNSで活動報告をしているうちに寄付金が集まるようになり、こうしたケアにかかる費用はすべて寄付でまかなっています。ただ今後、高齢化した猫を見守っていくことを考えると、このような出費は不安ですね……」
マンパワーも課題のひとつだ。現在、島民の中で猫たちの世話をしている方は2人ほど。ボランティアメンバーは10人前後。島には動物病院がないため、通院が必要な猫がいるときは都度ボランティアに呼びかけ、手の空いているメンバーに島に渡ってもらう。
「正直言って、現在のような小規模な活動では、一斉ワクチンも難しい。前回猫たちにワクチンやレボリューションを打ったのは、2年前の一斉TNRの時。目下の私たちの目標は、人手を集めてもう一度全頭ワクチンを実施することなんです」。
「猫の島」ではなく「人の島」
コロナ・パンデミック以前は、世界中の猫好きたちが、島で暮らす多くの猫たちを一目見るために観光に訪れていた。一斉TNRのことがあまり知られていないためか、観光客からは「青島の猫が減った」という声もあるようだと瀧野さんは話す。
「実際、猫の頭数はピーク時の約200匹から半減しました。それでも、100匹ほどの猫たちの健康状態を管理しながら毎日の世話をするのは簡単ではありません。
当たり前のことですが、青島は『猫の島』ではなく、『人の島』です。人がいるから、猫たちが生きていける。そのことにもっと目を向けていただけないかと、私たちは思っているんです」
今、島は特殊な状況にあり、7年前は15人いた島民も5人にまで減った。そのほとんどが70代から80代。島の診療所は廃止になり、医者の往診も数年前になくなって、医療ゼロの状態だ。
「遅かれ早かれ、最後の一人が島を出る日は近づいている。“そのとき『猫の島』をどう終わらせるか”。それを考え、猫たちの最後を見届けるのが、青島に踏み込んでTNRを行った私たちの最後の使命です」
青島は、船の出航が天候によって左右されやすく、特に悪天候での欠航が多い。そのため、人が船で島に通って猫の世話をすることは難しい。今、考えられている現実的な案は、島が無人化する際に猫たちを連れ出し保護・譲渡することだ。しかし、保護団体のツテを使っても、成猫100匹の引き取り先を見つけるのは簡単ではない。「青島猫を支援する会」はクラウドファンディングでの支援も視野に入れ、引き取り先を探していく。
「青島猫を支援する会」公式Facebookページはこちら
(後編は、あす2月19日に公開する予定です。青島の中から見える猫たちの姿や島民と猫の関係について、猫たちの世話を行う島民の方に話を伺います)
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