惚れ込んだ黒柴の子犬に顔を襲われ流血沙汰 しつけに取り組むも叱り方がわからない

黒柴
おうちに来てしばらくすると、ある問題行動が(お父さん提供)

 子ぐまのように真っ黒な柴犬にひとめぼれ。成長する中で、ある行動に悩まされるようになる。柴犬のしつけ本には「主従関係をはっきりさせる」と書いてあり、真面目なお父さんは愛犬に厳しい態度で接する。ところが、問題行動はエスカレートして流血沙汰に……。困り果てたときにインターネットでたどり着いたのが、UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の高橋信行店長のブログだった。

 激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ。

 「なめられちゃいけない、リーダーにならなきゃ……なんて、愛犬と闘わないで!」

(末尾に写真特集があります)

最初はほとんど手がかからなかった

 「犬らしい犬と言えば、やっぱり柴犬!」

 以前から柴犬に思いをはせていたお父さんは、4年前のある日、ペットショップで1匹の黒柴に目を奪われる。顔も体も黒い部分が多く、柴犬の子犬特有のコロコロでまんまる。まるで子ぐまのよう。ほかの子犬たちと一緒に遊んでいても、気づくと遊びの輪から外れてしまうような不器用さにもまた心を射抜かれた。「ひとめぼれでした」。2日間考え、お迎えを決める。

 お父さんはお母さんとともに子どもの塾を運営しているが、自身は子育ての経験がなく、「それもまた犬を飼ってみたい、育ててみたいという気持ちにつながっていったように思います」と振り返る。

 惚れ込んだ黒柴の子犬は、その見た目からショップで「くまごろう」と呼ばれていた。その呼び名をいただき「熊吾朗」と命名。「人懐っこくて天真らんまん。最初はほとんど手がかかりませんでした。しかし……」。お父さんは苦笑いしながらこう続ける。「うちに来て1カ月ほどは」。月齢4カ月を迎えたころから、熊吾朗くんはある困った行動をとるようになる。

黒柴
真っ黒な子ぐまちゃん!(お父さん提供)

顔を襲われ流血沙汰

 きっかけは大好きなオヤツ。豚耳ジャーキーをもらうとケージの中のベッドに隠すようになった。「その様子がかわいくて、しばらく放っておいたんです。ある日ケージから回収しようとしたら、いきなり手をガブっ! といかれました」。また、フードを入れたコングで遊ばせると、取られまいと守るように。取り上げようとすると、やはりガブっ!

「そのうち、ごはんのあとにフードボールを片付けようと手を出してもかみ付かれるようになりました。ほとんどは手や腕でしたが、一度顔を襲われて流血沙汰に……。痛いし、すごくショックでした」

 ごはんやオヤツなどの食べ物に執着し、食事中に近づく、食器を片付けようとすることに対して攻撃的な行動を取る。これを「フードアグレッシブ」と呼び、飼い主を悩ませる犬の問題行動のひとつだ。うなったり歯を剥き出したり、中には飼い主を襲ってしまう犬も。

 長年子どもたちを指導してきた経験から、お父さんは熊吾朗くんのしつけにもどこか自信があった。ところが、フードアグレッシブは日ごとにひどくなっていく。熊吾朗くんはかんだ瞬間、自分でも悪いことをしてしまったと気づくのか、とても悲しそうな顔をして「ごめんね」とばかりに傷口をペロペロ。お父さんは「叱らなければいけないと思いつつ、どのタイミングでどう叱ったらいいのか、まるでわかなかった」と振り返る。

 思うようにいかない、どうしたらいいのかがわからないことに、お父さんは焦りを募らせていく。当時の様子をお母さんはこう振り返る。

「『犬になめられてはいけない、主従関係をはっきりさせて飼い主がリーダーにならなければいけない』と、柴犬のしつけ本に書いてあったことを忠実に厳格に守ろうとして、熊吾朗に対して厳しく接するようになりました。ところが、熊吾朗のフードアグレッシブは直るどころかますます激しくなり、夫は悩みを深めてさらに厳しくなる……。そんな悪循環に陥っていました」

黒柴
フードアグレッシブに加え、取り上げようとすると怒る「たまごちゃんアグレッシブ」も(お父さん提供)

真面目さが逆効果に

 なんとかしなければとインターネットを検索する中で行き着いたのが、高橋店長のブログだった。お母さんが電話で状況を説明すると、店長は「すぐに連れてきた方がいい」。翌週には熊吾朗くんを連れUGへ向かった。熊吾朗くんに、そして自分にどんなダメ出しをくらうか緊張してカウンセリングに臨んだお父さんだったが、「大丈夫。強いけど、すごくいい子ですよ」と店長はニッコリ!

 拍子抜けしてしまったものの、自分に向けられた一言にはハッとしたという。

 「お父さんが闘いすぎです」

 その意図を、店長はこう解説する。

「こうあるべき! こうしなきゃ! と、真面目ゆえにそう思い込み、視野が狭くなってしまっている。そんなお父さんの強い態度に、熊吾朗くんは追い詰められ逆ギレしている――。そう感じたのです」

 熊吾朗くんは1週間の社会化お泊まりに。「正直ホッとしました。自分が思っていた以上に追い詰められていたのだと気づきました」。そう話すお父さんは、その後、自身も驚くほど大きく変わることになる。

遊び方は激しめ。周りの子犬たちもドン引き!?(お父さん提供)

後編へつづく(6月27日公開予定)

(この連載の他の記事を読む)

高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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