人と動物の双方を早期に支援できるコミュニティづくりをめざす キドックス訪問

保護犬と出会えるカフェにその日参加している犬たちの写真と「犬生アルバム」

 不登校や引きこもりの若者たちの自立支援と保護犬の譲渡促進を組み合わせるというユニークなプログラムをおこなっている認定NPO法人「キドックス」。設立から10年目を迎える今年、より深く地域にかかわるために、新たな施設をオープンした。6月初め、さっそく訪問してきた。

認定NPO法人「キドックス」

 茨城県にあるキドックスは、主に茨城県の動物指導センターから引き出した犬たちの世話や基本的なトレーニングを若者たちに担ってもらい、その過程で若者自身の成長を促していくというプログラムを2013年からおこなっている。

 

保護犬「ライム」。これから若者に耳掃除をしてもらうところ

 2018年には、若者たちが就労経験を積み、かつ保護犬と譲渡希望者が出会えるカフェもオープン。

 これまでに60人以上の若者と60頭以上の犬を受け入れてきた。若者はそのうち約半数が進学や復学、何らかの形で就労したりするなどして卒業。犬のほうも、キドックスで保護しているのは元野犬など人に慣れていない犬も多いが、若者たちがじっくり時間をかけて向き合った結果、ほとんどの犬が新たな家庭に迎えられている。

養鶏場周辺を放浪していた元野犬の「コメ吉」。現在は保護犬カフェで新しい家族との出会いを待つまでに

人と動物双方の福祉を実現するために

 キドックスは人と動物両方の福祉をめざす活動を10年近く続けるうち、犬が捨てられる背景には、困っている人が誰にも頼れず孤立している状況があること、生きづらさを抱える若者も、長期にわたって社会的に孤立するうちに、ますます自立が困難になっていくということに気づく。

 そして、人も動物も、問題が起きてから対処するのではなく、問題が大きくなる前に予防する、つまり、できるだけ早い段階で問題を発見して支援につなげ、孤立を防ぐ取り組みが必要だと考えるようになったのである。

 そこで、そのような取り組みの基盤となる地域コミュニティの創出を目標に掲げ、2022年4月29日につくば市にオープンしたのが「ヒューマンアニマルコミュニティセンターキドックス」だ。 

地域コミュニティ創出を実現するための新施設

 3300平方メートルほどのゆったりした敷地には、現在保護犬のシェルター、保護犬と出会えるカフェ、ドッグラン、ドッグカフェがある。近いうちにペットホテル、トリミングサロン、そしてワクチン接種や不妊去勢手術ができる動物病院も始める予定だ。

保護犬と出会えるカフェは優しい木の温もりに包まれている

 若者たちにとっては、ペットホテルやトリミングサロン、動物病院などで働くことは、動物に関するスキルや資格を身につけ、就労の選択肢を増やすことにつながる。

 また、地域の人々にとっては、これらのサービスを利用することでキドックスとの接点ができる。ドッグカフェやドッグランも多くの人を引きつけるにちがいない。ドッグカフェのメニューは本場のフレンチシェフがプロデュースした無農薬野菜を使ったサンドイッチやスープなどで、とても魅力的だ。犬連れでなくても誰でも利用できるので、地域の人がお昼を食べに来るようになるかもしれない。

ドッグカフェのサンドイッチと季節のスープ

 そうしてさまざまな人々が気軽に立ち寄れる場となり、動物を介した交流が増えていけば、困っている人や動物などの情報がもたらされ、早期介入できる可能性が高まる。孤立している人に周囲の人たちが気づき、介入できるような優しいコミュニティをつくりたい、と代表理事の上山琴美さんは言う。

「人の福祉をサポートすれば、その人と暮らしている動物の様子にも気づいてもらえます。そして、ただ動物をレスキューして終わりではなく、その人を福祉につなげるようにしたいんです」

「居場所」と「出番」を用意し人生をサポート

 現在キドックスには、行政から飼い主が重い病気になり、飼えなくなったという連絡を受けて保護した犬もいる。これは行政との連携により、犬が取り残されるのを未然に防いだケースだが、一般市民のネットワークが広がれば、より早期に、より多くの人と動物に手を差し伸べられるだろう。

 上山さんたちは、今後は子どもたち、とくに中高生のサポートにも力を入れていきたいと考えている。長引くコロナ禍で学校に行けなくなった子どもたちが急増していることはメディアでもたびたび伝えられているが、キドックスにも多くの相談が寄せられているそうだ。シェルターにいる犬たちの世話を子どもたちに手伝ってもらったり、広い庭を活用してアウトドア型の子ども食堂をするなど、思春期の子どもたちの居場所作りをしたいと考えている。

ドッグシェルターの清掃をする若者

 人が社会で生き生きと暮らすためには、「居場所」と「出番」があることが大切だとよくいわれる。そこにいてもいい、受け入れられているという感覚に加え、誰かのために何かできること。私たちはみな、そのような場を必要としているのではないだろうか。

 生きづらさを抱える若者や子どもたち、保護犬たち、そしてかかわるすべての人に居場所と出番があり、誰もが自分らしくいられる。「ヒューマンアニマルセンターキドックス」はそんな場となることをめざしている。この新しい取り組みがこれからどんな風に発展していくのか、とても楽しみだ。

(次回は7月27日公開予定です)

【前の回】犬がいる高齢者施設、入居者も職員も笑顔に 地域との架け橋の役割も担っている

大塚敦子
フォトジャーナリスト、写真絵本・ノンフィクション作家。 上智大学文学部英文学学科卒業。紛争地取材を経て、死と向きあう人びとの生き方、人がよりよく生きることを助ける動物たちについて執筆。近著に「〈刑務所〉で盲導犬を育てる」「犬が来る病院 命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと」「いつか帰りたい ぼくのふるさと 福島第一原発20キロ圏内から来たねこ」「ギヴ・ミー・ア・チャンス 犬と少年の再出発」など。

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この連載について
人と生きる動物たち
セラピーアニマルや動物介在教育の現場などを取材するフォトジャーナリスト・大塚敦子さんが、人と生きる犬や猫の姿を描きます。
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