「豚の餓死事件」でわかる日本の畜産動物保護が最低ランクな理由

痩せた豚
瘦せ細った豚。日本のとある養豚場で、飼養放棄をされた豚たちが飢餓に苦しみながら死んでいった

 2019年、日本のとある町で人知れず、35頭の豚が飢餓で苦しんでいた。

 豚たちは痩せ細り、骨が浮いて見え、毛がボサボサになり、人間が見えると檻に手をかけて2本足で立ち上がり、必死で鳴き叫ぶ。餌箱はからっぽ、水が与えられている形跡もない。

 35頭の豚のうち、生まれて間もない赤ちゃん豚は13頭で、この赤ちゃんたちは一緒に入れられている大人の豚たちに踏み潰されないように逃げ惑っていた。

 すでに21頭が死亡し、死体は放置されていた。

 生き残っていた豚たちはこのあとすべて死亡した。餓死したと考えられる。

誰も豚たちを救えなかった

 この事件の通報を、私たちは2021年にもらった。通報者は警察にも行政にも相談したが対応がなされなかったことに怒りを抱えていた。

 この養豚場は日本養豚協会の会員であったため、協会に対して問い合わせた。行政は通報があったためこの養豚場に出向いたものの、管理者に豚舎に入ることを拒まれ現場確認すらしていない状態だったという。一緒に告発してほしいと頼んだが断られた。

 その後、地元の警察ではダメだと検察に告発状を提出、受理された。

 しかし捜査した結果、起訴猶予。違法な事実は認められるが事情を考慮し不起訴という結果だった。

起きていたのは豚の多頭飼育崩壊

 この養豚場は私たちから見ると完全に破綻していた。この養豚農家は餌を購入できないわけではない。それでも十分な餌を与えなかった。水も与えられておらず、地面は乾いていて尿をした形跡がほとんどなかった。死体が置かれミイラ化していく檻の中で、餌がなければ、自分も同じ運命になることを豚は予見できる。豚はとても頭がいいのだ。

養豚場
人間が見えると檻に手をかけて2本足で立ち上がり、必死で鳴き叫ぶ。その横には餓死した豚が放置されていた

 生まれて数日も経過していないと思われるほど小さな子豚たちがいたのは、3頭の肥育豚(離乳した子豚)の檻の中だった。養豚を知っている人ならこれが異常なことはすぐにわかるだろう。つまり、肉用の豚を放置しすぎて妊娠できる年齢になり、そのままそこで子供を生んでしまったというわけだ。そこで子供を育てることはできない。子豚たちを生んだと思われる豚は、子供を産むには小さく、痩せ細り、また乳腺もまったく張っておらずお乳は出ないだろう。子豚たちは大きな豚に踏み潰されないように逃げ惑っていたが、すぐに死んだだろう。そのような異常な状態になった檻が2箇所あった。

 つまりこれは、豚の多頭飼育崩壊だ。

 この豚舎自体は今は使われていないが、この管理者は今でも養豚に関わっている。それが今の日本の養豚である。

今の日本は道徳的な成熟のない社会

 世界的な動物保護団体「ワールドアニマルプロテクション」が作成した動物保護指数のなかで、畜産動物の保護指数を見てみると、日本は最低ランクのGランクである。日本の今の畜産動物たちの現状はまさに最低な状態にある。動物たちを極限まで苦しめて死に至らしめても、罰せられないだけでなく、行政は指導もできず、畜産業界はこのような虐待を排除することもできないのだ。

養豚場の豚
動物たちを極限まで苦しめ死に至らしめる。凄惨(せいさん)な状況も、それが畜産動物では野放しとなる日本の社会

 苦しむ者はとことん苦しんでいて、しかもその苦しみを改善しようとしない社会は平和な社会とはいえない。このような畜産動物の扱いを見れば、日本の社会がどれだけ精神的に成熟していないのかがよく分かる。

 動物虐待を見逃す国であり続けてはいけない。

 私たちはこの告発と、この情報を公開することに時間がかかってしまっている。あまりに豚たちの状態が悲痛で、その姿が脳裏にこびりつき、分析を進めることが困難だったからだ。豚たちのために、勇気を持って各所に通報してくれた通報者はもっと苦しんだだろう。

 この豚たちの苦しみをなかったことにしてはならない。

 動画は後日公開する。

(次回は6月13日公開予定です)

【前の回】突き止めた闘鶏場の凄惨さ 秘密裏に行われる“遊び”はすべて「違法」

認定NPO法人アニマルライツセンター
1987年設立。動物たちの苦しみを効果的になくし、動物が動物らしくいられる社会を目指す。食べ物や衣類、娯楽や実験に使われる動物など人の支配下に置かれている動物を守る活動と、エシカル消費の推進に取り組んでいる。
この連載について
from 動物愛護団体
提携した動物愛護団体(JAVA、PEACE、日本動物福祉協会、ALIVE)からの寄稿を紹介する連載です。
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