庭を走り、泥浴びをし、仲間を思いやる―― 畜産用の豚を保護して見えた本来の姿
2024年5月20日、250kgの豚が5頭、私達の畜産動物たちの保護施設「動物の未来サンクチュアリ」にやってきた。以前、「巨大な食料システムに組み込まれた畜産動物 養豚場からの豚のレスキューはじまる」で紹介した豚たちだ。
4年間コンクリートの檻の中で糞尿にまみれ、やることもなく生きてきた彼らが、自然豊かな、広い庭と快適な家とベッドのある環境に適応するまで、約半年がかかった。
豚は繊細
最初にぶつかった問題はごはんを食べてくれないということ。5頭のうち、3頭は特に、口元にりんごを運んでも食べない。
理由はいくつかある。
排泄をほぼしなかったところを見ると、養豚場では移動前日は餌を切られていたようだ。空腹過ぎておなかが受け付けなかった可能性はある。
それでも始終落ち着いて冷静な判断をしていた「風太」(男の子)と、到着後すぐに家に引きこもってしまった「友」(女の子)は、ごはんを少量ずつでも食べ続けていたので、胃が受け付けないということだけが理由ではないだろう。
5日目、最後までごはんを受け付けなかった「そらちゃん」に、オーツミルクに浸したジャムパンを素手で口に運んだ。その甘さ、幸せな味、その時から、そらちゃんはご飯を食べるようになった。
ずっと怖くて仕方なかったし、人を信じられずにいたから、ごはんを食べられなかったのだ。
豚は何でも食べるだとか、残飯をあげておけばいいだなんていうのは、人間の偏見だ。豚は繊細で、人と同じように甘いものが好きで、人が心を開かなければ心をひらいてくれない。
喧嘩の仲裁をするリーダー
別々の檻に入れられていた豚たちは、互いに見たこともない他人だ。だから突然一緒にすると喧嘩(けんか)をする。250kgがぶつかり合うと、人間はもうどうすることもできない。そのため、お互いの存在に慣れるまで、柵越しに触れ合える状態にし、別々に暮らしていた。
10月、ずっと一緒に暮らしてきた姉弟である「ひかり」(女の子)と「大地」(男の子)、そして別の檻に一人ぼっちで入れられていた友を、一緒にすることにした。
柵を開け、様子を見ていると、大地と友が出会い、大喧嘩を始めた。その様子を見たひかりがふたりのもとに駆け寄り、体をふたりの間に入れ、大地を押しやり、喧嘩を仲裁したのだ。
ひかりに怒られた大地はしょんぼりして離れていった。その後、ひかりは友のエリアに入っていき、緊張感は漂うけど穏やかに、あいさつをした。
人間社会に、ひかりのような立ち回りをする人が、リーダーがどれほどいるだろうか。自分がけがをする可能性もある喧嘩を仲裁できる人は多くはないだろう。
豚は3歳児の知能を持つと言われるが、たとえ20歳を超えても、60歳を超えたって、ひかりのような能力と勇気を持つ人間は多くはない。
相手を気遣う
寒くなった12月のある日、別々のベッドで寝ていた友をひかりがじっと見つめていた。そして友のもとにゆっくりと歩いていき、友を鼻でつつきながら何かを話すと、友は起き上がり、ひかりと大地のベッドに向かっていった。ひかりはその後からのんびり歩いてきて、3人は寄り添って眠り始めた。その日以来、3人はいつも夜は一緒に寝ている。
“豚”の常識を崩す、書ききれないほどのエピソードは、救出した豚たちが暮らす「動物の未来サンクチュアリ(アニマルライツヴィレッジ)」のインスタグラムにアップしている。
畜産動物たちに配慮を
豚たちは、広い庭を走り、飛び跳ね、穴を掘り、泥浴びをし、ボール遊びをし、チモシーを食べ、仲間と交流し、夜は藁ベッドで眠っている。ベッドも自分たちの好みに毎日作り変えている。
わたしたち人間は、彼らのような尊敬すべき、すばらしい動物を、工場畜産のような地獄の中に閉じ込め殺す権利はない。彼らを無機質な檻の中に閉じ込めたり、ましてや拘束飼育したりするのではなく、アニマルウェルフェアの高い飼育に切り替える必要がある。
例えば、オガ粉や藁、土などの敷料を地面に敷き、穴をほったり探索できたりするようにする。エンリッチメントと呼ばれる、噛んだり遊んだりできる木やロープ、わらの束などを与える。仲間と交流ができるように複数頭で飼育し、社会性を発揮させる。太陽の光にあたって心身の健康を保つことができるようにする。そんな豊かな環境になると、尻尾を切ったりしなくて済むようになる。免疫力が上がり、薬剤投与も減らすことができるようになる。
世界は、そんな方向に向かっている。スーパーに放牧豚の肉が当たり前に並び、企業のサイトを見ると豚だけでなく鶏も含め、屋外に出られるようにするのが目標だと書いてあることもある。
これだけ人と感情を共有できる豚を、当たり前に食べるのではなく、植物性のお肉に変えてみることも必要だ。
今の残酷な食料システムを根本から変え、彼らの尊厳を取り戻してほしい。