犬や猫の保護団体を立ち上げた女性4人 動物保護活動の軌跡をたどる
「公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)」代表理事の西平衣里です。アニドネは中間支援組織として、動物福祉関連で頑張る非営利団体へ寄付をお届けしています。現在の支援先は26団体。そのうち保護活動をしている団体さんは22団体。その中で女性が代表を務める団体はなんと16団体にもなります。実は保護活動は女性が主に活動する分野なのです。
保護活動は女性脳が向いている?
保護活動において性差別をするつもりは毛頭ないのですが、私の持論でいけば命をつなぐリレーは女性脳が活きていると思います。例えば、保護活動の現場は、チームの連携がとても大事です。救った命を病院に連れていく、一時的に預かる、新しい飼い主を見つける、といった一連の流れは、多くの人たちが関わります。
その中で、犬や猫たちの気持ちも大切にしながら連携をとっていくのは、コミュニティを得意とする女性の強みがあってうまくいくと感じます。
そして、向き合う相手は命です。犬や猫は時間通りに動くわけではありません。柔軟に対応できる生活スタイルを持つというのも大事なのかもしれません。
今回、アニドネが支援する保護団体の中で、4名の女性代表になぜ保護団体を立ち上げたのか、どんな苦楽があるのかなどをお聞きしました。保護団体歴が8年から29年という方々です。
思った以上に、4人とも自然体で向き合っているのがとても印象的でした。
“成り行き”で始めた保護活動が20年。動物に関わり続けたい
ボランティア総勢250名を束ねる女性代表、と書くといかにもビッグボス的なイメージをもつかもしれんが、「ちばわん」代表の扇田桂代さんは気負いがなくナチュラル。当然大変なことだらけの保護活動なのかなと想像してしまうのですが、「大変なことは特に思いつかないんですよね」と言うのです。
「私が20歳ごろだったと思いますが、火傷を負った猫を保護したことで動物問題に関心を持ちました。読書が好きだったので本屋で関連本を読み漁りました。そして、愛護団体に寄付したり、物資を送付したりしながら、休みの日に愛護団体のイベントの手伝いをするようになりました。もともと拾った猫を2匹飼っていましたが、東京から千葉へ引っ越した際に保護犬も迎えました」
「そのうち、問題意識が高まり、イベントで出会った仲間達と千葉で動物保護条例の署名活動やパネル展をやるようなったんです。その中で知り合ったベテランのボランティアさんに連れられ犬の多頭飼育現場に行き、衝撃を受けました。それをきっかけに、私はフードを届けることしかできていませんでしたが、子犬の新しい飼い主さんを探しをしてみようということになりました。1匹を苦労しながら譲渡できた経験は大きかったかもしれません。
どんどん保護活動に時間を割くことが多くなり、ちゃんとやるなら団体と代表者を作ったほうがいいとのアドバイスを受け、27歳で団体を立ち上げ、今年で20年目になります。
もともと興味をもっていた分野ではありますが、強い意志で団体を作ったわけではなく、周りのアドバイスに従って今がある、成り行きで始めた動物保護活動だと言えます(笑)」
そう語る扇田さんですが、実は近々仕事を辞める予定だとか。そして、現在おられるボランティアの中で100名ほどいる預かりボランティアのご自宅訪問を検討中というバイタリティの持ち主。
保護活動の喜びも聞いてみました。
「活動が長くなってきたので、最近では譲渡した犬猫の訃報が届くことも多いです。寂しい気持ちにはなりますが、保護活動の過程でどうしても助けられなかった犬猫を多く見てしまっているので、最後は家族に見送られて旅立った子たちのお話をお聞きすると、温かい気持ちにもなります」
1週間で17匹の子猫を拾ったことから始まった活動は来年30周年
東京都世田谷を中心に活動をする「特定非営利活動法人日本動物生命尊重の会」。通称「アリス」と呼ばれている団体の代表理事、金木洋子さんは、いつも穏やかな笑顔の女性です。1993年の4月ごろ、たった1週間のうちに4回に渡って、17匹の段ボールに入った猫の乳飲み子を拾ってしまう、という体験がスタートだそう。
そのころは、野良猫も多かった時代ですが、駐車場や近所の空き地で、少なくて3匹、多いときは5匹の子猫たちに出会ってしまった金木さん。フルタイムで仕事をされていたのですが、目の前の小さな命を救うために寝ずの世話を続け、無事子猫たちを新しい飼い主につないでいったそうなのです。
そんな中、一人の活動には限界を感じコミュニティ誌に仲間の募集をしたことがアリスにつながったそう。
長いキャリアですから、苦労することや楽しみを聞いてみました。
「大変なことは、スタッフ育成や預かり先、譲渡先の確保、イベントの企画、一般の方からの引き取りや保護の相談などですね。他にも、HPの作成や議員さんへの陳情、もちろん会計報告も大事ですし、活動資金の調達もしないと保護はできません。保護すること以外にやることがたくさんあるのは、想定外でした。
一方、保護した犬や猫は多くが病気を抱えています。治らないであろうと思われる難しい手術が成功すると、活動の意義を感じます。せっかく保護した犬や猫たちには、なんとしても健康になって第二の幸せな場所を見つけてほしいんです」
17匹から始まった活動は、29年でなんと3500頭もの命を救うまでに。活動の根源は、小さな命に向き合う優しさなんだあと感じました。
プロだからこそ保護活動。獣医療の“手”や問題行動解決のための“手”
雪深い北海道。外猫は、寒い場所ではとても過酷な状況で生きています。旭川にある「特定非営利活動法人手と手の森」は、「緑の森どうぶつ病院」グループが母体です。代表は獣医師の奥様である本田リエさん。
「25年前の1997年に動物病院を開業してまもないころ、遠くに住むブリーダーが来院し、重症のヘルニアで下半身不随の3歳の犬の安楽死を依頼されました。その犬の処分をする選択はプロとしてせず、病院スタッフの元で長生きしてくれました。この出来事で、ペットと人の間に存在する社会問題を悟りました。
その後、段ボールに入った子猫達や『治療費がなく助けられない』と書き置きが添えられた高齢猫が入った段ボールなど、病院前に遺棄される猫たちが後を絶たず、これはなんとかせねば、と自然発生的に保護活動が動きだしました。獣医療の“手”や問題行動解決のための“手”があれば、保護活動の在り方も一歩前進できるのではと思い、2012年に手と手の森を発足して、本格的に始動しました」
動物のプロが行う保護活動のゆく先はどのように考えているのかを知りたくて、本田さんへ活動のゴールを聞いてみました。
「動物福祉は人の福祉と表裏一体です。“ワンヘルス=人もどうぶつも地球の健康は一つ”と捉えて、足元の地球を大切にすることを教えてくれます。動物達の素晴らしい価値を、社会全体が大切にできるそんなコミュニティを形成してみたいです」
最終的には私の活動がなくなるようにしたい
最後にご紹介するのは、岩手県盛岡市で保護ねこカフェを立ち上げ8年目の「認定特定非営利活動法人もりねこ」代表理事の工藤幸枝さんです。筆者も昨年もりねこへ伺いました。駅から数分、きれいな川の近くにあるカフェは、とてもかわいらしいインテリアでポジティブな雰囲気でした。猫たちがストレスなく自由に過ごしているのが印象的でした。
なぜ、保護ねこカフェを作ったのか聞いてみました。
「実家を出て初めて猫と暮らし始めたことをきっかけに、おうちのない猫たちが過酷な環境で生き延びていることや殺処分の問題について知り、どうしたらいいかと考えるようになりました。
もともと自分でできる仕事をしてみたいと考えていたこともあり、保護ねこカフェという道を模索していたときに、ちょうど札幌でスタートしたばかりだった『ツキネコカフェ(ツキネコ北海道)』さんがスタッフを募集しているということがわかり飛び込んだことが、今へとつながりました。
憧れの保護ねこカフェで働き始めたものの数カ月後には家族の事情で今の岩手県盛岡市に移り住むことになってしまいました。
見知らぬ土地で知り合いもほとんどおらず途方に暮れていましたが、それであればゼロから再出発ということで、自分で立ち上げようとアルバイトやボランティアをしながら準備を進め2014年1月30日に『保護ねこカフェもりねこ』を開業しました」
実は工藤さん、お若いのですがしっかり者で、保護ねこカフェの経営者でもあるわけです。
雇用も生み出しつつ、社会問題を救うということにチャレンジをしています。
最近では保護猫に興味を持つ若い世代も多いので、チャレンジしたい方へ何か伝えたいことがあるか聞いてみました。
「このような活動は、競争ではなく“協力”が大事だと思っています。たくさんの方に参加していただき、新しいアイデアややり方にどんどんチャレンジしていただければ、私たちにとってもいい刺激となっていくことと思います。特に保護団体においても動物福祉の向上を目指していきたいですね」
今回4名の女性代表に話を聞きました。みなさん肩肘をはらず、とにかく自然体です。
出会うべくして出会った保護活動に思いを注いでいるのが共通点。
仕事を持ち、家庭もあり、そしてボランティアも……と何足ものわらじですが、しなやかに取り組む姿はとても素敵でした。
そんなふうにがんばる方たちから、早11年目となる私たちアニドネも、頑張るパワーをいただいています。
(次回は4月5日公開予定です)
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