ブルースシンガーとセラピードッグ 犬はオヤツで釣るより、褒めるのがいい

 先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。

(末尾に写真特集があります)

ブルースと犬の共通点

 先日、気になる番組があったので録画しておいた。何が気になったかというと、「ブルースシンガーの挑戦 犬との絆で笑顔を広げる」というタイトルだ。犬が好きなミュージシャンは分かる。が、犬との絆で笑顔を広げるってどういうこと? と思ったのだ。その番組を見て、とても感銘を受けた。ものすごい人だったのだ。

 大木トオル氏は、幼少期に言葉がスムーズに出ない吃音(きつおん)という発話障害を持っていた。そのため、クラスメートからいじめられたりして、友達はできず、いつもひとりでいた。なぜか歌うときだけは言葉に詰まらず、ラジオから流れてくるブルースを聴くのが唯一の楽しみで、友達は犬だけだった。その犬とも12歳のときに家庭の事情で離れ離れになる。

 暗くてつらい少年時代を過ごした彼は、16歳でブルースバンドを組み、音楽の道へ進む。27歳で、腕試しで渡米するが、ここでも実力の壁にぶつかったり、人種差別に合う。しかしそれでも折れずに活動の場を広げていき、次第に人気のブルースシンガーとなっていく。そしてB・Bキングやマディー・ウォーターズ、アルバート・キング、ベン・E・キング(スタンド・バイ・ミーでおなじみの)らと共演を果たす。

 これだけでもすごいし、このあたりのエピソードをもっと聞きたいところだが、この時期に同時進行で介護施設などを度々訪問し、動物介在療法やセラピードッグの存在を知る。そこで彼は、セラピードッグの訓練方法を学び、渡米から9年後に帰国し、音楽活動を続けながら日本でセラピードッグの育成に取り組む。

富士丸
ハスキーとコリーのミックス、富士丸とイルミネーション

 さらに、最初はハスキーなどを訓練していたが、捨て犬だったチロリという犬との出会いで、保健所で引き取り手がなく、殺処分される予定の犬を引き取りセラピードッグに育てるというように方向転換する。大木氏いわく、飼い主に捨てられたり、ひどい目にあった犬は痛みを知っているから、悲しそうな人に寄り添う傾向が見られるという。

 そしてブルースと犬には、共通点があると話す。労働者や人種差別されていた黒人の憂いから生まれたブルースと同じように、犬には人を支えたり、勇気づけたり力があるのだと。その根底には、幼少期に自分を支えてくれた犬への思いがある。

セラピードッグの効果とは

 ではセラピードッグと接した人には、どのような変化が見られるのか。番組では実際に老人介護施設などにセラピードッグが訪れるときの様子があったが、犬たちと接するとみんな笑顔になっていた。中にはリハビリを拒んだり、なんの意欲も見せない人が、犬と接するうちにリハビリを自発的に行うようになったり、笑ったり、前向きになるケースも多いらしい。

子犬
子犬時代の大吉

 犬と見つめ合ったり触れ合ったりすることで、双方にオキシトシンが分泌されることは科学的にも証明されているし、意欲が湧いてきたり、積極的になることは犬と暮らす人なら実感していると思う。

 私自身、富士丸がいなくなったことで、無気力で、色のない世界をなんとなく生きているような時期があったが、大吉を迎えてからは、意欲と色が見事に復活した。犬にはそういう力があるんだろう。彼らがそばにいると、やらないといけないことも増えるしね。

オヤツではなく、褒める

 セラピードッグの育成の中で興味深く、感心したのは、犬が指示に従った場合はオヤツを与えるのではなく、褒めるという点だった。うまくできたときは、なでながら褒める。すると犬は喜んで、よく覚えるというのだ。

 訓練ではないが、私も富士丸と暮らしている頃から、オヤツで釣ることはしていない。カメラ目線が欲しいときなどは、名前を呼んでこっちを見た瞬間にシャッターを切る。それで思い通りの写真が撮れたら「おつかれ!」と労っていた。それは今でも変わらないが、大福は呼んでもこっちを向いてくれないことの方が多い。もっと褒めればいいのか。

雑種犬
呼んでもシカトする大吉

人間への不信感と恐怖心をどう克服するか

 保護犬といっても、物分かりのいい犬ばかりではない。中には捨てられたり、虐待された記憶から人間への強い不信感や恐怖心を抱いている犬もいる。スタジオには「ゆきのすけ」という犬が大木氏と一緒に登場していたのだが、保健所にいるときの映像とは同じ犬とは思えないほど違っていた。施設にいるときは、リードを付けることすらできず、付けようとすると食いちぎろうとするほど人間におびえていた。

寝そべる雑種犬
子犬時代のおびえた福助を見守る大吉

 私も極度の人間不信で抱き上げることすらできなかった福助を迎えた経験があるが、そのときは「子犬だからなんとでもなる」という自信があった。しかし保健所にいる頃の「ゆきのすけ」は子犬ではなかったから、きっと「これは無理だ」と諦めただろう。それくらい凶暴(恐怖心から)だった。

 大木氏はそんな「ゆきのすけ」を引き取り、まずは広めのケージを用意して安心できるスペースを確保し、エサをあげる以外は必要以上に構わず、半年後には自ら外に出てくるようになってもこちらからは近づかず、大木氏が他の犬たちと戯れる姿を見せるようにした。どんな犬でも個性を尊重し、ストレスやプレッシャーをかけることは絶対にやらないと話す。

 それは態度で示すしかないという思いで接した結果、なんと2年半後にはセラピードッグとしてデビューするにまでに至る。スタジオにいた「ゆきのすけ」は歩く人のスピードに合わせて歩き、大きな音がしても動じないようになっていた。あの犬がこうなるのか、と心底驚くほどだった。

寝そべる雑種犬
大吉に体重をかけて寝る現在の福助

 犬というのはどんなにつらい過去があっても、こちらが心を開いて接すれば分かってくれる、本当にけなげでいいやつらだなと改めて痛感した。それは純血種も雑種も関係ない。

 幸いなことに「ブルースシンガーの挑戦 犬との絆で笑顔を広げる」は、9月27日(2021年)に再放送されるそうなので、ぜひ見てみてください。

※大木氏の運営する一般社団法人 国際セラピードッグ協会
(再放送の告知もあります)

穴澤 賢
1971年大阪生まれ。フリーランス編集兼ライター。ブログ「富士丸な日々」が話題となり、犬関連の書籍や連載を執筆。2015年からは長年犬と暮らした経験から「デロリアンズ」というブランドを立ち上げる。2020年2月には「犬の笑顔を見たいから(世界文化社)」を出版。株式会社デロリアンズ(http://deloreans-shop.com)、インスタグラム @anazawa_masaru ツイッター@Anazawa_Masaru

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この連載について
悩んで学んだ犬のこと
先代犬は富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らす穴澤賢さんが、犬との暮らしで実際に経験した悩みから学んできた“教訓”をお届けしていきます。
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