妻の「作戦勝ち」で黒猫を迎えた夫婦 すると反対していた夫が大変身!猫にメロメロに

黒猫
きらきらの丸い目が魅力的な黒猫ダイナ(亜実さん提供)

 “架空の生き物たちの化石ハンター”という、少し難解なテーマを作風とした造形作家の家に、とびきり可愛い黒猫がやってきました。最初は反対していたのに、いざ猫を迎えると、妻も驚くハマりっぷりで、夫のキャラ大崩壊?夫婦間にも変化が……。ドキドキ愉快な生活を紹介します。

(末尾に写真特集があります)

両親のための猫のはずが

「家にもすっかりなじんできて、甘えると可愛いな~」

「でもあなたといる時間が多いのよね。私が欲しくて見つけたのに」

「まあまあ亜実ちゃん、やかないで……」

 造形作家の天久高広さん(55歳)と、妻の亜実さん(53歳)が、黒猫ダイナ(雌、生後約半年)を挟んで話す。 

 5年前に結婚したふたりが、ダイナを迎えたのは、今年7月末だった。家にきてもうすぐ3カ月経つ。

 じつは迎える時、ちょっとしたどんでん返しがあった、と亜実さんがいう。

「初めは私の両親のために猫を探していました。両親が飼っていたウサギが旅立ち、寂しそうだったので、可愛がる存在がいたらと思いました。以前、実家には猫もいたので猫がいいな、それなら保護猫だなと思っていたんです」

黒猫
亜実さんの父が贈ってくれたカード。ダイナをぞうきんちゃんと呼ぶという(亜実さん提供)

 そうしてペットサイトを見ているうちに、亜実さんは両親のためでなく「私の猫」が欲しくなってしまったという。

 本当は結婚してすぐ欲しかったのだが、天久さんに、「猫はだめ。やめておこう」と強くいわれ、踏みとどまっていたのだ。

「夫には、猫がいると『旅にも出られないでしょ』といわれていました。私の仕事もそれまで帰りが遅かったので難しいかなとは思っていました。でも彼が家で仕事することが多くなり、私も前より早く帰れるようになってきたので今がチャンス!と思い、自分のための猫を探し、話を進めていきました」

 亜実さんがペットサイトで気にいったのは、ピントが少しずれてボヤっと見えた黒猫。だが何かひかれるものがあり、その猫が参加する譲渡会に会いに行くことにした。天久さんも同行した。

 天久さんが振り返る。

「亜実ちゃんの作戦勝ちというか、外堀をうまく埋められた感じだね。譲渡会場で実際に会った時のダイナは、写真と同じくブチャイク。でも“亜実ちゃんの猫”だし、なるようになればと、見ていました」

反対したはずが……天久さんは迎えたダイナに夢中

いざ子猫を迎えたら

 外で生まれた元野良猫のダイナだが、家になじむのは早かった。

「最初の晩は猫用ハウスに入ったまま出てこなかったけど、翌日にはハウスから出て、ご飯を食べてトイレもしたのよね」

「トイレもボランティアさんのところで覚えてきたので助かったね。ちょっとビビりだけど、いろんなことに興味津々な感じだった」

 夫婦そろって、小さなダイナの一挙手一投足にくぎ付け。とくに、「どうぞお好きに」とクールに見えた天久さんが、猫とよく遊び、猫の世話をしはじめた。

 その変化に、亜実さんも驚いたそう。

「うちは1階にキッチンがあり、2階の居間に食事を運んで食べるのだけど、天久さんたら自分のご飯とダイナのフードだけトレーにのせて、私のご飯を1階においていったりして」

「だって全部トレーにのらないじゃない。まあ無意識に、君のを “はずして”悪かったけど」

「おやつも無添加にしないとだめだなんて、細かくダイナに気配りするようになったのよね……」

 天久さんは、せきを切ったように猫愛があふれだしたようだ。

 それもそのはず、天久さんは決して動物嫌いだったわけでなく、むしろ猫が大好きだった。好きだからこそ猫中心になるし、別れのつらさも分かっていたので「やめておこう」と言い続けてきたのだ。

 天久さんは、以前、一緒に暮らしていた猫たちへの思いを明かしてくれた。

「亜実ちゃんと一緒になる前に、4匹の猫の家族を飼っていてね。父猫のラリーと娘猫のめいは23,24歳とものすごく長生きして、10年ほど前、たて続けに僕の腕の中で看取ったんです。ほかの猫は難しい感染症で治療のかいなく可哀想に早く逝き……そんなつらさもあって、新たに猫を迎える気持ちになれませんでした」

アトリエで密な時間を過ごし……

 造形作家の天久さんは、架空の生き物たちの“化石を彫る”ことをテーマに活動している。

 仕事について、天久さんに少し説明してもらった。

「恐竜の化石を発掘する人を化石ハンターと呼びます。自分の場合は、サターン、天使、ペガサスやマーメイドのような神話に登場する生き物たちの(この世に生きていたとして)死んだ後の化石を掘り出すというコンセプトで、その骨格を木彫りしている。だから、僕は架空の生き物たちの化石ハンターなんです」

 その作品は、神と合体した半人半獣など、一見難しく、シュールにも見える。

 久しぶりに、架空ではなく生きた猫と暮らし、何か刺激を受けたことはあるのだろうか。

「創作上の刺激はとくにないけど、猫がいると、『もうこの先、作品をつくらなくていいかなあ』と思うくらいの満足感を感じているかなあ」

 造形作家を骨抜きにしてしまったダイナは、アトリエに自由に入り、時にはいたずらすることも。

「ダイナは筆が好きで、筆をくわえて2階に持っていくこともあるんです。お目が高いのか、高価ないい筆をわざわざ選び、よだれまみれにする。でも筆はもともと使っているうちに削れるものだし、多少かんでくれてもいいかな、と、昔の猫には叱ったこともあったんだけど……」

 あらためて猫のいたずらについて調べると、「叱っても効果がない」とわかったので叱らないそうだ。ただ、今は人へのかみ癖が少しあるので、それは気をつけているという。

「僕の手をかんだら、『痛いよ、かんだらしばらく遊んであげないよ~』という感じで諭しています。これじゃあ教育になってないかな(笑)」

 ダイナは、午前中にごはんを食べた後、「遊んで」のスイッチが入る。遊んであげると少し休んで、午後2時ごろになると、今度は「甘えモード」になり、天久さんのひざに乗ってくる。そうした時間が、“猫との距離”を縮めラブラブになったようだ。

「亜実ちゃんは外に仕事にいっているので、僕にしか甘えてこないわけ。抱いているところを自撮りして『今ダイナと仲良くしてる』とラインで送ると、彼女は嫌みに感じたみたい」

黒猫
天久さんが自撮りして仕事中の亜実さんに“送りつけた”ラブラブ写真(亜実さん提供)

 その言葉を聞いて、亜実さんが複雑そうにいう。

「もう。私が欲しくて見つけたのに、猫を“取られちゃった感”がすごくある。とにかくダイナに甘くて驚いちゃうし」

猫が来てもめごとが増えた?

 10月7日に起きた地震の時、亜実さんは、天久さんの行動にさらに驚いたそうだ。

 ぐらっと揺れたそのさなか、亜実さんはお風呂に入っていた。

「けっこう大きな地震なのに……彼は全然きてくれないし、『大丈夫?』の一言もない」

 じつは天久さんはその頃、ダイナのケアと救出に必死だったのだ。

「揺れた時、ダイナがちょうどアトリエとキッチンの間の鴨居に乗って遊んでいて、驚いて鴨居をだーっと走っていき、扉のない棚に入り込んでしまった。画材とかとがったものもあるし、棚が倒れたら危ないので、ダイナをそこから出そうと必死で。正直、亜実ちゃんの“あ”の字も考え及ばずにいた」

「ダイナのほうが完全に優先順位が上なのよね」

黒猫
柱にステップを取り付けて鴨居をキャットウォークとして使えるようにした(亜実さん提供)

 数週間前には、ダイナのプチ脱走事件もあった。

 亜実さんがコロナのワクチンに出かけた後。ダイナの姿が見えなくなったという。どのタイミングで外に出たかはわからないが、「君がちゃんとドアを閉めなかったのでないか」と亜実さんは疑われてしまった。

「1時間くらいして家に帰ってきたら、彼がすごく怖い顔して『ダイナがいない』と。どのタイミングで出たかわからないのに、君のせいだと責められる感じで、必死で近所を探し回りました。見つからずいったん戻ったら、家にダイナがいて……彼はしれーっとした顔。家の敷地内にいたんですって。無事でよかったけれど」

 もしかしたら、猫がきて夫婦げんかが増えたのではないかと聞くと、亜実さんと天久さんが、顔をみあわせた。

「たしかに!猫が来て夫婦仲がよくなった話も聞くけど……うちは、もめごとが増えてるわね」

「あと夫婦の会話が小さな声になったね。ダイナは耳が敏感で、ふつうの声でも驚くことがあるから音量を下げてあげないといけないからなあ」

いつまでも元気で仲良く

 このような“ダイナファースト”を続けるうちに、夫婦仲がこじれてしまったのか……と思われたが、その心配はなさそう。

 取材中、亜実さんは終始、面白そうに、楽しそうにしていた。

「疎外感を感じることはあるけど、愛情を注げる対象ができて気持ちがやわらかくなったし、早く家に帰りたいと思うようにもなった。ダイナは寝室の窓辺で私たちを見下ろして寝るのだけど、足元にもダイナが寝られるような籠を置いてあって、朝、目があうと寄ってきてくれる。最近、顔をなめてくれるようになり、すごく幸せを感じます」

「それは僕にしてこないな……亜実ちゃんの猫なのに、僕よりダイナと会う時間が少なくて悪いなーって思うよ」

夫妻と黒猫
本当は仲良し!ダイナを挟んで素敵な“コンビ”(亜実さん提供)

 つい先日、ふたりはダイナを連れて、亜実さんの実家を訪れたそうだ。天久さんはその時、つくづく感じたことがあるという、

「亜実ちゃんの両親が可愛い可愛いといって。生き物がいるとぱっと家が明るくなるんだと実感しました。そのくらいの喜びようで、笑顔を見て僕もうれしかった」
 
 天久さんの優しさも繊細さも、亜実さんは初めからすべてお見通し。優先順位が下どころか、深い愛で、猫と夫をおおらかに見守っているのだ。

「以前彼が飼った猫も長生きしたし、私が独身時代に飼ったタンゴという猫も20歳ぐらいまで生きました。だからダイナにも、ずっと健康でいてほしい。楽しくわいわいやっていきたいな」

 遠慮のない言い合いも、仲がよく信頼関係があるからこそ……。

 ところで、天久さんは最近、“ある役”を亜実さんに譲ったのだとか。

「亜実ちゃんに、ダイナのご飯をあげてもらうようにしたんだよね。せめてもの僕の優しさで」

「恩着せがましいのよ!(笑)」

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は18歳の黒猫イヌオと、4歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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