音楽家と暮らす甘えん坊の猫 邪魔したり癒やしたり、いつも音づくりの傍らに

キジトラ猫
窓の外を見るムギちゃん。きょとん顔がかわいい(Shingo Suzukiさん提供)

 べーシスト、プロデューサーとして様々なアーティストの作品に参加するほか、企業のCM音楽の制作、バンド「ovall」でも活躍する音楽家のShingo Suzukiさん。現在1匹のキジ猫と暮らし、その可愛さに家族ともにメロメロなようです。出会ったのは2年前、sippoのイベント「みんなイヌみんなネコ」の譲渡会でした。迎えたいきさつや、音楽制作にも“付き合う”愛猫の様子をお聞きしました。

(末尾に写真特集があります)

初めて出かけたデパートの譲渡会

「うちのムギは小顔で、尻尾はすごく短くて振るとプルプルしている。何しても可愛いのですが(笑)、とにかく甘えん坊。猫ってこんなだったっけな」

 満面の笑みで、Shingo Suzukiさんが説明する。胸に抱くムギは小顔なので子猫のように見えるが、約2歳5カ月の立派な大人の雌猫だ。

 Shingoさんは昔から動物好きで、実家では犬を飼い、祖母の家でも猫を飼っていた。でも、自分で猫を飼うのはこれが初めて。それゆえ新鮮さや喜びもひとしおのよう。

 飼った背景には、環境の変化があったという。

「ミュージシャンなので、生活の時間が不規則ですからね。ライブにいったりスタジオでレコーディングなどがあると動物の世話がなかなかできない心配がある。でも、6年前に結婚して、持ち家に引っ越したので迎えることにしました。猫にとっても、好き放題に壁をがりがりしてもよい環境が整ったので(笑)」

ケージの中の猫
2年前、京王百貨店で開かれた譲渡会に参加していた時(ボランティアさん提供)

 迎えるにあたり、ペットショップものぞいたが、「やっぱり保護猫がいい」と思ったそう。

「どの猫も可愛いけど、雑種はいいですよね。友人で音楽仲間の坂本美雨ちゃんや猫沢エミさんも保護猫を飼っていて、その様子を見聞きしていいなと思っていました。そんな時、たまたまSNSで見つけたのがデパートの譲渡会でした。正直なところ、規模が小さい譲渡会は行きづらい。でもデパートは気軽に目立たず入りやすい気がしたのです」

 2年前の8月半ば、Shingoさんは「縁」を見つけに、妻と共に東京・新宿の京王百貨店で催された譲渡会に出向いた。

3カ月目でだんだんと甘えん坊に

「譲渡会場では、小さな子猫が人気で人だかりができていました。毛色もいろいろあるし、ワクチンを打って少し育ったくらいの猫もいいなと思って歩いていると、たまたま空いたブースにキジ猫がいて。タイミングよくボランティアさんに話をじっくり聞くことができたんです」

 最初に目にしたのは雄のキジだったが、「こちらにもいます」と紹介してもらったのが雌のキジで、蒼依(あおい)という仮の名がついていた。

「蒼依ちゃんは推定5カ月の元野良猫で、TNRにするか迷ったけれど保護して譲渡会に初めて参加した、と教えてもらいました。会った瞬間、僕らの心にすっと入り、ふたりして“いいね”と意気投合。小柄でおとなしそうで、うちに合うかなと思って申し込ませてもらいました。ボランティアさんは、ふだんは舞台の仕事をされていて、音楽ライブのスタッフとしても働くことがあると聞き、これもご縁だな~と思いましたね」

なでてもらう猫
迎えて1週間。自然になじんで家族にすりすりするように(Shingo Suzukiさん提供)

 譲渡会での出会いから約1週間後の8月24日、ケージとトイレを用意したShingoさん宅にやってきた。名前は「ぱっと浮かんだ素朴な響き」と“楽天パンダ”の可愛い猫の名前のムギに決めた。ムギは最初こそ緊張したが、家になじむのは早かった。

「初日は様子をうかがってびびってました。でも僕らが早く出したくて(笑)、翌日に出してみたら、ソファの裏に隠れて、餌と水だけ外に食べにきました。でも3、4日で慣れて、1週間目には居間にでて、ふつうに過ごすようになりましたね。3カ月くらいから“甘えの兆候”がありました」

 一般的に、雄はストレートに甘えるデレデレが多く、雌は気分次第のツンデレ傾向が強いといわれるが、ムギは女子としては珍しい、ベタベタさんになったらしい。

「今年の8月、2回目のおうち記念日を迎えましたが、1年目より最近のほうが、より甘えます。片手ですくうように抱くと、もうされるがまま(笑)。ちょっと入ってねとケージにそのままいれても、おとなしくしています。もともと穏やかで、シャーしたことも一度もないんですよね。人がくると最初は隠れるけど、なれると出てきて遊んでと頭突きしたり」

隣にはムギがいた

 Shingoさんは、べーシスト、プロデューサーとして、矢野顕子、Chara、藤原さくら、防弾少年団(BTS)、また和田アキ子など様々なアーティストをサポートしている。自身のバンド「Ovall」でも活動する。プロデュースとソロとバンドの3本柱で活動中だが、コロナ禍でライブの数が減った半面、家での音楽制作の時間が増えたそうだ。

 ムギは、家でShingoさんが仕事をする時も、近くにいる。

「自宅に作業部屋を作っていて、そこで音楽を作り、レコーディングまでするのですが、ムギはいつでもウェルカム。廊下から部屋に入れるようドアを開けています。猫は大きな音が苦手なイメージがあるけれど、ムギは強めのビートも気持ちよさそうに聞いている。かなり大きな音を出しても動じないで寝たりしているんです(笑)。

椅子に座る猫
作業部屋にいち早く入り、椅子に座って待機中(Shingo Suzukiさん提供)

 作業部屋ではノートパソコンを大きなモニターにつないでいるが、ムギはパソコンを閉じるとそこがあったかいのを知って、その上に乗る。Shingoさんの座る椅子も好きで、椅子から離れると、すきあらばという感じですかさず狙い、「椅子取り合戦」になるのだとか。暇になると、鍵盤の上を歩いて、音を奏でたりもする。

シンセサイザーの上を歩いて音を出し、作業中のトラックとセッション。最後はドヤ顔(Shingo Suzukiさん提供)

 ムギのいる作業部屋で、企業のCM曲も制作された。

「たとえば、住友生命のCM『生き方を問う人篇』の作曲、プジョーのCMで流れたOriginal Love & Ovallの『接吻』のプロデュースとベース演奏、ノメルズ ハードレモネードのCMの作曲などを、隣にムギがいる状況で手掛けました。ムギに邪魔されつつ、癒やされつつ、ですね(笑)」

 コロナ禍で、自身も含め家にいる人が多くなったので、Shingoさんは家でリラックスする時に聴く曲を集め、Spotifyのプレイリスト作りもライフワークとして始めた。

Alternative Chill Beatという名前のプレイリストで、表紙にムギの写真を使ってます。家の景色を変えられるような、ゆったりめのR&B、Hip Hop曲を選曲しています」

 Shingoさんと仕事部屋を“共用”するムギ。「私の場所でもあるのよ」と常に女王のようふるまうと思いきや、遠慮がちな面もあるのだとか。

「ムギは少し我慢するところがあって、甘えるタイミングを見計らっているんです。仕事をしていると、廊下でじっとして……たまりかねて、せきを切ったよう近寄ってきます。そこもいじらしく可愛くて。寝る時も同じで、僕や妻がベッドに寝ていると、そばに来たいけどすぐには飛び乗らず、しばらくベッドの下にいて様子を見て、『そろそろ入るわ』という感じでぴょんと布団に入ってきます」

『ミルク飲みたい』『餌欲しい』

 じつは昨年10月、ムギにとって大きな出来事があった。Shingoさんと妻の間に長男が生まれたのだ。

 ムギを家に迎え、1年2カ月してからの赤ちゃん登場。もうすぐ1歳だが、ムギは小さな仲間にどう対応したのだろう。

「赤ちゃんが来た時は、興味深そうにじっと見て、自分も仲間に入りたいという感じでしたね。息子もムギが大好きで、ムギを見るとにこっとしながらハイハイする。そうすると、ムギは驚いてさっと逃げるけど、息子がおとなしくしていると、近づいてきてそばで一緒に寝ています」

猫と赤ちゃん
今春、日なたぼっこする赤ちゃんに興味津々(Shingo Suzukiさん提供)

 赤ちゃんの時から一緒に過ごすことで、自然ないい関係が築けているとShingoさんはいう。しかし時には、ちょっとしたアクシデントもあるようだ。

「赤ちゃんも猫も、両方とも夜中に起きだして、『ミルクのみたい』、『餌ほしい』、と騒ぐので、夫婦でけっこうな寝不足になりました(笑)。ムギは今も夜中に覚醒して運動会をしますが、半年くらい前、息子の顔をうっかり踏み台にして引っかいたことがあった。薬を塗って大丈夫でしたけど、まあそんなことも生活しているとありますよね」

 とてもおおらかなパパだが、これから大きくなる息子に、猫との生活の上で、「よく聞かせて教えたいこと」があるのだという。それは、玄関や窓の“開け閉め”のことだ。

「ムギは保護猫で、外に出さない前提で迎えています。うちは一階なので、ムギが外に出ないかが心配。子どもが小さいとドアを開けたりするタイミングがわからないと思うので、開け閉めのタイミングのプロセスを教え込ませたい、と思っています」

 たとえば、郵便や宅配などが来た時は、まずドアを閉め、ムギが部屋にいるのを確認してから玄関を開ける。洗濯物をベランダに干す時には、ムギをケージに入れてからにする。そんなルールを作っていきたいという。

「家の網戸は、ペット対策用の丈夫なのにものしていて、見晴らしが悪くなったけど、背に腹はかえられないですからね。玄関には100均グッズで作った簡易なゲートを置いていますが、そのうちにしっかりしたのを作りたいです」

この先の楽しみ

 結婚して、ムギが来て、赤ちゃんも生まれて。独身時代に比べてShingoさんの心境や楽しみも大きく変わったようだ。

「子供はもちろんのこと、猫がいることで、“幸せ度”は間違いなく上がっています。これから、子どもと猫の成長を見られるのが楽しみですね。妻も仕事を持っているため、息子はいま保育園に通っていて、日中は僕とムギだけ。だから余計に猫との距離の近さを感じます。これから、作業部屋の模様替えもしたいと思っているんですよ」

男性と猫
Shingoさんに抱かれてオモシロ顔をするムギ(Shingo Suzukiさん提供)

 作業部屋にキャットウォークをつけるなど「猫仕様」にすれば、音楽制作をしている時にムギも遊べて楽しい空間になるだろう。今はその構想を練っているところだ。

 絵に描いたような順調な暮らしにみえるが、ひとつだけ、お悩みがあるという。

 それは……ムギが爪切りをさせてくれないこと。

「もうこれだけは本当に苦労していて、唯一のウィークポイントですね。タオルを巻くとかマスクをつけるとか、猫の爪を楽に切る方法をいろいろ調べています。でもどれもなかなか実行できず、半ば諦めつつ、ぎりぎりまで伸びてしまう……ムギちゃん頼む、爪を切らせて下さい(笑)」

◆Shingo Suzukiさんのオフィシャルサイト

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は18歳の黒猫イヌオと、4歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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