映画『犬部!』を見て思う 保護犬猫の問題や愛犬たちのこと
先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。
一足先に試写を見て
7月22日から全国で公開された『犬部!』という映画。脚本の山田あかねさんとは以前お会いしたこともあり映画『犬に名前をつける日』も観ている。原案『北里大学獣医学部 犬部!』(ポプラ社刊)の著者であるノンフィクションライターの片野ゆかさんと愛犬マドは、何度も食事をしたことがある仲なので今回お誘いいただき、ひと足早く試写を見せてもらった。
主人公が犬や猫を救いたいという思いから獣医学部の学生時代に「犬部」というサークルを立ち上げ、譲渡会など保護活動を行い、卒業後は獣医師となり、その活動を続けて行く中での物語なのだが、ストーリーや見どころは他の人が書くと思うので、ここではものすごく個人的な感想を書こうと思う。
まず、出てくる犬がめちゃくちゃ可愛い。演技も素晴らしい。特に冒頭に出てくる脱走犬「ニコ(雑種)」が、連れ戻されそうになるときに嫌がるしぐさなどは「これ、どうやって撮ったんだろう」と思いながら見ていた。スタッフみんな犬愛があふれているのは知っているから、怖がらせているとも思えない。
他にも、主人公たちと再会したときの犬たちの喜びようは本物だと思う。犬は、動きであれば従うかもしれないが、そういうストレートな感情の演技は出来ないからだ。きっと撮影するときだけ、カメラの前だけではなく、撮影の合間やそれ以外の時間もお互いに触れ合い、ある程度の信頼関係を築いていたに違いない。
雑種が多いのも良かった。私は昔から犬種なんてどうでもいい派なのだが、主人公の颯太の愛犬「花子」も雑種で、実に可愛く、きっちり役をこなしていた。(モデルになった花子も雑種で、さらに颯太のモデルになった太田快作先生も一瞬チラッと出演している。颯太に教える獣医役で)。
途中、何度か自然に涙がこぼれたシーンがあった。それは別に感動的な場面でもないのだが、たとえばある女性が「ろくろう(彼女の実家で飼っていた犬)の死に目に会えなかった」とつぶやくシーンで、薄暗い玄関にひとりでいるろくろうが映る。それを見ただけで、涙がつーっと垂れていた。
私も、先代犬の富士丸の死に目には会えなかった。ほんの数時間家を空けて、家に帰ると息をしていなかった。出かける前までなんの異常もなかったのに。最期、あいつは何を思ったんだろう。何を見ただろう。寂しかったんじゃないか。なのにそばにいてやれなくて。そのときの記憶がよみがえるのだ。この気持ちは10年以上経った今も変わらず残っているんだなと改めて思った。
映画の根っこにある問題
映画について個人的な感想はこのくらいにして、この映画の根底にある問題にも触れておきたい。映画の中で主人公たちは犬猫の殺処分をなくすために奔走するのだが、そもそもなぜ殺処分をしなくてはならないのか。
それは人気のある犬種を繁殖させまくる「犬ビジネス」と、安易に飼って捨てる人がいるからだ。犬と暮らしている人は信じられないと思うが、保健所に犬を持ち込む飼い主もいる。犬や猫が嫌いな人ではない。そもそも嫌いな人は飼おうとも思わないからだ。捨てるのは一応、犬猫好きなのだろう。
ペットショップでも保護犬でも大多数は犬と暮らしてみると、家族の一員のかけがえない存在になるだろう。でも飼ってみたけど世話が大変、いうことは聞かない。ペット不可の物件に引っ越すなど自分の都合で捨てる人が実際にいる。そういう人に「ほら、可愛いでしょ」と抱っこさせて買わせるペットショップがいまだにある。犬種にもはやり廃れがある。他にも色々なケースがあるが、ニーズがあるからビジネスが成り立つという構造がある。(詳しく知りたい人は『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇/太田匡彦 (著)』(朝日文庫)などを読んでみてください)
そもそも保護犬や保護猫に譲渡先があることを知らない人がいる。だから私は、これから犬と暮らしたい人に対して「買う」以外にも「飼う」方法はあるよ、と拙著で何度も書いてきた。ただ、動物保護団体から犬を引き取るといっても、そんなに簡単にもらえるわけではない。
意外に高い保護犬・猫の壁
保護犬の存在を知り「私も引き取りたい」と思うかもしれないが、実はハードルが高い。富士丸との出会いは、コリーがハスキーを孕(はら)ませて売り物にならないからと「いつでも里親募集中」というサイトに出ていたのを見つけたからで、そのブリーダーに連絡して会いに行くと「はい、どうぞ」だった。誓約書も何もなかった(私も里親募集というものをそのときに知った)。
それがたまたまだったのかもしれないが、今では時代は変わり、そんなに簡単に譲渡してくれる保護団体はない。団体によって様々だが、申し込むとまずアンケートに答える必要がある。質問の数も多く、中には年収や家の間取り、賃貸か持ち家か、さらには「将来子どもを作る予定はありますか?」といった、かなり立ち入ったことを直球で聞いてきたりする。
回答によって一方的に断られることもある。アンケートの段階で「なんて失礼な」と怒って止める人もいる。さらにこれで終わりではない。譲渡会で気に入った犬がいても、すぐに連れて帰れるわけではなく、後日保護団体の方が犬を連れて住宅環境を視察しにやって来る。たとえクリアしたとしても、2週間前後のトライアル期間があり、それをクリアしてはじめて正式に譲渡される。
その過程で、保護団体のどこか高飛車な態度(に感じる)に嫌気が差したから、もうペットショップで買うことにした、という方からメールをいただいたこともある。その気持ちは分かる。申し込んだ人からすれば「保護している犬を引き取りたいと言ったのに、なぜそんなに厳しくチェックされないといけないんだ」と思うだろう。ただ、保護団体の言い分も分かる。
なぜなら、誰もが責任を持って最後まで面倒を見るとは限らないからだ。先に述べたように捨てる人や、中には引き取った犬や猫にひどいことをする人もいる。そのことを一番良く知っているからこそ、チェックが厳しくなる。そこには一度つらい経験をした犬に対して、決して同じ思いはさせたくないという願いがある。保護団体によって基準は様々だが、そのスタンスはみな同じなのだ。
なぜそれを知っているのかというと、ライターという職業柄、数々の保護団体の方や、動物愛護センターで働く職員さんに会って話を聞いたことがあるからだ。
だから今後もし保護団体に申し込むときは、それを頭のどこかに置いてもらいたいと思う。でもこちらの犬や猫に対する覚悟(最後まで面倒を見るなんて普通だと思うが)や熱意がちゃんと伝われば、柔らかな態度に変わり、譲渡してくれると思う。最初は試されているんだなくらいに思った方がいい。
「救ってあげたい」ではない
大吉は、茨城県で放し飼いにされていた白い犬(雑種)に孕まされた家庭の茶色い犬(雑種)が産んだ子犬で、個人で保護していた人が「いつでも里親募集中」に掲載していたことで出会った。
福助は、千葉県を放浪していた子犬が保健所に捕獲(※)されたのを保護団体の「ちばわん」が引き出し、同じく「いつでも里親募集中」に掲載していたことで出会った。大吉は違うが、福助は一歩間違えば殺処分されていた可能性もある(※職員さんは悪くないですよ)。
だからといって、福助を「救ってあげた」とは思っていない。そういう意味でちばわんには感謝しているが、私が救ったわけではない。救ってやったではなく、彼がいることで空気がほんわかするので、逆に救われたと思っている。
とはいえ迎えた当初の彼は結構な問題児だった。捕獲されたときのトラウマで、抱き上げようとするとと嚙む、近寄ると逃げる、人を信用しない、目を離した隙にあらゆるものを破壊するなど、扱いにくいやつだったが、いつの間にか丸いタヌキシルエットになった。
福助も「救ってくれてありがとう」なんて思っていないだろう。それくらい自由に暮らしているし、それでいいと思う。
救われたというのは、きっと多くの飼い主が実感していることだろう。保護犬を引き取るときは、救ってあげたいではなく、救ってもらいたいくらいの方がいいんじゃないかと思う。
そういう人が増えて、犬ビジネスが回らなくなり、殺処分で頭を悩ませる人が減ればいいのにと願う。『犬部!』のストーリーとは話がそれてしまったが、根底にはそういうテーマがあると思った。ここを読んでいる人なら知ってる話ばっかりだったかもしれないが、機会があったらぜひ見てみてください。犬たちが本当に可愛いから。
映画『犬部!』の公式サイトはこちら
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