預かりボランティア2匹目 声をかけても無反応な、柴犬のおばあちゃんが来た

柴犬の保護犬
しばあちゃんの初日。「私はここに座ります!」と家に入った途端座った。

 インテリアデザイナーとして活動する傍ら、保護犬の預かりボランティアをする小林マナさん。預かり犬1匹目は、福島県の被災地から来た大型犬で、当時15歳だったタケでした。トレーニングを始めたさなか旅立つことになり、次の保護犬がやってきました。

(末尾に写真特集があります)

意固地なおばあちゃん

 預かりボランティアを始めて、新たに来た新人さんはまたもや老犬。亡くなったタケの悲しみが癒えない1週間後に「はい、マナさん! マナさんにぴったりの新人の“しばあちゃん”」と、動物愛護団体ミグノンの代表・友森さんが愛護センターから引き取った犬を手渡されました。

 柴犬のおばあちゃんの“しばあちゃん”は、おとなしい、情けない、地味が第一印象。タケは、立派、派手、温厚だったので、正反対の犬でした。人は嫌いなわけじゃなさそうだけど、好きでもない感じ。ほとんど愛嬌(あいきょう)がない。反応が薄い感じがしました。

 タケの時と同じように、まずはうちの玄関スペースに場所を作り、先住猫たちの様子を見ながら時間をかけて慣れさせました。

 しばあちゃんは、猫にはまったく反応しないのでホッとした、というか反応がやはりとても薄い。ずっとつながれっぱなしだったというし、名前を呼ばれたことはあるのだろうかと疑うほどの反応のなさでした。

 床にマットを敷いてあげると、くるっと丸まって座りました。寝るときもそのまま丸まります。その姿勢でずっといたんだろうと思うような猫背。知らない場所に来て、落ち着かなくてウロウロするのかと思っていたけど、本当におとなしい犬でした。

「しばあちゃん!私はマナ。よろしくね」とあいさつをするも、無反応。

 しかし名前がしばあちゃんか……。女の子だしなぁ……。そもそも”ばあちゃん”って名前じゃないよな……。う~ん呼びにくいなぁと困りました。名前は簡単に変えちゃダメだと思っていたので。

 散歩をしてみたとき、私はずっとしばあちゃんの後を追いかけるようにして歩いたのですが、引っ張るわけでもなく、匂いを嗅ぐわけでもなく、まっすぐひたすら歩くという感じでした。足の動きはとても硬くて、声をかけてもまったく振り向かないので、耳が聞こえないのかと思ったほどです。

 しかし家に帰って足を拭こうとしたら、「う~!」っとやられました。

 こんな時はどうすればいいんだっけ? ぬれた雑巾を床に置いて、しばあちゃんを何度か往復させることしかできませんでした。

柴犬
ひたすら前を向いて歩く。ほとんど匂いも嗅がずに振り向きもせず歩く歩く。

魔法のようなトレーニング

 タケのときと同じようにポジティブトレーニングのクラスを再開しました。

「しばあちゃんですか!またすごい名前ですね(笑)。犬の名前は好きにつけても大丈夫ですよ。その後、飼い主さんが決まってから違う名前で飼うこともできます。飼い主さんとの方が、付き合いが長くなるので大丈夫です」

 先生の話は目からウロコでした。それ以来私は、預かり犬の名前が呼びにくいときは名前を変えて呼んでいます。

 トレーニング初日、先生が「リードを貸してください」と、しばあちゃんと一緒に歩いてみたら……信じられない! “しばあちゃん”だと思っていた犬が、“若い犬”に見えたのです。

 先生がトリーツ(おやつ)で上手に誘導すると、姿勢良く、まるでもともとしつけがされていたかのような歩き方をするではないですか! 魔法のようでした。

「この子は10歳くらいじゃないですかね。まだ若いですよ」と先生が言ったのですが、本当にそう見えたのです。

 しばあちゃんの全身を触ってみたときに、特に嫌がっていたのが後ろ足だったのですが、先生に「トリーツを使って、平気な部位から毎日少しずつ触り、徐々に足に近づけていけば触れるようになる」ことを教えてもらいました。

 でも家に連れて帰ると、いつも丸まって寝ていたんだろうなと思わせる猫背の意固地なしばあちゃんに逆戻り。まるでシンデレラが乗った馬車の魔法がとけて、かぼちゃに戻ってしまったかのようでした。

 それでも素晴らしい先生に出会えたことをありがたく思いました。老犬でもトレーニングができることがわかったし、名前を変えても大丈夫だと知れましたから。先生に先に結果を見せてもらえたので、あとは私が頑張ればいいと思えたのです。

柴犬
今までずっと丸まって寝ていたのか背中が曲がっていた。

命名「ココ」

 家ではマットの上にくるっと丸まって座る、しばあちゃん。立たせてマットの場所を変えても、またマットの上にくるっと丸まって座るのです。「私の場所は”ここ”」と言いたげでした。

「わかった!ココにしよう!」

 というわけで、簡単な理由でしばあちゃんあらため、“ココ”と呼ぶことになりました。

 後で知ったのですが、マットの上でじっとする「マットトレーニング」というものがあり、その後、預かることになった犬たちもマットを敷いてあげるとそこにちゃんと座る習性がありました。当時のココは、単に体力がないため、すぐに座ってしまっていたのだと思いますが。

 ココはその後、毎朝トリーツを使ったトレーニングをしました。

 保護犬は逃走してしまうと家に戻ってこられないので、まず自分の名前を覚えるトレーニングが必須です。トリーツを何種類も用意し、部屋の中で何度も何度も呼んではトリーツをあげるところからスタートします。

 それまでつながれっぱなしで生きてきて、名前を呼ばれることのなかった犬が、突然知らない家に連れてこられてワーワーかまわれて、どんな気持ちだったろうと思います。

 うちに来たココは、別の人生ならぬ犬生が始まったのです。

【前の記事】初めての預かりボランティア 保護犬が急に逝ってしまい、命をつなぐ決意をした

小林マナ
設計事務所イマ/インテリアデザイナー。内装設計やインテリアデザインをメインに活動。東日本大震災をきっかけに保護犬や老犬の預かりボランティアを始める。2019年に<SLOW>のイベントを開催。猫2匹、預かり中の保護犬2匹と暮らす。犬や猫たちのために自宅と事務所を併設、家族と事務所のスタッフたちと保護犬の預かりボランティアをしている。インスタグラム @imanimaltokyo

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この連載について
預かりマナの老犬日記
保護犬の預かりボランティアをしているインテリアデザイナーの小林マナさんが、預かり犬の魅力や老犬との快適な暮らし方をお伝えします。
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