初めての預かりボランティア 保護犬が急に逝ってしまい、命をつなぐ決意をした

 インテリアデザイナーとして活動する傍ら、保護犬の預かりボランティアをする小林マナさん。預かり犬1匹目は、福島県の被災地から来た大型犬で、当時15歳だったタケ。

 東日本大震災から2年半以上が経っても、タケが飼い主家族と再び一緒に生活するのは難しい状況が続いていました。

(末尾に写真特集があります)

突然のお別れ

 老犬ながらトレーニングを頑張っていたタケ。そんな矢先、タケは突発性肺炎になり、最初に具合が悪そうだと気付いた日からたったの5日であっけなく虹の橋を渡ってしまいました。

 その日、タケは夜中に突然倒れて、救急病院で危篤状態になりました。

「突発性肺炎の末期です。どのくらい延命させますか? かなりお金がかかります」

 獣医師に矢継ぎ早にそう言われたとき、私の使命は、タケのお母さん(飼い主)とタケを保護した動物愛護団体ミグノンの代表・友森さんを待つことでした。それまではとにかくタケを生かしてもらおうと。

 翌日、タケのお母さんが福島から駆けつけ、私たちはタケが入っている酸素室の前で2時間ほど話をしました。

 タケは12歳だと聞いていたのに、実際は15歳だったこと。福島にいたころのタケは、軽トラの荷台に乗り、運転席の上に前脚を乗っけて風を切って乗っていました。近所の人はみんなタケのことを知っていて、タケが脱走すると車に乗せて送ってくれるような人ばかりだったこと。

 タケのお母さんはあたたかくて気持ちのいい人でした。こんな人の家にいたから、タケは温厚なゆったりした子に育ったのかなと、納得していました。

 そしてお母さんは「本当に今までありがとうございます。このあともよろしくお願いします」と言って、私と最後のタケに会えたこと喜び、福島へ帰っていきました。私も「タケを育ててくれてありがとうございます」と深々と頭を下げて見送りました。

犬と猫
具合の悪いタケを気づかう我が家の猫たち

 友森さんのほかに、ミグノン指定クリニックの獣医も酸素ボンベを持って駆けつけてくれました。タケが倒れる前日に診察してもらったのですが、その時は肺に影はなく「原因不明」という診断でした。

 それから「病院で死んでしまってはかわいそうなので、家でみとろう」という友森さんの提案で、タケを自宅に連れて帰ることに。酸素ボンベを借り、自宅に設置してもらいましたが、その日の夜中2時にタケは亡くなりました。

 タケは恵まれているなあと涙ながらに思いました。こんなにたくさんの人に手を尽くしてもらい、みとられて幸せだと思ったのです。タケが倒れてから24時間の出来事でした。

大型犬
ハウストレーニングはすっかりできるようになっていた

タケが教えてくれたこと

 結婚して実家を出てから18年、久しぶりに我が家にやってきたのが老犬のタケでした。犬を飼うのは久しぶりで、私の生活は劇的に変わりました。

 保護犬を助けたつもりが、タケのおかげで、私はまともな生活に戻れたように思います。不規則な毎日で「忙しい、忙しい」ばかり言っていた私にとって、ゆったりした散歩がちょうどよかったのです。

「なんでそんなに急ぐの? もっとゆっくり歩こう! もっと周りを見回してごらん!」とタケに言われている気がしました。

 タケに合わせて一緒に歩いてみたら、そこには花が咲いていたり、公園には優しい犬友だちがいました。こんなに美しい公園があったのかと、急に景色が見え始めたのです。

 正直なところ、タケとは心が通っていたとは思えません。いつ飼い主さんが来てもいいように“預かりさん”として私はタケと接し、一線を引いていたのです。それはとても複雑な気持ちでした。

 でもタケは「もっと今を楽しめばいいのに」と言いたげでした。来るかどうかわからない不安を考えないで、もっとタケと向き合っていればよかったなと今は思います。

 素晴らしいタケを預かっていた数カ月は幸せでした。忙しい日々に疲れ果てていた私の心は、タケのおかげで一気にカラフルによみがえりました。

 一方で、愛護センターにはもっとボロボロの名前もない老犬や病気の犬たちがいる。その子たちを助けなければいけないんだという気持ちが、芽生え始めていました。

大型犬
代々木公園での友森さんの屋外トークイベントに参加したタケ

預かりボランティア 2匹目は柴犬の「しばあちゃん」

 タケが亡くなって1週間後、次の犬が来ました。

 推定14歳くらい。飼い主が病気で飼えなくなったというの理由で、飼い主家族によって愛護センターに持ち込まれました。正直、怒りがこみ上げてきますが、次の瞬間「うちに来られてよかったね〜」という気持ちにもなります。

 どんな理由であれ、ミグノンに引き取られたことで以前よりいい状態になるのですから、もうかわいそうな犬ではないんですよね。トラウマのある子もいるけれど、犬たちは過去を恨んで生きていないのです。今日を生きている。今を生きている。

 悲しんでいても、タケは戻ってきません。ならばもう1匹預かろう、と友森さんに相談して預かることにした犬です。

 タケに教えてもらった「ゆったりした時間」「規則正しい生活」「楽しかった生活」を、次につなげないともったいないと思えたから。

 タケありがとう!

 預かりさんを続けているよ!

 タケにいっぱい教えてもらったよ!

 次回からは、意固地な「しばあちゃん」のお話です。

【関連記事】保護した老犬にトレーニングはできる? 温厚な大型犬の「タケ」にうなられた!

小林マナ
設計事務所イマ/インテリアデザイナー。内装設計やインテリアデザインをメインに活動。東日本大震災をきっかけに保護犬や老犬の預かりボランティアを始める。2019年に<SLOW>のイベントを開催。猫2匹、預かり中の保護犬2匹と暮らす。犬や猫たちのために自宅と事務所を併設、家族と事務所のスタッフたちと保護犬の預かりボランティアをしている。インスタグラム @imanimaltokyo

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この連載について
預かりマナの老犬日記
保護犬の預かりボランティアをしているインテリアデザイナーの小林マナさんが、預かり犬の魅力や老犬との快適な暮らし方をお伝えします。
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