子犬や子猫のマイクロチップ装着に課題 チップの脱落や体にマヒが残る事故も

出品前の子犬・子猫に、獣医師が次々とマイクロチップを装着していく=2021年1月、埼玉県上里町の関東ペットパーク、太田匡彦撮影

 販売される子犬や子猫へのマイクロチップ装着が、来年6月から義務化される。チップは直径2ミリ、長さ10ミリ程度の大きさがあるが、子犬や子猫の小さな体に、問題なく埋め込めるのだろうか。埼玉県上里町にある子犬・子猫のオークション(競り市)を取材した。

装着した子犬・子猫の0.6%でチップが脱落

 このオークションでは昨年10月から、出品されるすべての子犬・子猫にチップの装着を始めているが、「やってみたら、けっこうな問題が出てきた」(オークションの代表)という。今年1月第2週までの15回のオークションで、計1万1923匹の子犬・子猫にチップを装着したところ、0.6%にあたる68匹で脱落してしまったのだ。装着義務化後は、脱落したままだと、販売した繁殖業者などは、動物愛護法に基づく改善勧告などの対象になる可能性がある。

 チップは装着後しばらくの期間、組織内で動く状態が続く。一方で装着時にできる傷がふさがるのに2、3日程度かかる。この間に200匹に1匹程度の割合で脱落が起きてしまった背景には、体が小さく、活発に動き回る、生後間もない子犬・子猫に対するチップ装着の難しさがあるとみられる。

出品前の子犬・子猫に、獣医師が次々とマイクロチップを装着していく=2021年1月、埼玉県上里町の関東ペットパーク、太田匡彦撮影(画像の一部を加工しています)

 これまで同オークションでは、落札者であるペットショップ側が希望すれば、会場でチップ装着を行ってきた。結果として2017年以降、出品された個体のおよそ4割にあたる、毎週300匹程度にチップを装着することになった。そうしたところ、埋め込まれたチップが神経や筋肉に触れてしまい、痛みで鳴き続けたり、一時的に障害が出たり、チップ摘出後も下半身にマヒが残って立てなくなったりする事故が、4年間で18件起きた。

 オークション所属の獣医師は「子犬や子猫は体が小さく、動きも活発なため、チップが皮下で固着する前に脱落が置きやすい。脱落を恐れるあまり、深く無理に入れようとして、筋肉や頸椎そばの神経にあたる事故が起きてしまった」と説明する。こうした経験から、深く入れすぎないように装着することを心がけると、時に脱落が起きてしまうという。

神経障害などにつながる事故が頻発する可能性も

 義務化されていないこれまでは、チップの装着は多くの場合、飼い主の自主的な判断で行われてきた。生後91日以上の犬に義務づけられる狂犬病予防注射の前後や、生後6カ月前後以降まで成長して不妊・去勢手術を行う際にセットで装着するケースが多い。動物病院での装着なら飼い主か動物看護師が「保定者」となって動かないようにおさえているし、不妊去勢手術の際は麻酔がかかって寝ている。

 だが来年6月からは、毎年数十万匹単位で、生後56日前後の子犬・子猫に、繁殖業者らの主導でチップ装着が行われることになる。繁殖業者やペットショップにとっても、獣医師にとっても、これまで経験したことのない取り組みだ。しかも、どういう体制で装着作業を行うか、多くの部分が獣医師ではなく業者の判断にゆだねられることになるし、少なくとも、1匹ずつ麻酔をかけて装着するのは現実的ではない。

 もし0.6%の割合で脱落するなら、10万匹あたり600匹と、かなりの脱落事故が起きる計算になる。繁殖業者が出荷する直前の幼い子犬・子猫の扱いに不慣れな獣医師が、数多くの装着をこなそうとすれば、神経障害などにつながる事故が頻発する可能性も考えられる。

 チップの装着義務は、業者が繁殖に使っている犬猫も対象になっていることも忘れてはならない。狭いケージに入れっぱなしで飼育している繁殖業者のもとにいる犬猫は、人慣れしていないことが多い。業者が動物病院に連れてくるにしても、獣医師が業者のもとに出向くにしても、首輪もつけたこともないような人慣れしていない犬猫に、獣医師は安全、確実にチップを装着できるのだろうか。

チップ装着のガイドライン策定を

 チップの装着義務化は「自民党どうぶつ愛護議員連盟」が主導して、遺棄の防止やトレーサビリティーの明確化を目的に導入された。装着が犬や猫へのリスクになっては本末転倒だし、少なからず脱落するようなら、十分に目的を果たせなくなる。

 環境省動物愛護管理室は、「(子犬・子猫への装着で起きる問題について)課題として把握している。(装着義務化の)施行までに、なんらかの検討が必要だと考えている」というが、残された時間はあと1年しかない。チップ装着にあたってのガイドラインなどの策定を、日本獣医師会とも連携を取りながら、急いでほしい。

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太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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この特集について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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