数値規制で自治体職員は効果的な監視や指導が行えるか? カギは「解説書」

繁殖業者のもとで飼育される犬たち

 昨年12月25日に開かれた中央環境審議会動物愛護部会で、犬猫の繁殖業者やペットショップに対する数値規制(飼養管理基準に関する省令)の環境省案が、大筋で承認された。積み残された課題はあるが、業者による犬猫の飼育環境の大幅な改善が期待できる、踏み込んだ規制が実現することになった。

6月までに「解説書」を作成

 悪質な業者に改善指導をしたり、業務停止などの行政処分を下したりするのは、都道府県や政令指定都市、一部の中核市の役割だ。業者の飼育環境を巡ってはこれまで、定性的であいまいな基準しかなかったため、行政による効果的な指導が行えない現実があった。

 自治体職員にとっては膨大な手間と時間を必要とし、一方でそのために、悪質業者は実質的に野放しになってきた。こうした問題を打開するために、今回の規制が導入されることになったわけだ。

 今後は、実際に業者の監視・指導にあたる各地方自治体の職員が、いかにこの規制を運用できるかが焦点になる。

 そこで、環境省がこれから作る予定の「基準の解説書(仮称)」が重要になってくる。解説書について環境省動物愛護管理室は、規制の「考え方や基準を満たす状態などをわかりやすく示すとともに、よりよい飼育管理を実現するため」のものだと説明している。

 具体的には、これまで規制の内容を議論してきた「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」で、

①基準を満たす状態(満たさない状態)の例示
②基準を適用した場合の代表的な品種ごとの具体的数値
③基準を満たすだけでなく、より理想的な飼養管理の考え方

 などを、今年6月の省令施行までに固めていくという。

 ②については、既に示されているケージの広さなどを規定する計算式に、犬種、猫種それぞれのスタンダードをあてはめていく作業なので、議論の余地はない。③については、これまでの検討の延長線上であり、検討会の有識者らが動物行動学などの専門知識を持ち寄ることで、策定できるだろう。

自然サイクル通りの照明、どうやって確認?

 問題は、①の「基準を満たす状態(満たさない状態)の例示」だ。

 今回の規制のなかには実は、数値ではなく文章で規定されたものが多く含まれている。たとえば、メス猫の出産回数の上限を規定することは見送られたが、「自然採光又は照明により、日長変化(昼夜の長さの季節変化)に応じて光環境を管理すること」を義務づける規定が設けられた。

 環境省はこの規定により、一定程度、メス猫の出産回数を制限できると考えている。猫は季節繁殖動物なので、1日12時間以上照明をあて続けると、1年を通じて発情期がきて年3回ペースの繁殖が可能になる。

 そこで、自然のサイクル通りの照明時間にすることを義務づければ、過度の繁殖は避けられる、というわけだ。だが、「日長変化に応じた光環境」が管理できている状態かどうか、どうやって確認するのだろうか。

 また、寝床にしかならない程度の広さのケージを積み重ねた状態で繁殖用の犬猫を飼育することは許容されるが、その場合には「1日あたり3時間以上運動スペース内で自由に運動することができる状態に置くこと」などと規定した。

 運動ができないような狭いケージに閉じ込めっぱなしで飼育することは禁じるということだが、犬猫が「1日あたり3時間以上運動スペースに出されている」という状態が満たされているかどうか、どうやって確認するのだろうか。

「解説書」検討会メンバーの拡充を

 こうした、定性的だが重要な規制が守られているかどうかの確認方法が、①によって明文化されなくてはならない。

 そのためには、日常的に業者と対峙している地方自治体や、悪質業者のもとから犬猫をレスキューする経験を積んできた動物愛護団体の知見が、絶対に欠かせない。また、規制の網の目をくぐろうとする一部業者との「知恵比べ」になるという側面も考えれば、優良な業者から意見を聞くことも大切だろう。だが、解説書を策定するための検討会に動物行動学者や法学者はいても、自治体職員や動物愛護団体の代表、ペットショップ経営者などは入っていないのだ。

 解説書の役割は、きわめて重い。その書きぶりによっては、せっかく作られた一部の規制が「骨抜き」になる可能性もある。環境省は、2月にも解説書策定に向けて検討会を再開する考えというが、検討会メンバーを拡充すべきではないだろうか。

 数値規制は、2011年12月に中央環境審議会動物愛護部会でその必要性を訴える報告がなされて以来、およそ10年という時間をかけてようやく実現するものだ。関係者のこれまでの努力を無にしないために、そして何より、業者のもとにいる犬猫の飼育環境を確実に向上させるために、悔いの残らない形で議論と検討を尽くしたうえで、解説書を策定してほしい。

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太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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