日本の常識は世界の非常識!? 動物福祉で一歩先行くドイツのリアルが知りたい!

ドイツの家族
今回お話をお聞きしたファミリーの方々。ドイツのバイエルン州でオーガニックフードを開発している

 公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。私たちは「日本の動物福祉を世界トップレベルに」を掲げて活動をしています。日々大好きな犬や猫たちがどうしたらもっと幸せになれるのか、を考えているわけですが、残念ながら「日本の常識は世界の非常識かも」と感じることも多々。この連載のテーマは「犬や猫のためにできること」です。であれば、日本より一歩先行く国ドイツ、日本人と気質が似ている国民性とも言われるドイツ(だったら日本人は真似しやすい!?)、そのリアルを知って我が振りを考えてみたいと思います。

(末尾に写真特集があります)

「犬はそのままが一番美しい」と考えるドイツの人々

「動物福祉 ドイツ」という言葉で検索するとドイツの進みっぷりが出てきます。例えば、「動物保護 犬規則」では、犬についてケージの大きさや自然光が入らねばならない、などの物理的な飼育規定が決められており、また最近の法案では、動物のメンタルに配慮した改正案もあがっているようです。犬猫好きからすれば当たり前のことですが、法案にまで落ちているドイツ。

 しかし実際のリアルはどうなのか?が知りたくて、ドイツのバイエルン州で、こだわりのドッグフード napani(ナパーニ 2015年設立)の運営をしているウルリケさん。そしてファミリーに嫁いだ日本人であるマキさんに、アニドネで根掘り葉掘り聞いてみました。お話をお聞きました。

――実際のところ、日本と何が違うのでしょうか?

 マキさん:「私の知っているこちらのドックオーナーの皆さんは犬を心から愛していらっしゃいますが、心底に『犬は犬』と一線を引いていらっしゃる方が多いように思います。私自身も含めて日本では特に小型犬に対して自分の『赤ちゃん」のように接し、度を越えた行為も『いたずら』として目をつむっている場合が多々あるのではないでしょうか。これはあくまでも私の主観ですので、間違っていたらごめんなさい。ただ、ドイツでは小さい犬であれ大型犬であれ、悪いことや迷惑なことをしたら、人目をはばからず、しっかりその場で怒る場面に接する事が多いです」

2匹の犬
高級レストラン以外で犬がNGという店はあまり見かけないそう。レストランやホテルで大人しく飼い主の傍らで眠る、またはスーパーの前で大人しく飼い主の買物が終わるのを待つ犬を見かけることが多いそう

――しつけはどうやって行うのですか?

 ウルリケさん、マキさん:「ドイツには、行儀がよく、よく訓練された犬がたくさんいますが、もちろん、時々はコントロールできていない犬も見かけます。しかし、多くのドイツ人は、犬のしつけができていないことを恥ずべきことと感じます。しつけができていないと、飼い主のモラルや常識を疑われてしまうので、犬のトレーナーを雇うか子犬から訓練クラスに連れて行きます。私が暮らす人口3600人程度の田舎でも、犬の学校(フンデシューレ)は存在します。それくらい、犬の学校に通わせることや、トレーナーを雇うことは一般的です。

 そして、いくつかの動物保護施設は、トレーナーがボランティアとして協力して犬のしつけを行います。特にしつけが難しい犬に関しては、家庭に迎え入れられた後でも、アフターケアを提供しているところもあります」

――日本との文化の違いは感じられますか。

 マキさん:「日本の犬や文化について詳しいわけではありませんが、犬に服を着せている写真をよく見かけます。ドイツでも犬の服は売っているので、特別な時にわずかな時間着せることはあるかもしれませんが、外で散歩する犬に服を着せている場面を見かけることはありません。ドイツ人の多くは、犬はそのままが一番美しいと考えていると私は感じます。もしも、この近辺で犬を着飾って歩けば、周りからは白い目で見られてしまうでしょう」

散歩する犬
犬税があるドイツ。税金の額は犬種によって異なることもあるそう。一般的に、バイエルンでは、闘犬として認定されている犬(アメリカンスタッフォードシャーテリア、フレンチブルテリア、ピットブルなど)は、飼育に許可が必要。

癒やしを求めるコロナの影響はドイツでも

 しかしながら、日本だって動物愛護法を読み込んでいる飼い主さんなんて稀なわけで、ドイツの一般の飼い主さんは動物保護法をどのくらい守っているのかは常々疑問に思っていました。市民の意識がとても気になったので聞いてみました。

――実際のところ、法律は守られているのでしょうか?

 ウルリケさん、マキさん:「犬を始めとした動物の生きる権利については、法律で認定されています。例えば、犬の飼育環境は、犬小屋と共に、太陽の光を浴びて自由に動き回ることができる時間、もしくは、それが可能なスペースを確保しなければなりません。また、オーナーと一緒に過ごす時間を持つことも定められており、一日中犬だけを放置することは禁じられています。外での繋ぎ飼いは犬小屋が与えられているとみなされません。ドイツの人は、違反者をみるとすぐ通報するので、外で繋ぎ飼いするような人は滅多にいません」

――犬を捨てたりするような方はいないのでしょうか?

 マキさん:「ドイツでは、野良犬を見かけることはまずありません。ティアハイムに、犬を自ら持ち込むことはあっても、野山に捨てることはしません。マイクロチップが徹底されているため、もしも犬が迷子になったとしても、すぐに見つかります。

 しかし、このコロナウイルスの隔離生活中に、暇つぶしでペットを飼い始めた人が多く、そのためかどうか断言は出来ませんが、高速道路のサービスエリアにペットを捨てるケースが多発し始めています。今まではそのようなケースはありませんでした。それによってティアハイム(保護施設)の収容頭数が増加傾向になりつつあり、残念に感じています」

山にいる犬
napaniファミリーの愛犬のマイロとハナ

殺処分はないけれど安楽死の選択はある

 犬を飼うことの難しさに「命」である、ということが言えます。命だから、殺処分を簡単にしてはいけないし、ぬいぐるみのように洋服を着せて愛でるのは倫理的に考えるべきだし、逆に命があるからこそ種別を超えたコミュニケーションは人の心を溶かし、病気まで直してしまうこともある。それほど、犬と人との付き合いは密接で意義があると私は考えています。

――ドイツの動物保護の体制をどうお考えですか。

 ウルリケさん:「私が問題視するのは、ドイツの殺処分をしないという体制です。本当にそれは良いことなのか、犬達にとってどうなのか。犬の中には、養子に出せる状態になるのが不可能な犬や、怪我などが原因で障害を負った犬、その他様々な理由で一生をティアハイムの檻の中で過ごすことになる犬がいます。それは彼らにとって本当に幸せなのでしょうか。

 社会的な圧力からNo Killを始めたアメリカの多くの施設が経験しているように、『ただ増え続ける犬の数を抑えるために、ろくな家庭調査もせずに闇雲に縁組をする』現状が、いずれドイツにも来るのではないかと懸念しています」

ドイツの風景
ドイツnapani。パートナーの長生きを願う開発者の想いから誕生したドッグフード

――安楽死という選択肢についてはドイツではどう考えられていますか。

 ウルリケさん:「終生飼養という意味では、ドイツでは、治る見込みが無い病気の犬に延命治療を行うなど、苦しみながら生き続けるよう強いることは、むしろ虐待とみなす考え方が徐々にですが多くなって来ています。つまり安楽死という選択が飼い主にあるということです。

 人それぞれ生死感が異なるので、一律に皆がそうしているとは言えませんが、『自身の犬を亡くす悲しみ』よりも『本当にこの子はこれで幸せなのか?辛くないのか?』と自問自答し、犬の幸せの為に安楽死という選択をする飼い主が増えて来ています。日本では、安楽死という選択は一般的では無いようで、その点は、ドイツとの違いだと感じています」

動物に対しての尊厳を持つ

 ヨーロッパは、狩猟民族だから動物の扱いがうまいとか、ナチス時代に人々の支持を得るために自然保護や動物福祉が進んだとか、さまざまな起因があるのだと思います。動物の扱いは国によって本当に異なるので、日本がすごく遅れているとも思いません。でも、もう一歩進めたい。その進めるべきポイントは動物に対しての尊厳を人間が持つ、ことだと思います。尊厳をもって接すれば動物に対して配慮ができるようになる、その配慮はきっと素敵な共生を作ることになると考えています。

 napaniファミリーさん、とても貴重お話をありがとうございました。こだわりドッグフード napaniは日本法人napaniジャパンもあり購入も可能です。

(次回は5月5日に公開予定です)

【前の回】アメリカでフォスターボランティアに挑戦 個性豊かな犬たちとの日々で学んだこと

〈訂正して、おわびします〉
 2021年4月5日に公開した記事で、「動物保護法では、ケージの大きさや自然光が入らねばならない、などの物理的な飼育規定が決められており」としましたが、2021年8月31日に「『動物保護 犬規則』では、犬についてケージの大きさや自然光が入らねばならない、などの物理的な飼育規定が決められており」と訂正しました。ケージの大きさなどを定めたのは、動物保護法ではなく「動物保護 犬規則」であり、対象は犬でした。確認が不十分でした。訂正し、おわびします。
 2023年8月4日に、「犬税があるドイツ。税金の額は犬のサイズによって異なるそう」を「犬税があるドイツ。税金の額は犬種によって異なることもあるそう」と訂正しました。犬税が犬種によって異なることがあることは確認できましたが、サイズによって異なることは確認出来ませんでした。
  また同日、「一般的に、バイエルンでは、闘犬として指定されている犬(アメリカンスタッフォードシャーテリア、フレンチブルテリア、ピットブルなど)は、飼育が禁止」を、「一般的に、バイエルンでは、闘犬として認定されている犬(アメリカンスタッフォードシャーテリア、フレンチブルテリア、ピットブルなど)は、飼育に許可が必要」と訂正しました。闘犬や、交配によって闘犬の血統を持つ犬は、飼育は禁止されておらず自治体の許可が必要でした。いずれも確認が不十分でした。訂正し、おわびします。

西平衣里
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊メンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営を経て、アニマル・ドネーションを設立。寄付サイト運営を自身の生きた証としての社会貢献と位置づけ、日本が動物にとって真に優しい国になるよう活動中。「犬と」ワタシの生活がもっと楽しくなるセレクトショップ「INUTO」プロデユーサー。アニマル・ドネーション:http://www.animaldonation.org。INUTO:http://inuto.jp

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この連載について
犬や猫のために出来ること
動物福祉の団体を支援する寄付サイト「アニマル・ドネーション」の代表・西平衣里さんが、犬や猫の保護活動について紹介します。
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