アメリカでフォスターボランティアに挑戦 個性豊かな犬たちとの日々で学んだこと

今回インタビューに答えてくれた李さんとフォスターを始めて4匹目のPickleちゃん。サンフランシスコ在住
今回インタビューに答えてくれた李さんとフォスターを始めて4匹目のPickleちゃん。サンフランシスコ在住

 公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。「犬や猫のためにできること」がテーマの連載。今回は、アメリカ・カリフォルニア州にある『PETS IN NEED』(※1)という保護シェルターのフォスターボランティア(※2)の活動にスポットをあてて記事を書きます。

 コロナ禍の在宅時間を有効に使えないか、と考え抜いた結果、犬の飼育経験がないにもかかわらず勇気ある挙手をした李静佳(り・しずか)さん。彼女へのインタビューから、犬猫への向き合い方の違いを探ります。

※1 今回の記事は、シェルター『PETS IN NEED』にも了承を得て掲載しています。
※2 フォスターボランティアとは、保護された犬猫を自宅で預かるボランティアのこと。日本では、預かりさん、と呼ばれることもあります。

(末尾に写真特集があります)

フォスターになるなら今!の決断

 日本生まれ日本育ち、鳥の飼育経験は豊富な李さん。仕事でサンフランシスコに住むことになり一番最初に驚いたのは「空港で普通に犬が歩いていること」だったそう。バスに乗っても犬を見かけ、レストランではドッグファーストとばかりに犬にもお水のサービス、根本的に動物への接し方が日本とは違う、と感じながら暮らしをしていたときにコロナでロックダウン。

「仕事も在宅勤務になり、ずっと家にいるこの時間をどうやったら有効活用できるかなと考えていたとき、今だからこそフォスターボランティアができるのでは!?と思い立って、すぐに近隣のシェルターのボランティア情報を調べ始めました」と。

一緒に休日を楽しむ李さんと、3本足で上手におすわりするPickleちゃん
一緒に休日を楽しむ李さんと、3本足で上手におすわりするPickleちゃん

フォスターボランティアはウェーティング!?

 日本でもコロナ禍はペットを飼いたい方は増えています。2020年ペットフード協会の調査によると、新規飼育者は、犬で14%、猫で16%、上昇しました。これは近年まれに見る上昇率、あきらかにコロナ禍に癒やしを求めてペット飼育に踏み切る方が増えているのでしょう。それは世界的にも言えるようです。

 しかし李さんのお話で興味深かったのは、シェルターではボランティアをしたい方が飽和状態になっていた、というお話。実は李さん、他のシェルターにもアプローチをしたものの、その時点でなんと100名以上のフォスターボランティア待ちがいたそう、これは日本ではあまり聞かない話です。

 フォスターになるための手続きを聞いてみました。

 「まずオンラインで申し込みます。質問項目がたくさんあって、『フォスターになりたいと思った理由』『過去に動物と暮らした経験』といった基本的な内容から、『住環境(一軒家か集合住宅か、間取り、庭の有無など)』『1日のスケジュール』『生活スタイル(アクティブか、インドアか)』『1日のうちフォスターする犬と一緒に過ごせる時間』『犬がお留守番する時間やその環境』などの細かい質問に、とにかく具体的に、うそ偽りなく書きました。

 申し込み内容が承認されれば、面接などは特になく、申し込み後にマニュアルと簡単なオンラインのテストが送られてきて、テストに回答することでフォスターのメーリングリストとFacebookグループに登録されます。その後は定期的にフォスターの募集が届くので、名乗りを上げて、そこでシェルターから選ばれれば無事フォスターとして保護犬を預かることになります。

シェルターから支給されるフォスター用備品。オモチャまで!
シェルターから支給されるフォスター用備品。オモチャまで!

 ボランティアは無償ですが、ドッグフードやトリートなどの食べ物、クレート、ベッド、トイレシートなど、必要な備品は全てシェルターから提供されます。また、シェルターが提携している病院があり、夜間も含めて緊急時はその病院で治療を受けることで、医療費も全てシェルターから直接支払われます。日本ではドッグフードなどはフォスターの負担になることも多いみたいなので、こちらのシェルターは物資も資金も日本に比べ充実しているのかなと思います」

犬にはポジティブに接するというゴールデンルール

 すばらしい行動力で勇気あるチャレンジをした李さん。ほどなく1匹目のワンちゃんを預かることになったそう。

「私がボランティアしているシェルターのフォスターマニュアルは、犬編だけで全部で40ページほどあり、自宅に連れて帰ってからすること、毎日のトレーニング、緊急時の対応などがぎっしり書かれています。もちろんそれだけでも勉強になるのですが、個人的にすごくありがたいのは、シェルターのフォスターコーディネーター、トレーニングチーム、メディカルチームなどにいつでもメールや電話で直接質問することができて、ものすごく丁寧に指導をしてくれるところです。

特にトレーニングチームに関しては、その犬に合ったトレーニングガイドや参考資料を送ってくれたり、テレビ電話で直接トレーニングを見てもらったりと、本当に助けてもらいました。また、このシェルターでは”Fear Free Training”といって、怒ったり罰を与えたりして教えるトレーニングはしない、というゴールデンルールがあります。悪いことを叱るのではなく、いいことをしたときに『楽しい、おいしい』などポジティブな刺激で学習してもらう方法です。これもすごく新鮮でした」

念すべきフォスター1頭目のMedici。大型犬にかまれて傷だらけで保護されたそう
念すべきフォスター1匹目のMedici。大型犬にかまれて傷だらけで保護されたそう

 『PETS IN NEED』のホームページには、年間2,000匹以上の動物をレスキューし、少なくとも1,200人のボランティアを募集して維持している、と書かれています。人口も違う国ですが、日本にはない規模感ですね。しっかりとしたマニュアルや運営スタッフがあってこその安定した保護活動が出来ているのでしょう。

困っている犬が幸せを手に入れる手助けを」

 李さんによると、フォスターに名乗りをあげてから5カ月の間に5匹もの犬たちのフォスターをしています。このテンポの速さも日本とは違うところでしょう。実際、『PETS IN NEED』のホームページには最近新しい飼い主が見つかった犬や猫、ウサギたちが紹介されています。致し方ない理由があるから手放す人もいる、一方でペットを迎えるならば保護犬猫たちを、という一般市民の理解があるのでしょう。

 ペットを飼育するというのは、思った以上に大変です。それは日本でもアメリカでも一緒ですが、本当に困ったときのセーフティーネットがしっかり機能している、というふうに感じました。

『PETS IN NEED』のホームページより。最近新しく譲渡された動物たち。1日で8匹も新しい譲渡先が見つかった日も!
『PETS IN NEED』のホームページより。最近新しく譲渡された動物たち。1日で8匹も新しい譲渡先が見つかった日も!

 李さんが旅立ちを手伝った犬たちの犬生は実にさまざま。大型犬に襲われて身体中に大けがを負った犬、人間におびえて何週間も部屋の隅で震えたままの犬、生まれつき目が見えない犬など、後ろ脚がなく3本足の犬、元飼い主の都合で手放された、皮膚炎を患った犬と。「よく次々と対応できますね。大変でしょう?」と聞いてみました。

 「やはりそれぞれ理由があってシェルターに来た子たちなので、一筋縄ではいきませんでした。ただ、フォスターをやろうと決めたときから心がけていることがあって、『ただ楽しく犬と暮らしたいのではなく、あくまでボランティアとして、今困っている犬たちが幸せを手に入れるための手助けをしたい』という気持ちを忘れないようにしていました。

 大変なことに変わりはないのですが、今ここで踏ん張ることでこの子の将来が明るくなるなら、と考えれば乗り越えられました。そして大変なこと以上に犬たちから与えられることの方が大きくて、いつも涙のお別れになります(笑)。問題を抱えてうちにやって来た時と、譲渡先が決まってうちを出て行く時の変化を考えると、この子たちの将来が決まる大事な時期をうちで過ごしてくれて本当にありがとう、と心から温かい気持ちになります。幸い、今までフォスターした犬たちはみんな譲渡先が見つかって、それぞれ新たなおうちに旅立って行きました」

日本とはなにが違うのか?

 李さんがボランティア登録をしている『PETS IN NEED』。アメリカ・カリフォルニア州レッドウッドシティに本部を構え、犬猫の殺処分ゼロ活動促進をミッションとする動物保護シェルターです。シェルターの活動は日本とどう違うのか、私なりの考察を書きます。

 一言でいうと、すべてにオープンマインドだと感じました。例えば、ペットを引き取ってほしいという相談だけでなく、市と連携して攻撃的な動物や咬傷、動物虐待または飼育怠慢などの相談にも応じてくれます。保護する動物は土地柄もあるのでしょう、野生動物もレスキューします。

 また、動物側だけでなく経済的困難に陥った飼い主さんにもセーフティーネットとして、物資提供や動物治療のサポートも行っています。低所得者向けのサービスとして、移動式のクリニックを立ち上げ、月に1~2回低所得者のコミュニティーに行く獣医サービスもあります。動物を軸に発生する困りごとをサポートするスタンスですね。

 そして、日本では考えられないポジティブな施策もあります。例えば、子供の誕生パーティーをシェルターで受け付けています。誕生パーティーには、シェルターツアー、ハンズオンアクティビティー、動物との交流の時間も含まれています(ちなみに料金は325ドル)。私が親だったら毎年ここで誕生会をしてあげたいですね。感受性豊かな子供に大きな学びとなることでしょう。

誕生パーティーは土日の午後を利用して。子犬や子猫と遊ぶこともできるそう
誕生パーティーは土日の午後を利用して。子犬や子猫と遊ぶこともできるそう

 ボランティアさんも、李さんのようなフォスターだけではありません。例えば、シェルター内の動物のお世話、保護動物の輸送、犬のお散歩など多岐にわたります。また、今はコロナの影響でシェルター内でお手伝いするボランティアを一時停止しているため、最近ではリモートエンリッチメントチームというおうちでできるボランティアプログラムが発足しました。うさぎの巣箱や犬用のフードパズル、子猫用のおもちゃなどを作って、シェルターで動物たちが楽しく過ごせるような活動です。

「やらない善よりやる偽善」

 最後に李さんに「日本を離れてみて、日本はもっとこうすればいいのに」と思うところはありますか?と聞いてみました。

「サンフランシスコに住んでみて驚いたのは、ボランティアやドネーションに積極的な人が多いということです。シェルターの前には大きなドネーションボックスが設置されているのですが、いつもドッグフードやベッド、サークルなどでいっぱいになっています。フォスター犬の引き渡しにシェルターに行ったとき、おじさんがふらっと入ってきて『これ、寄付金です』と封筒を渡してさっそうと去って行く姿も見ました。

『やらない善よりやる偽善』でいいと思います。自分の行動ひとつで一体何が変わるのかわからなくても、何かを変えたいと思う気持ちはどこかにきっと届いています。サンフランシスコに来て、ボランティアを通して、私はそう学びました。日本でも、もっとボランティアやドネーションが活発になればいいなと心から思います」

 アニドネは寄付サイトの運営がメインなのですが、海外在住の方から寄付をいただくこともあります。その理由は、「海外に住んでみて動物に対する考え方が変わった、日本を何とかしたい」という思いから。文化、宗教、教育、その理由は多岐にわたるでしょう。動物福祉の発展が遅いだけ、民度が低いという言葉で表すのが近いのか。ただ、大きな差があること、そこに違和感がある方は海外に住まずとも確実に増えていることを感じています。

 今回李さんのお話が大変参考になったのでsippoで記事にしました。多分、住んでいる国は違えど動物に対する感情は同じだと思います。しかし動物に対して尊厳をもって接する努力は、日本はまだまだ足りないのでしょう。動物に理解のあるsippo読者さんのような方々と、近い将来を変えていければと思っています。

(次回は4月5日に公開予定です)

【前の回】犬や猫と一緒に暮らすことの素晴らしさ 大切なペットに何を返せるのか考えてみよう

西平衣里
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊メンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営を経て、アニマル・ドネーションを設立。寄付サイト運営を自身の生きた証としての社会貢献と位置づけ、日本が動物にとって真に優しい国になるよう活動中。「犬と」ワタシの生活がもっと楽しくなるセレクトショップ「INUTO」プロデユーサー。アニマル・ドネーション:http://www.animaldonation.org。INUTO:http://inuto.jp

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この特集について
犬や猫のために出来ること
動物福祉の団体を支援する寄付サイト「アニマル・ドネーション」の代表・西平衣里さんが、犬や猫の保護活動について紹介します。
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