臆病でアピール下手のため譲渡先が見つからなかった黒猫 家族を支え世話を焼く存在に
神奈川県横浜市で暮らすれいさんは、5年前、息子の成人を機に黒猫のくろか(雌)を家族に迎えた。
「ぐるみゃ〜〜おぅうう。わああ〜〜んうおぅ」。盛大におしゃべりしながられいさんに擦り寄るくろかはかつて、引き取り手が見つからないほど臆病で内気な猫だった。
臆病でアピールが下手な子猫
もともと大の猫好きだったれいさんは、かねてから、仕事と子育てが落ち着いて自分の時間が取れるようになったら保護猫を家族に迎えようと夢見ていた。「迎えるなら黒猫を」れいさんがそう決めていたのには理由がある。
「写真映えしない、縁起が悪い、地味。そんな理由で黒猫は人気がなく、保護シェルターでも残ってしまうと聞いていたんです。だから、もしご縁があるなら黒猫を引き取って、少しでもそんな状況を変えることができたらと思っていました」
運命の出会いは、息子が成人式を迎えた日に起きた。子育てに区切りがついたその日、れいさんは息子の晴れ姿を見届けたその足で、念願の猫を迎えようと保護猫カフェに直行。そこでれいさんの心を掴んだのが、生後半年ほどだったくろかだ。
くろかは、母猫と兄弟猫の3匹で保護された元野良猫。保護猫カフェのスタッフの話では、母猫や兄弟猫は人馴れして愛想がよく、早々に引き取られていたが、臆病なくろかは引き取り手が見つからず、ひとりぼっちでカフェに残っていた。
「ずっと心に決めていた黒猫。アピールが下手で、今日まで残っていたと聞いて、この子は私を待っていた。私が幸せにしたいと感じたんです」
こうしてれいさんは、くろかを引き取ることを決意。保護主がつけたという「くろか」という名前は、母猫の「くろみ」、兄弟猫の「くろえ」とのつながりと、保護主への感謝を込めて、そのまま残すことにした。
保護猫カフェでは人に怯えていたくろかだが、意外なことにトライアル期間中にはれいさんに慣れ、すぐにひざ乗り猫に変身した。
「ママと一緒に保護されたから、本当はまだ甘えたかったのかも。人間が嫌いで威嚇をしてくるわけではなく、ただ怯えていたんだと思います。私に慣れた後、1カ月くらいでパパや息子にも心を開いてくれました」
いったん心を開くと、くろかはすぐに一家に打ち解け、本来の姿を見せてくれた。
「くろかは、甘えん坊でもあるし、とても面倒見がよくて母親のように世話焼き。家族みんなに目を配っている気遣いやさんなんです。たとえば家族の誰かがくしゃみをすると、離れていても飛んでいって、『大丈夫?』と声をかけに行く。テレビを見て泣いている人がいると、心配そうに寄り添う。家族を守ってくれる、母性の強い子なんですよ」
妹猫の”教育係”に
一家が妹分の黒白猫、しろかを保護した時も、くろかは家族としろかの仲介役になってくれた。
「しろかは2018年の夏に庭先にふらっと現れました。生後半年ほどの痩せた猫で、ぱっと見は黒猫なんですけど、おなか側に白いビキニの模様があることから、くろかと対になる『しろか』と名付たんです」
猫がいない地域なので、しろかは捨て猫だと思われた。外猫に厳しい人が多く、人間に良い思い出がなかったためか、餌を食べに通うようになっても、しろかはれいさん一家を警戒し続けたという。
「パパは保護することに反対しました。『臆病なだけのくろかと違って野良猫は攻撃的なイメージだし、家猫としてくろかとうまくやっていけるかわからないでしょう?』と。でも、私は『もし今この子を保護しない選択をして、冬に可哀相な姿でみかけたらどうする?』とたたみかけたんです(笑)」
家族を説得したれいさんは、慎重にしろかを保護し、家の中に迎え入れた。時間をかけて対面させたこともあり、くろかはすぐにしろかを受け入れ、教育係を買って出たという。
「くろかは壁で爪研を研いだり物を壊したりしないので、私たちも『猫ってこういうものか』なんて思っていたんですよね。でも、しろかは暴れん坊の破壊魔で……。これはしつけが必要だなと思っていたところにくろかがやってきて、『ここで爪を研いではダメ』『ものを壊してはダメ』と率先して家の中のルールを教え始めた。すると不思議なことに、しろかの破壊癖はおさまっていったんです」
くろかは、しろかの家猫修行を見守りながら、家族を大切にすることも教えた。
「ある日、ふとしたタイミングで、しろかがパパをかんだんです。すると遠くでそれを見ていたくろかがものすごい勢いで走ってきて、しろかを叱りつけた。その剣幕に驚いたのか、それ以降しろかが家族に手を出すことはありませんでしたね。しろかはくろかと違って無口な子だったけど、くろかの教えが通じて、じょじょに家族を信頼してくれるようになりました」
しろかの死。家族を支えたくろか
しろかは生まれつき心臓が弱く、保護した1年半後の2020年春、1歳11カ月という若さで空に旅立った。
「亡くなる前の2週間は毎日通院していました。くろかは調子の悪そうなしろかを心配して、病院から帰ってくると駆けつけて寄り添ってあげていました」
苦しむしろかとつきっきりで看病をしている家族を見て、くろかはすべてを察していた。家族に手をかけないように普段の甘えん坊を封印し、しろかの体を刺激しないようそっと寄り添う姿は、『まるで一家の母親のようだった』と、れいさんは振り返る。
「ほんとうは、しろかが大人になっていく姿も、もっと仲良くしている2匹も見たかった。当時はすごく落ち込んだけれど今は、『短い生涯の最後にうちを選んでくれてよかった』と思っています」
しろかを失って悲しむ家族を支えたのも、くろかだった。当時はコロナウイルスの影響が拡大し始めたころ。医療従事者のれいさんは、かつてない緊張感の中で働く毎日だった。
「職場では気を引き締めなくてはいけない分、家に帰って緊張の糸が切れるたびに、しろかのことを思い出して泣いていました。すると、いつもくろかがやってきて、落ち着くまで寄り添っていてくれるんです。くろかの優しさに何度も救われて、あの辛い時期を乗り越えることができました」
出会ってくれてありがとう
れいさんは、生きるのに必死で人間を警戒していた保護猫も、安全な家と家族の愛情があれば変われるということを、くろかやしろかから教わった。
「数年前からカメラを始めて、くろかやしろかの写真をインスタグラムにアップしています。保護猫や黒猫ってネガティブなイメージがあるけど、こんなに愛情深くて可愛いし、黒猫でもちゃんと写真映えするんだって、私の写真を通して知ってもらえたら嬉しいですね」
しろかを迎えた時、しろかが苦しんでいた時、しろかを失った悲しみで家族が前に進めなくなりそうだった時、くろかはどんなときも家族を支え、守ってきてくれた。れいさんはそんなくろかから母親のような愛を学んだという。
「くろかが私たちに出会うまで、保護猫カフェで待っていてくれたこと。出会ってうちの子になってくれたことに、心から感謝しています。いままで家族のために尽くしてくれたから、これからは私たちが彼女の考えを汲み取ってあげたい。しろかの分まで甘えて長生きしてもらって、1日1日、一緒に居られる時間を大切に過ごしていきたいですね」
れいさんの言葉に、「ぐるみゃああ〜ん」とたのもしくくろかが応える。心を開ける家族に出会ったくろかにとって、家族の幸せを願い、愛情を与え続けることが一番の幸せなのかもしれない。
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