シェルターから迎えたハンデある猫たち 「どの子もとっても可愛い」にぎやかな日々
良子(りょうこ)さんの家で暮らす猫たちは、現在5匹。半身まひの「レオ」、全盲の「てつお」、腎不全の「水吉」、アレルギー持ちの「こま」、人なれが進まないために預かっている「ミルキー」である。みな同じ保護団体のシェルターから次々と迎えた、愛しがいのある個性的な面々だ。
猫たちは、ハンデなんて気にしない
青空の下に稲刈り風景がひろがる、東京の西のはずれ。きょとんとした顔で迎えてくれたのは、推定5~6歳のキジトラてつおくん。ハッカドロップとメロンドロップのように愛らしい両の目には視力がない。
彼は、交通事故で顔面を強打してセンターに収容された。埼玉県の保護団体「またたび家」に引き出されてすぐさま入院、一命を取り戻したが視力を失った。シェルターでは他の子の毛づくろいをせっせとしてやり、スタッフにも仲間にも愛されていた。
ケージハウスの奥でゆったりと構えているのは、推定8歳のキジトラ水吉くん。彼は、腎不全を患っている。
ボックスの奥には、サバ白で3歳のこまくんがいた。センター収容時には負傷して衰弱していたが、シェルターで元気を取り戻す。食物アレルギーがあるため、食事管理が必要だ。
原発事故被災地の福島県からレスキューされ、人なれが進まずにいたシェルターからの預かり猫ミルキーちゃんは、ソファの下に潜んで気配を消してしまっている。
ゴトゴトゴトッ。2階から滑り降りてきたのは、推定6歳、キジトラのレオくんだ。彼は、5年半前のうら若いとき、交通事故に遭ったのか負傷猫として保健所に収容された。またたび家に引き出され2時間もの手術に耐えたが、脊椎骨折による下半身まひが残った。一生、排泄の介助が必要だ。
「最年長の水吉が誰とも仲良くなれる性格なので、雄猫4匹仲良くやってます。ただ、レオは、新入りの預かり猫が来ると、後ろ半身が浮いて見えるくらいのすごい速さで追いかける。走りっぷりを見せつけたいのかも」と、良子さんは笑う。
猫たちは、自分のハンデも、仲間のハンデも、気にしてはいない。
見送った全盲の猫へのつぐない
良子さんとシェルター猫との関わりは、2年前の春、盲目のてつおのことを知ったことが始まりだった。
「『キジトラ,雄、盲目』でネット検索してヒットしたんです。子猫の時に拾った全盲に近い猫に、させなくてもよかった治療を受けさせた末、つらい思いをさせたまま見送ってしまったばかりでした。そのつぐないをしたかった……」
てつおに会いにシェルターに行くと、ひざに乗ってきたのが、てつおと同室で同じキジトラの水吉だった。てつおともう1匹と考えていたので、「じゃあ、水吉もくる?」と2匹を迎えたのが、おととしの4月。
だが、水吉には、同室で寄り添うキジ三毛の彼女がいた。44匹多頭飼育の飼い主急死でセンターに収容された猫だった。大人猫なのに子猫並みの小ささで、さまざまな疾患を抱え、やっと生きていた。
「残された時間を家庭のぬくもりの中で過ごさせたい」というまたたび家のブログを読み、水吉のためにもと、その猫クッキーも続けて迎え入れた。良子さん夫妻や水吉・てつおに大事にされて、11カ月。クッキーは良子さんに抱かれて旅立った。
シェルターに通い、圧迫排尿をマスター
「クッキー亡き後、彼女がここに来た意味をずっと考えたんです。家庭のぬくもりを求めている猫たちのために、自分にできるとは何だろう、と。それで、シェルターの手の足りなさを目の当たりにしたこともあり、預かりボランティアに手を挙げました」
雌猫を1匹預かり、さらに、ひと月ほど週2回シェルターに通って圧迫排泄の仕方を覚え、自力排泄できないレオを譲り受けた。
「弱い子ほど守ってあげなきゃ、という気持ちはあります。でも、ハンデのある子を迎えることは、私にとっては大変でも何でもなく、気になる子を迎えて、安全や健康にちょっと気をつかってあげるだけのこと。『かわいそう』と思ったことはありません。レオなんてこんなに強気だし(笑)」
ただ、レオは朝晩に圧迫排泄が必要だ。自分に何かあってはならないという緊張感はいつもあるという。もちろん、いざというときは、動物病院かシェルターに運ぶ手はずは夫や実家と決めてある。圧迫排泄は、よほど手慣れた人でないと難しいのだ。
猫たちの愛情返し
レオがやってきてからも、シェルターから高齢猫を預かったり、拾った子猫や一時預かり猫を譲渡先に送り出したり、できることを続けた。
高齢猫を介護して見送った後の去年2月に、シェルターから預かったのがアレルギー持ちのこまだった。彼は仲間からちょっかいを出されがちなビビり猫。食事療法もあって、ケージ内で過ごすことが多かった。大好きなクッキーを失ってしまった水吉が、預かったこまと男同士とても仲良くなったので、こまも家猫として譲り受けた。
その間も、預かった1匹を譲渡先に送り出す。そして、今年8月から預かり猫ミルキーがやってきて、にぎやかに今に至る。
「どの子もとっても可愛い。ちゃんと目が行き届く世話をするには、4匹が私のキャパかな。今、1匹多いですけど(笑)」
またたび家の代表をつとめる塩沢美幸さんは、こう語る。
「シェルターにくる猫は、人間の都合で行き場や生き場を失った子たち。ここで心身のケアをし、生きていることの楽しさを知ってもらい、愛情を注がれて猫生を送ることのできる家庭にご縁をつなぎます。病気やハンデがあったり、高齢だったり、人なれが不十分だったりする子は、なかなか譲渡のご縁に恵まれないものですが、預かりボランティアや、可能な範囲で資金面のサポートをする「フォスターペアレント(養い親)」など、いろいろな支援の形があります。どの子も愛されて一生を過ごせますように」
「最後まで守る」覚悟さえ持って、気配りと愛情を注いでやれば、ハンデある子も、その子らしい生を「生ききる」ことができる。そして、注がれた以上の深く一途な愛情を返し、たくさんのことを教えてくれるだろう。良子さんを見上げる猫たちの瞳と、良子さんの柔らかな笑顔が、それを物語っている。
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