「犬は今を生きる」わけではない? 過去や未来も認識しているのでは?

 先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。

 「今を生きる」と言われる犬の概念について、前後編の2回に分けてお届けします。前編の今回は、時間についてです。

(末尾に写真特集があります)

「現行犯」でなくても分かっている

 犬がいたずらをして叱るときは「現行犯」でないといけないという説がある。でないと、時間の概念がない犬はなぜ自分が叱られているか理解できないというのだ。はじめて犬と暮らして「しつけ」に悩んだことがある飼い主は聞いたことがあるのではないかと思う。私も最初は「そうなのか」と思っていた。

ちらかす犬
やんちゃ期の福助

 しかし、先代犬「富士丸」との暮らしの中で次第に「本当か?」と疑問を持つようになり、そのうち「いや、そんなことはない」と否定的になった。犬は自分がしでかしたことは分かっている。なぜなら、留守番中に何かをやらかしたときは、帰宅した時点で反省顔になっているからだ。

 たとえば富士丸は、2歳頃まで破壊王で留守の間にクッションを食いちぎるなんてことは日常茶飯事だったが、そんなときは私が帰宅すると困ったような、申し訳なさそうに反省した顔をしていた。その顔を見て「お前、また何かやったな」と部屋に入ると、そこらじゅうに中綿が散乱している、なんてことがよくあった。

 だから犬は過去をすぐに忘れるのではなく、少なくとも自分がやったことくらいは認識している。でないと、現場を見られる前に反省顔になるわけがない。犯人なのは明らかなのにすっとぼける、というパターンもある。その場合は、演技だ。

何が良くて、何が悪いのか

 ただ、犬にとって壊していいものと駄目なものは分からない。特に子犬のときは、与えたおもちゃと、それ以外のものの区別はつかない。おもちゃは壊していいけどクッションや家具は駄目というのはあくまでも飼い主側の主張であって、犬に分かるわけがない。やんちゃな子犬にとって、どちらを嚙じるのも同じ行為(遊び)なのだから。

2匹で遊ぶ犬
本気を出せば圧勝なのに程よく手を抜いてやる大吉(左)

 それでは困るから「あー、それは止めてー!」と叱ったりするわけだが、その分別をつけてもらうのに多少時間がかかる。きっと多くの飼い主が犬に思いもよらないことをされて「あぁ、なんてことを……」とがくぜんとしたことがあるはずだ。

 とはいえ犬はそんなに馬鹿じゃないので、1歳にもなればだいたい何は壊してよくて何が駄目なのか把握するようになる。それを分かったうえで、あえてやる場合は、きっと彼らにも主張があるのだろう。

「もっと遊べ!」だったり「留守番が長いんじゃ!」だったりするが、そう言われてもこちらにも都合がある。仕事もあるし、要求をすべて飲むことはできない。それは分かってもらうしかない。そうしてお互い折り合いをつけるまでにも時間がかかる。反省顔をするくせにまた同じことをやるというのは、この期間でないかと思う。決して忘れているわけではない。分かっていて、やっているのだ。

仲のいい犬
なんだかんだで仲の良い大福

 犬が悪くて飼い主が正しいわけではない。逆のパターンもある。『彼らにも言い分はある?』でも書いた通り、後になって悪いのは私の方だったと反省したこともある。

犬も時間の概念はあるはず

 そもそも犬には時間の概念がなく「今を生きている」というのも違うのではないかと思う。会ったことがある人のことも、行ったことがある場所のことも覚えているからだ。一緒に遊んだ人だと千切れんばかりにしっぽを振るし、楽しかったところだへ行くとはしゃぎだす。

遊ぶ犬たち
ちょっかいを出すのはいつも福助

 ちゃんと記憶していて、感情や行動がそれに紐付いている。過去の失敗から学ぶこともある。だから決して、今その場を生きているわけではないと思う。それに時間の長さもある程度は把握している。大吉と福助は2時間くらいの留守番だと出迎えにも来ないが、6時間を越えてくると帰宅したときに「どこ行ってたんだよ!」と不服な顔をしている。

 出張で1泊留守にしたときと、3日ぶりに帰宅したときの出迎え方も違う。妻が一週間の入院から退院したときの狂喜乱舞ぶりもすごかったから、犬も普通に時間の長さは分かっているはずだ。

犬は未来を予測する?

わくわくする犬
「もしかして、山?」の顔

 わが家は週末、「山の家」にちょくちょく行くのだが、そのときはいつも一眼レフを持っている。それを大吉は観察して学習したのか、私がカメラをバッグに入れると、途端に「もしかして、山?」と目を輝かせる、まだ何も言ってないのに。

 これは「カメラ=山の家」と関連付けて、これから起こることを予測していることになる。大吉が特別優秀なわけではなく、きっと多くの犬が見せる行動ではないだろうか。だから犬は、今だけでなく過去も未来も認識しているに違いない。

2匹の雑種
彼らにもそれぞれ過去や考え方がある

 ただし、未来については「近い」ことが限定らしい。数年後にこうなりたいという目標やビジョンは持っていないはずだ。本人に聞いてみないと本当のことは分からないが、きっと「このままずっと一緒にいたい」と思ってくれているのではないだろうか。日々の表情や行動を見ていて、そう感じる。
(つづく)

※次回は11月28日(土)公開です。

【関連記事】愛情をそそぐと犬の顔が変わる? イヌはヒトに共感する能力を持っている?

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著者:穴澤 賢
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穴澤 賢
1971年大阪生まれ。フリーランス編集兼ライター。ブログ「富士丸な日々」が話題となり、犬関連の書籍や連載を執筆。2015年からは長年犬と暮らした経験から「デロリアンズ」というブランドを立ち上げる。2020年2月には「犬の笑顔を見たいから(世界文化社)」を出版。株式会社デロリアンズ(http://deloreans-shop.com)、インスタグラム @anazawa_masaru ツイッター@Anazawa_Masaru

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この連載について
悩んで学んだ犬のこと
先代犬は富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らす穴澤賢さんが、犬との暮らしで実際に経験した悩みから学んできた“教訓”をお届けしていきます。
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