庭に通ってくる猫、飼っている人はいるの? 首輪に手紙をつけて尋ねると連絡が来た
スンスンの体調は日に日に良くなったが、声はまだ出なかった。
風来坊との交流が楽しみに
スンスン、スンスン、と鼻を鳴らしながら、いつも静かに登場する。喧嘩で負ったものなのか、折れた片耳はいまや愛らしい。結んだ口元は「がきデカ」のこまわり君に似ている。
新しい風来坊との交流が次第に楽しみになっていった。とくに夫がかわいがり、スンスンも夫が好きだった。接触しないようにくまを2階の部屋に閉じ込めて、スンスンを居間に入れることが日課となった。
夫のひざに全身をあずけてもたれかかる。あごや背中をなでると「ズミズミ」と鼻を鳴らして気持ち良さそうに目を細める。ノミ避よけの塗り薬が効いてかゆみも治ったようだ。
人慣れしているのは家猫のなごりだろうか。これほど警戒心のない外猫に初めて出会った。ひざの上を満喫すると外へ出たがり、夜のパトロールへと出かけて行く。
ぶーちゃんが残したお土産
深夜に猫の金切り声で目が覚める。雄猫同士の喧嘩だ。慌てて外へ出ると、道の真ん中で見つめあう2匹の影は、スンスンとお隣の猫ぶーちゃんだった。
スンスンは静かににじり寄る。毛を逆立てて背中を丸めたぶーちゃんの尻尾は、タヌキのように膨らんでいる。一触即発。ぶーちゃんは叫ぶやいなや、突然スンスンにパンチをお見舞いして塀の向こうにすっとんで行った。
残されたスンスンを抱き上げると額に何か刺さっている。ぶーちゃんがパンチをしたときに爪を2本、お土産に残して行ったのだった。プロレス好きの夫は「ブッチャーみたい」と言いながら、刺さった爪を取ってやった。
去勢をしていない雄猫は、恋の季節のたびに闘いを繰り返す。雌猫を取り合い、縄張りを争う。スンスンは何度も修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。数々の古傷が物語っている。
「室内飼いが猫のためだよ」
病院で体重をはかると4.5kgに増えていた。血液検査の結果は、白血病は陰性で、エイズは陽性。「今までのように外で暮らせば、また調子を崩すだろう。室内飼いが猫のためだよ」と先生は言う。
猫エイズキャリアのスンスンと老いた家猫くまとの同居はできるのだろうか。難しい場合は受け入れ先を探すしかない。新しい飼い主探しの条件は、去勢済みであることがほとんどだ。
ホワイトハウスのおじさんが言うように、スンスンを「飼っている」人はいないのだろうか。まだ知り合って間もない。他でも信頼関係があるかも知れない猫を、自分だけの判断で手術を受けさせるのはためらう。
ゴンちゃんと呼ばれていた
先生から野良猫の不妊手術の助成金があると聞いて、迷いながらも申請をしてみることにした。保健所に連れて行かれないように、もしも車にひかれたときは身元がわかるようにと、首輪に自分の電話番号を刺繍で縫い付けた。
「最近うちでごはんをあげています。どなたかの飼い猫でしょうか?」おみくじのように小さな手紙も結んだ。まもなく、首輪の手紙を見ました、と電話があった。
「あの猫、たまに来てごはんあげているのよ。うちはスーパーの角を曲がってつきあたりの家です。あなたのうちでもご飯をもらってるのね、ありがとう」。
近所に住む上坂さんという女性だった。スンスンのことを気にかけている人が他にもいることが分かってうれしかった。
それからメールのやりとりが始まった。「先週から来てなくて。最近見かけましたか?」「昨日からうちの庭にいるから心配しないでね」
上坂さんのお宅には猫が3匹いて、庭には通いと常駐が数匹いるらしかった。上坂さんはスンスンのことをゴンちゃんと呼ぶ。外で暮らす猫は五つの名前を持つと言う。
【前の回】庭に通ってくる野良猫「スンスン」 少しずつ肉付きよく健康に
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