ひとり残された老猫と出戻りの子猫 18歳差でも支え合う関係に
家族の都合で、高齢になってから他の家にもらわれた母娘猫がいた。母猫が亡くなると、娘猫は寂しがって鳴き続けた…。ふびんに思った新たな飼い主が仲間に迎えたのは、事情で“出戻った”ばかりの保護猫。2匹は逆境や年の差を超えて、むつまじく寄りそうようになった。
都内足立区。幼稚園のそばに建つ一軒家を訪ねると、白黒模様の可愛い猫がニャア、と顔をのぞかせた。奥の部屋にも、そっくりな白黒の猫がいる。
「2匹はよく似ているんですが、血縁関係がないメス猫同士です。こちらの子が1歳になったばかりのはなで、奥にいる子が19歳の小梅です」
家主の早苗さん(52)が、にこやかに説明をしてくれる。
はなが家に来たのは今年1月。小梅と暮らし初めてまだ数カ月で、しかも2匹は18歳も年が離れているが、すっかりなじんで支え合う関係のようだ。
「よくくっついていますよ。はつらつとしたギャルが来て、おばあちゃんの小梅はよい刺激を受けたのかも(笑)。以前は人見知りでなでさせてくれなかったのに、変わってきたので…」
看取るつもりで引き受けた老猫親子
早苗さんが小梅を迎えたのは2017年8月。知りあいのボランティアから、「前の飼い主が飼えなくなった老猫が2匹、近隣にいる」と聞いた。小梅と、小梅の母の黒猫、初代の「はな」だ。赤ちゃんにアレルギーが出て、ずっと育ててきた2匹をやむなく手放すことにしたという。それを聞いた早苗さんは胸が痛み、「うちでよければ」と手を差し伸べた。
早苗さんは昔、猫を拾って飼ったことがあったが、高齢猫と向き合うのは初めて。
「出会った当時、すでに小梅は17歳で、はなは18歳。だから看取りをするつもりでした。私の親は介護する時間もないまま亡くなったので、その代わりではないけど、何か人の役にたつことができればという思いもあって…。2匹は思った以上に元気でいてくれました。皆でまったりして、熟年の女子寮のようでした(笑)。2匹は常にくっついてましたね」
そんな仲良し親子に別れが訪れたのは、昨年12月。母猫はなの食欲が減り、一緒に寝ていた早苗さんのベッドにも登れなくなった。猫ちぐらの奥に湯たんぽをいれると、はなは、静かに横たわった。
「20歳を超えていたので老衰です…。そばに布団を敷いて2晩ほど添い寝したのですが、3日目に旅立ちました。前の家できちんとケアをされたから、長生きしたんだと思いますよ」
ママはどこ?と夜鳴きをして
小梅は、母猫がいなくなったことにしばらく気づかないようだった。だが1カ月くらいしてから、夜中に大声で鳴きはじめたのだという。
「はなが亡くなった後、冬休みになり、シッターさんに小梅を託して前から予定していた旅行にいったんです。私の不在が重なったせいか、帰ってきたらひどく鳴いて後追いして…」
小梅のやまない夜鳴きを早苗さんは心配した。そして、仲間の猫を迎えたほうがいいのではないか、と考えるようになった。
「2匹が元気な時から、もう1匹迎えたい気持ちが生まれていたのですが、残された『小梅』のためにコンパニオンキャットを迎えたい、と強く思うようになったんです」
ちょうどその時、知りあいのボランティアから、「出戻った子猫がいる」と聞いた。
猫エイズ発覚で出戻った猫を仲間に
その子猫は、ある家にトライアルに出向いたが、風邪をひいて診察にいった病院でエイズ陽性と分かり、「先住の猫を守るために飼えない」という言葉と共にボランティア宅に戻った。
ボランティアによれば、保護時は陰性だったが、半年経って陽転したようだ。契約書にそうした可能性や、その時の対処などをきちんと記していたが、トライアル先の家族には理解してもらえず、ただただ泣かれて、引き取ったのだとか。
早苗さんもはじめは「猫エイズ」と聞いて少し心配したが、調べてみると、〈うつる可能性はゼロ%ではないが、激しいかみ合いでもしない限り猫同士の感染は少ない〉〈よい環境で育てればエイズ陽性でも寿命を全うすることがある〉とわかった。
「猫エイズだから家が決まらないのは可哀想。うちはのんびりした老猫だし、激しいいさかいもないと思うし、仲間に迎えたいと申し出ました。本当はおとなの猫を探そうと思ったけど、これも縁だなと思って…。小梅によく似た柄だけど、鼻にマークがあるので『はな』。初代の『はな』は花だから、意味が違うの(笑)」
迎えた直後、小梅は「ママはどこ?」ではなく、「誰なの?」というように責めるように鳴いた。警戒して食が細くなり、ベッドで粗相もしたが、1週間もすると、「何ごともなかった」かのように、けろっと普段の状態に戻ったという。
「新入りの『はな』のほうも、最初は籠城したけど2日もしたら私にベタベタ甘えて。『小梅』にも徐々に近づくようになりました。ストーブの近くに2匹が並んで寝る姿は可愛くて。ボランティアさんがSNSにあげると、『スリッパみたい』とバズったんですよ(笑い)」
猫にとっての幸せは?
じつは早苗さんは、すぐ隣の幼稚園の園長をしている。亡父から受け継いだ園だが、猫が来てから生活が変わったという。
「猫たちが来て、(仕事以外で)家にいる時間が増えました。待っていてくれる存在がいるのがありがたいし、職場で可愛い子たちに囲まれ、家でも猫たちに癒やされています」
早苗さんは猫と暮らして、人や猫の幸せについてよく考えるようになったという。
「幼稚園では、子どもに教えこむのでなく、自分で生きていける環境、安心できる環境を整えるようにしているんです。その先に幸せがあると考えて…猫が幸せに暮らすにはどうすべきかしら。やはり、安心できる環境を整えてあげることなのかな…」
長く話をしていると、「そろそろ遊んで」とはなが割り込んできた。そこへ小梅が「私も」というように静かに近づいてきた。今は2匹にとってここが間違いなく、幸せな家だ。
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