予測不能な若い猫たちの遊び 心配だけど、家族の笑顔のもと
若い猫は遊びの中で、思わぬことをしでかす。そんな猫と一緒に暮らし、世話をしていると、自然と家族の会話も増える。2匹の愛らしい猫が親子に笑顔をもたらした。
都内荒川区のマンションで、大柄な2匹の猫は家族3人と暮らしている。主婦のとみさん(52)が穏やかな口調で説明する。
「ひげ模様がある子が『ジョー』で、キジ白の子が『ニア』。どちらも3歳になるメス猫ですが、可愛くて、つい写真をたくさん撮ってしまうんですよ」
猫の名付け親は浪人生の長男(18)。「ジョー」は、ひげが特徴的だった歌手「スキャットマン・ジョン」をヒントに、「ニア」は料理のラザニアから取って命名したのだという。
「日本の猫らしい猫」
一人っ子の長男が中学の頃から猫を欲しがった。だが、とみさんは「命あるものだから」と躊躇し、夫も「もう少し考えよう」と言った。
その後、殺処分対象の犬や猫が存在し、保護動物を譲渡する場があることを知った。「そういう立場の猫を迎えて、最後まで責任を持って飼育しよう」と親子で話しあい、サイトを調べた。
そして昨春、とみさんは高校生の長男と一緒に、都内の動物保護団体「ミグノン」の譲渡会に出かけた。
「この子、日本猫らしくていい」。長男がまっさきに注目したのが、当時2歳の「ニア」(当時の名前は“別”)だった。ほかの3匹のきょうだい猫たちと一緒のケージに入っていた。
「熊本地震の時に保護された子たちだと、スタッフの方に教えてもらいました。初めて猫を飼うので1匹のつもりでいたのですが、『仲よしがいると一緒に遊びますよ』とスタッフにすすめられ、『ニア』と相性のよい『ジョー』をもらうことにしたんです」
何でも口にしてしまう猫
家にやって来た2匹は、最初、ケージの中でブルブルと震えていた。「慣れてくれるのかしら」と、とみさんは心配になった。しばらくしてケージから出すと、キョロキョロと部屋を見回し、探検をはじめた。そして、思いもかけない行動もした。
「外出先に突然、『猫が大変』と息子から電話がかかってきたんです。電話なんてめったにしてこないので、『なにごと?』と思ったら、『ジョー』がビニールをかじったかもしれないと。急いで帰ると、くしゃくしゃになったビニールがあり、広げてみたら少し欠けている部分がありました」
猫はけろっとしていたが、念のためかかりつけの獣医師に相談すると、「1~2センチ以内のかけらなら、かじっても便で出る可能性が高い」と言われた。幸い、大事には至らなかった。
その後は、紐やオモチャは出しっぱなしにしない、ネギなど猫に中毒の恐れのあるものは落とさないように気をつけた。花の鉢もベランダに移動させた。
こうして見守る中、猫は長男のお腹に乗ったり、とみさんのエプロンの中に入ってこようとしたり、夫が帰ってくると近づくなど、家族に気を許すようになった。そんな姿に愛しさが募った。
もう少し自由にしてあげたいと思い、寝る時にケージからリビングに出すと、楽しそうに2匹で追いかけっこをして遊んだ。そこでまた“事件”が起きた。
猫を案じる息子が頼もしく
ある夜、キッチンからガチャンと大きな音がした。起きて見に行くと、床にガラスのコップが落ちて割れていた。
「キッチンの台に飛び乗った拍子に落としたのか……。ケガはなかったけど、音に驚いたのか、『ジョー』は自分でケージに入り、『ニア』は居間でペロペロ体をなめていました」
寝ていた長男に報告にいくと、「ガラスなめてないね?」と跳び起きて、「口をみせてみな」と「ニア」の口の中をくまなくチェックしたという。
「それを見て、息子の行動が頼もしく見えました。猫を飼うことは子育てと同じで確かに大変なのだけど、思い悩まず、家族と一緒に見ていけばいいんだなって、あらためて思ったんです」
振り返れば、この1年で長男との会話がずいぶん増えたという。
「内容はほとんど猫の話ですけどね(笑)。猫って可愛いわねという私の言葉が移ったのか、『おまえたち、可愛いよな』とニコニコしながら言ったりして。年頃の男の子と母親なんて会話もないものと思っていたけど、そんなことないんですね。いすを引くときも猫が驚かないようにそーっと引いて、あら優しい、なんて見直してます」
猫たちとの関係も1年かけて深まった。
「今は不安より、癒やしの方がまさっています」
そう言って、2匹の頭をゆっくりなでた。
(撮影・小林郁人)
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