トライアルから出戻り猫 ぐいぐいアピールして新しい家に
保護猫の譲渡には、多くの場合、一緒に暮らして、家族や先住猫との相性を確認するお試し期間(トライアル期間)がある。だが、トライアルで戻されてしまう猫もいる。出戻りになったその猫は、ぐいぐいと自分をアピールして、幸せをつかんだ。
千葉県内の3LDKのマンション。声優の良鳴(いなり)美鈴さん(20)と、キジ白猫の「いちご」(メス、2歳)が迎えてくれた。
美鈴さんが伸びのある声で「いっちゃ~ん」と呼ぶ。いちごは愛嬌たっぷりに首を傾げ、ごろんと横になる。広い居間はキャットタワーやオモチャ、自動給餌器、給水器など「いちご」の物でいっぱいだ。
「この部屋は浪人生の友だちとシェアしているんです。今は彼女が帰郷中で、私と『いちご』だけですが、正式には、“若ママ2人+猫1匹”のトリオ生活です(笑)」
美鈴さんは一昨年、幼なじみの陽葉(あきは)さんと共に上京した。片や声優を目指し、片や医師を目指す仲良し同士。まずはワンルームで生活を始めた。昨年、一足先に夢を果たした美鈴さんが「猫を飼おう」と提案し、2人で今のペット可マンションに引っ越してきた。
自分で運をつかむ
「私の実家には保護猫がいるんです。猫がいれば楽しいし、自分はもちろん、勉強で疲れた彼女の癒やしにもなるだろうと思いました」
「いちご」を迎えたのは昨年4月。名前の由来は、花言葉だという。
「4月の誕生花のいちごには“円満”とか“幸せな家族”という意味がある。『いちご』には“家族を作れなかった”という過去があるんですよ。だから、今度こそ一緒に幸せになろうねって思いをこめて…」
「いちご」は生後1カ月頃、道端で衰弱した状態で保護され、ボランティア宅に持ち込まれた。当時の名前は茄子だった。元気になって譲渡会に出ると、物怖じしない性格で注目されながら、なかなか希望者が現れない。やっと「欲しい」という中年夫婦が見つかったが、思わぬ顚末が待っていた。
「先住の猫に対して、『いちご』が積極的にからんでいったら、先住猫がストレスを感じて、持病が悪化して入院してしまったというんです。それで、残念ながらお嫁入りは中止となり、ボランティアさん宅に舞い戻ったそうです。私たちが会ったのは、その2カ月くらい後です」
実は、美鈴さんはペットサイトを見て“別の猫”に会いにいったのだという。
「お目当ての猫を見ていたら、“私のほうを見て”というように『いちご』が近寄って、ぐいぐい割り込んできたんです。ボランティアさんが『この子、今までにこんなことないのよ。これは猫が人を選んでるね』とおっしゃって、心が傾きました」
「いちご」は持ち前の積極性で、運をつかみ取ったのだった。
同居の2人の関係をつなぐ
だが、「いちご」と暮らし始めてすぐ、美鈴さんは“隠れたキャラ”に気づいたという。
「家に来てすぐ甘えてくれたけど、最初はごはんをあまり食べないし、お腹を見せることなかった。もしかしたら、愛想がいいというだけで、心は“半開き”なのではないかと思ったんです。乙女心の難しさというか、複雑女子というか(笑)」
「いちご」は一見元気だが、子猫時代の風邪の名残りで、目やにやくしゃみが出ることもあった。目元を拭いたり投薬をしたり、丁寧にケアをして向き合ううちに、少しずつ変わっていったという。
「半年くらいたった頃、窓辺でごろりんと寝そべり、お腹をなでさせてくれたんです。『おまえ~、いま心を開いてる?』って、ときめきました(笑)。膝に乗ってくるようになったのは、去年の暮れごろ。今年に入って幼なじみが帰郷して1対1になると、さらに甘えん坊になった。もうひとりのママがいないと寂しいのかな」
おっとりした美鈴さんに対し、陽葉さんはダメなことはダメとはっきりいうタイプ。「いちご」の存在は、そんなタイプの違う2人をうまくつなぐ役割も果たしていたようだ。
「家事をしてないとか、ささいなことで、女同士で言い合うこともある。そんな時『いちご』が空気を読まずに、ぐいぐいくると和むんです。ある時、ケンカ中に『いちご』がくしゃみを連発したので、2人で『どうした?』『大丈夫?』と心配して、その後、『私たち何をもめてたんだっけ?』と笑いあったこともありました。また早く、トリオ暮らしになるといいな」
陽葉さんは夏ごろには戻ってくる予定だという。
夢が叶いますように。「いちご」もそう願って待っていることだろう。
(撮影=小林郁人)
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