家を2度失ったオスの三毛猫 人懐っこく保護猫カフェの人気者に
福を招くとされ、招き猫のモデルにもなる三毛猫。しかもオスともなれば、希少価値が高く、珍重されてきたものだ。だが、2度も家を失い、遺棄されそうになった過去を持つオスの三毛猫がいる。その猫は今、千葉県内の保護猫カフェで人気者になっていた。
千葉県船橋市習志野台。大きなショッピングモールの一階に、保護猫カフェ「ととの森」がある。入り口を入ると、緑の葉が茂る空間に、テーブルと椅子が並んでいた。天井近くにキャットウオークが張り巡らされ、奥にガラスで仕切られた空間がある。
「猫たちは保護スペースと、奥のふれあいスペースで過ごしています。みけおくんは奥にいますよ」
店長の今村瞳さん(60)に案内されて、奥のスペースに行ってみた。手を消毒して、靴を脱ぎ、ドアを開けると、7畳ほどの部屋で猫たちがくつろいでいる。すると“誰?”というように、白地に黒と茶の三毛猫がこちらに顔を向けた。みけおだ。
ちょっと面長な顔。愛嬌たっぷりな表情で、こちらに頭をくっつけてきた。
「人が好きな、かまってちゃんなんですよ(笑)」
波乱に満ちた三毛猫の半生
みけおは今年3月で5歳になる。このカフェに来たのは一昨年9月、2歳半の時だ。
オスの三毛猫が生まれることは遺伝上、極めて少なく、3万分の1の確率といわれる。その希少さから、航海の守り神として船乗りに珍重され、南極観測隊にも同行したこともある。
家猫としても大切にされそうだが、みけおの半生は決して平穏ではなかった。家族と縁がなく、これまで2度も家を変わったのだという。
「みけおには黒猫のきょうだいがいて、子猫のころは別々の家で暮らしていたそうです。でも飼い主さんに事情があって手放し、きょうだいがいる家にいったんひきとられた。ところが今度はその家で家族に不幸があり、親族が「猫たちを捨てる」といったそうです。その話を聞いた保護団体が2匹を保護し、『みけおをひきとってほしい』と、うちに相談があったんです」
自分の胸をチュウチュウ
通常、保護猫カフェは、新たな家族を見つけるための中継点となる。だが、オスの三毛猫が珍しいことを知っていた保護団体は、みけおが「転売」されることを心配した。団体の信頼を受けた今村さんは「どなたにも譲らず、カフェの子として大事にしてほしい」と頼まれたそうだ。
三毛のオスは繁殖能力が低いといわれるが、みけおは前の家族に去勢手術を施されていた。「ととの森」にやって来た頃のみけおは甘えん坊で、少し不安そうだった、と今村さんはいう。
「膝に抱っこされるのが好きで、抱き上げると自分で自分のおっぱいをチュウチュウ吸うんです。店に来た頃はずっとそうしていたので、不憫でしたね。子猫の頃から十分に甘えられなかったのかなと……」
新しい環境に慣れると、ほかの猫とじゃれて、遊ぶようになった。人が好きなので、お客さんが来ても隠れることはなく愛嬌をふりまき、キャットウォークをたたたっと走ってみせるようになった。
ひょんなことから猫助けに
今村さんは、不動産取引とリフォームをする会社の経営者。
今村さんの“猫助け”への思いは、15年前、メス猫「華」との出会いから始まった。会社にいく途中、たまたま国道沿いで盲目のメスの子猫を拾い、家に迎えて世話をしてきた。てんかん持ちで薬も飲ませていたが、獣医師に1匹で留守番をさせるなら仲間がいた方がいいと助言され、仲間の猫を迎えた。2匹は発作が起きるたびに寄り沿い、華は14歳まで生きたという。
2016年5月に保護猫カフェ「ととの森」を始めたのも、ひょんなことがきっかけだった。
ショッピングモールの建設中、隣の接骨院の内装工事を請け負って出入りしていた。その時、モール内のカフェスペースに急に空きが出て、「何か店を持ちませんか」と建物の担当者から相談を受けたのだった。
「猫助けができるのではないかと保護猫カフェの提案をしました。窓がない空間なので、できるだけ猫も自然を感じるように、風を送り、床にへこませて池を作って。猫たちが驚かないように、あえて目立たない入り口にしているんですよ」
「ととの森」を始めてから、今まで180匹を譲渡した。現在もみけおを含め15匹の猫がいる。スタッフの自宅でも、ハンデのある猫など9匹を預かっているそうだ。
「『いなかの両親が飼えなくなった』とか、『道でふらふら歩いている』というような保護要請の連絡が毎日のようにあります。保護猫の数が多いので、先日、寄付を募って一軒家を借りて、シェルターを作りました。そこには23匹いて、ここのカフェを引退した高齢猫なども暮らしています。運営は決して楽ではないですが、猫のために本業をがんばっています」
先々のことも考えて協力関係を作る
「ととの森」を始めた当初こそ肩肘を張っていたというが、今では猫たちを守るために、仲間との関係を大事にして、多数のボランティアの協力を得ている。
「もし私が倒れて、それまでとなったら、飼育崩壊と同じこと。だから主に千葉市、船橋市、習志野市のボランティアと連携をとって、定期的にここで会合を開いて、代表の私が何かあったときも“引き継げる”ような組織にしようと話し合いを進めています」
カフェのテーブルで話を聞いていると、頭上でたたたっと足音がした。みけおがふれあいスペースから出て、キャットウォークを歩いていた。その姿を今村さんが優しく見守る。
人気者のみけおだが、実はまもなくカフェを卒業する予定だという。
「みけおは元気だけど、気を遣うのか、最近少し疲れがみえるんです。これまで広報部長として、十分みんなを楽しませてくれたので、引退させて、今後はゆっくりできる環境で過ごしてもらいたいと思います。夏ごろに引退式をする予定なので、会いにきてほしいですね」
“それ僕のこと?”とでもいうように、みけおが愛嬌たっぷりに小首を傾げた。波乱に満ちた半生を過ごしてきたみけお。これから先は穏やかな暮らしが待っているのだろう。
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