野良猫に困り果て保健所に持ち込んだ 本当は殺すなんて嫌だった

目次
  1. ある地域から猫の保健所持ち込み
  2. 野良猫トラブルで困った末に
  3. 工場の猫はみんな耳にカット
  4. 「野良猫が大けがしている」
  5. 早く捕まって病院へ

 猫は繁殖能力の強い生き物である。春から夏にかけて子猫が多く生まれ、この時期に望まれずに生まれた子猫たちが行政施設に持ち込まれる。そして連日殺処分されている。野良猫が増えたといって殺処分する。なんの罪もない猫たちをただただ殺す。こんなことをいつまでも続けていてよいわけがない。

(末尾に写真特集があります)

 これを解決する手段のひとつとしてTNRがある。

「また、保健所に猫が持ち込まれている。同じ地域だよね」

 数年前のことだが、保健所のホームページにある猫の収容情報をみながら、仲間のボランティアさんたちと話した。

「人に慣れていない成猫まで次々に保健所に持ち込まれている。おかしいよね」

 ねこかつのある埼玉県川越市は、当時、野良猫への対策として、全国的にかなり遅れた政策をとっていた。今はもちろん当時も全国的にほとんど行われていなかった「野良猫の成猫の捕獲・駆除」を認めていたのである。(※現在は対応を改め、認めていない)

「同じ場所の同じ人が猫を持ち込んでますよね?」

 保健所に問い合わせてみたものの、はっきりしたことは教えてくれない。

TNR前の姉ちゃん
TNR前の姉ちゃん

 しかし、保健所が開示している情報から地域の特定はある程度できた。情報を集めていたら、捕獲された猫たちを知っている人から情報を得ることができた。

「たぶん、この工場の中で捕獲されたのだと思います」

 学校と同じくらいの面積のある大きな工場だった。

「野良猫のことで、ご相談があります」

 工場に電話をして、お話をさせていただくアポイントをとった。

「製品の置いてある倉庫に野良猫がすみ着いてしまった。製品が汚れてしまって、クレームになってしまった」

 だから、成猫と産まれた子猫たちすべてを捕まえて、保健所で殺処分しようとしたということだった。

「子猫はこちらで保護して新たな飼い主さんを探します。成猫はTNRさせてください。全部の猫をTNRすればもう増えることはありません」

TNR前の姉ちゃん
TNR前の姉ちゃん

 殺処分に代えて、TNRでの解決を提案した。TNRとはT(Trap)N(Neuter)R(Return)の略で、猫を捕まえて、不妊去勢手術を施し、元の場所に戻す活動をいう。TNRをしても、すぐに野良猫がゼロにはるわけではない。しかし、これ以上増えることはなくなり、徐々に猫は減っていく。

「殺す以外の解決策があるのであれば、お願いしたいです。ご協力をお願いします」

 実は家では犬や猫を飼っていて、野良猫を殺処分に持ち込むことなんて本当は嫌だったと、工場の担当者の方たちが口々に話しはじめた。

 広い工場の敷地内で、数回にわたって猫の捕獲作業を行った。小さな子猫は保護し、成猫は不妊去勢手術をしてもとに戻した。

 それからしばらくの後も、工場の担当者の方と連絡をとりあった。

「どうですか?新顔の猫とか現れていないですか?倉庫の製品に被害はないですか?」

「新顔の猫は現れていないと思います。みんな耳にカットがありますから」

 不妊去勢手術をした猫たちには、不妊去勢手術済みの印として耳にカットを入れる。近年はその形がさくらの花びらに似ていることから「さくらねこ」とも呼ばれている。

「倉庫の製品も大丈夫です。工場の敷地内に野良猫はまだいますけど、以前に比べて静かになりました」

 それから数年が経ったある日、電話が鳴った。工場の担当者からだった。どうしたのかな?と思いながら電話をとった。

「梅田さん。お久しぶりです。実はご相談がありまして。こんなことをお願いしていいのかどうか迷ったのですが」

「どうしたのですか?」

「それが、工場の敷地内にいつもいる野良猫が大けがしているのです。かわいそうで、かわいそうで見ていられなくて。工場の同僚たちもみんな心配しています。捕まえて病院に連れて行ってもらえないでしょうか?」

傷を負った姉ちゃん
傷を負った姉ちゃん

「喜んで、やりますよ。午後に時間がとれると思うので行きますね」

 以前は、敷地内の野良猫を捕まえて殺処分に持ち込んでいた同じ工場からの相談とは思えなかった。しかも同じ担当者である。その変わりっぷりがうれしかった。

「こっちです!こっちです!」

 工場につくと、担当者の方が待ちきれなかったらしく駆け寄ってきた。首に大きなけがをした野良猫の写真を見せてくれた。

 その野良猫の捕獲を試みた。

「はやく捕まって病院へ連れて行ってもらえ!はやく捕まって病院へ連れて行ってもらえ!」

 捕獲作業中、心配そうに何人もの人たちが様子を見に来て、1匹の野良猫の応援をしていった。

家猫修業中の姉ちゃん
家猫修業中の姉ちゃん

 猫はすぐに捕まえることができ、手術も無事終わった。その後、工場の担当者の方と相談してその猫を保護することにした。「姉ちゃん」と名付けたその猫はいま、預かりさんの家で、家猫になるための修業をしている。

 保護をしてからも、「いま、あの猫は元気ですか?」担当者の方から電話をもらった。

 殺処分という非情な解決方法ではなく、TNRという人道的な解決方法を知ることによって、人の心はこうも変わるものなのかと、この件であらためて思い知らされたのである。

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梅田達也
保護猫カフェ「ねこかつ」代表。保護したり行政施設から引き出したりした保護猫の飼い主を募集する場として、保護猫カフェを運営しながら、ほぼ毎週末、各地で譲渡会を開催している。TNR活動にも力を入れており、講習会も開いている。

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この連載について
猫模様~保護活動の現場から~
飼い主のいない猫を保護、譲渡する活動を続ける保護猫カフェ「ねこかつ」代表の梅田達也さんが、保護活動の現実について語ります。
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