下半身不随の猫がくれた希望 介護が必要でも新しい家族の元へ
動物愛護センターや保健所といわれる行政施設には日々様々な猫が収容される。収容されれば、そこから命のカウントダウンがはじまる。飼い主からの引き取りの場合は即日殺処分となる施設も多いが、飼い主不明の猫の場合は飼い主への公示のため通常3日~7日間の猶予が与えられる。その後、引き取る者がいない場合に殺処分となる。後にエースと名付けた1匹の猫も、収容期限が過ぎて殺処分される運命にあった。
殺処分寸前だった負傷猫
「受け入れ可能ですか?」
沖縄のセンターで収容期限が切れた負傷猫エースの受け入れ要請が、協力関係にある現地のボランティアさんからあった。
「受け入れます!」
即答した。負傷猫として収容された猫を受け入れるのは実はとても勇気がいる。年齢や性別、人になれているのかどうかも通常分からない。それ以上に、どんなけがや病気をしているのか、引き出してみないとわからないことが多いからだ。
「かなりひどいです」
引き出しに行ったボランティアさんから写真が届いた。交通事故にあったのだろう。下半身がまひし、両後ろ脚の壊死がはじまっていた。敗血症を起こしていて、そのままねこかつのある埼玉まで移送するのは難しかった。いったん沖縄の病院に入院させ、移送が可能な状態になってから埼玉へ移送することになった。
「たぶん自分でおしっこをすることはできない。圧迫排尿を覚えないとね。」
エースを受け入れるにあたって、スタッフと話した。たくさんの猫を保護してきたが、今まで圧迫排尿が必要な猫を保護したことがなかった。ただ、自分の中で悲壮感はまったくなく、むしろはじめての圧迫排尿の必要な猫の受け入れをどこか楽しみにしていた。ねこかつのスタッフはみなたくましく、きっと楽しんで世話をしてくれるに違いない。そう確信していたからだ。
予想外の出来事が発生
エースが埼玉にやってきて、両後ろ足断脚の大手術をした。ここまでは受け入れるにあたって予想していた。しかし、その後、予想外の出来事が起きた。
「エースが尻尾をかみ切っています。」
下半身不随で痛みを感じないエースが、自身の尻尾にジャレてかみ切ってしまったのだ。
「どうして、こんなことするの?」足の断脚手術を担当してくれた獣医さんがエースに語りかけていた。
断尾の手術もいえたある日、また予想外の出来事が起きてしまった。
「エースがおなかを引き裂いてしまっています!」スタッフが半分泣きながら電話をかけてきた。獣医さんに車を走らせた。
「いくら痛みを感じないからといって、おなかまでやってしまうとは。今後どうしたらいいのか」
獣医さんと一緒に頭を抱えた。
エースが退院してからは、試行錯誤の日々が続いた。昼間は洋服を着せて、夜は布製のカラーをした。
両後ろ脚の断脚、1日数回の圧迫排尿、それに加え自傷行為の危険。そんなエースのケアをして、新たな飼い主さんに繋ぐことができれば、それはねこかつスタッフの大きな喜び・自信になる。保護活動者全体の希望になるとも考えた。そんなことをブログにつづった。
人気者になった猫「エース」
エースは我々の心配をよそに、表情豊かなで元気な猫に育った。ねこかつの人気者になった。数カ月が過ぎたある日、ねこかつから連絡が入った。
「エースにお声がかかりました!」
「え~!本当?」それが第一声だった。しかし、すぐに冷静になり、スタッフに質問した。
「エースの大変さを安易に考えていなかった?」
新たに猫を迎えると同時に、毎日の圧迫排尿がはじまる。通常の猫とは違い、半ば介護に近い。譲渡するにも慎重にならざるを得ない。
「まったくそんな感じではなかったです。とてもしっかりと考えられていました」スタッフが即答した。
エースを希望していただいてから、希望者さんは圧迫排尿の練習に何度も通ってきてくれた。
譲渡が「喜びと自信に」
そして、いよいよエースのお届けの日がやってきた。
通常は、私か別のスタッフがひとりで行くお届けに、お世話をしたメインのスタッフと私を含め5名で行った。他の保護猫たちに比べ、エースだけが特別なわけではないけれど、いろいろなことがあった分、やはりちょっと違う思いがあった。
「毎日の圧迫排尿を楽しんでいます」お届けから数日経って、新たな飼い主さんからはそんな言葉をいただいた。
以前にたまたまねこかつがテレビの取材を受けたときに、取材の人たちの目にエースがとまっていた。エースにお家が決まるときに取材したいと言われていた。
その取材の人たちがエースの飼い主さんに質問をした。
「どうしてエースくんをお家に迎えようと思われたのですか?」
「エースももちろん、どの猫もみんなかわいいんです。エースに関しては、梅田さんがブログに書いていました。エースを新しいお家に送り出すことができれば、保護活動をしている人にとって、大きな喜びと自信になると。それもあってエースに実際に会ってエースに決めました」
エースを保護し新たな飼い主さんに送り出してから、圧迫排尿を必要とする猫を臆することなく保護できるようになった。この活動をすることになって、節目節目で、大きな特徴のある猫に出会い、それぞれの猫たちが素晴らしい飼い主さんに巣立っている。
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