子猫を救え! 赤ちゃん猫を連れて電車通勤?
引っ越した家の庭で保護した元野良猫が、まさかの妊娠……からの、帝王切開! 無事生まれたと思ったのもつかの間、それは波乱の幕開けでした。
母猫「サビ」のおっぱいが出ない?!
もともとTNR(避妊手術後、元の環境に返す)をするつもりだった姉妹猫を、うちの子として引き取ることになり、そこで起こったのが東日本大震災。
不穏な日々を過ごすうちに妊娠が判明して、まさかの帝王切開! ほんの数カ月の間にこれだけの事態が立て続けた起きたのだから、私も少々のことでは驚かなくなっていました。
ちなみに、帝王切開にかかった費用は18万円。突然降ってわいた出費でめまいがしましたが、動物病院の先生は長年のお付き合いもあり、「少しずつ、余裕のある時に払ってくれればいいですよ」。ありがたくて涙が出ました(もちろん、すぐにお支払いしました)。
お腹の傷も落ち着いて、母子ともに退院。しかし、これで一安心、とはいきませんでした。母猫サビのお乳の出が悪いのです。
いえ、正確にいうと出る乳首と出ない乳首があるらしく、どういうわけか赤ちゃんは出ない乳首にばかりしがみつくのです。
「うーん。どうしよう……」
おっぱいに吸い付く前に体重を測り、しばらく吸わせた後、再び体重測定。そこで増えたグラム数が飲んだ量の目安になるのですが、20分経っても5gも増えていません。
サビのおなかはにじみ出たお乳でびしょびしょのベタベタ。なのにどういうわけか子猫の体重は増えてくれません。まだ目も開かない小さな命。お乳が飲めなければたちまち死んでしまいます。
動物病院に相談したところ、人工乳での飼育を勧められました。本格的に人間が介入することになったのです。
子猫の名前は「エンマ」に決定!
世の中はうつうつとした自粛ムードが続いていましたが我が家はそれどころの騒ぎではありませんでした。病院で猫用ミルクの作り方、与え方、排泄のさせ方などを教わり、その日からトライすることに。
つくづく、生まれた子猫が1匹でよかった。複数いたら、とてもじゃないけど手が回りません。
それから2~3時間おきにミルクを与える生活が始まりました。
出産経験のない私ですが、夜も数時間ごとにアラームをかけ、眠い目をこすりながらミルクを作る日々。時には夫に代わってもらったりしながら、なんとか数週間を乗り切りました。
「世間のお母さんたちは本当に大変なんだなあ」と実感。人間の授乳期間は猫とは比べものにならないぐらい長いんですから。
生まれた子猫は「エンマ」と名付けました。大きな天災の直後でしたが、力強く立ち上がりたい。復興したい。閉塞感の中、子猫は希望の光でした。
エンマの名前の由来は、冥界の王・閻魔さま。日本の仏教では地蔵菩薩の化身とされ、子どもを守る仏様とも言われています(諸説あります)。大変な時期に生まれてきてくれた命。閻魔大王のように強く優しく生きてほしいとつけたのです。
エンマ 数日で「電車通勤」する
さて、育児に際して困ったのが、昼間の時間をどうしよう? ということでした。
その頃、私は出版社に、夫も自動車関係の仕事で夫婦ともサラリーマンです。
私の会社は十数人の小さな出版社でしたから、思い切って社長に直談判しました。
「猫を連れて出社したいのですが」
「はあ?」
創業社長で典型的なワンマンタイプ。いつもなら頭ごなしに「ふざけるな!」と怒鳴られそうなところですが、あまりに斜め上の話題を振られて、怒鳴り損ねたようです。
「おまえ……会社を何だと思ってるんだ?」
「ええ、わかってます。でもねえ。ケアしないと死んじゃうんですよ。命ですから」
私は知っていました。ワンマンでキレやすい社長が、じつは大変な子煩悩なパパであることを。
ぶっきらぼうな態度ではありますが、女性社員の産休・育休には決して嫌な顔をしません。育児と仕事を両立している社員には、出社時間をフレキシブルに変更しても遅刻扱いにはしない人でした。
「仕方ないな。どれくらいの期間だ?」
「とにかく、仕事に支障のないように気をつけなさい」
こうして子猫は、毎日私と電車通勤することになったのです。
カブトムシのケースに入って出勤
まず私は100円ショップでカブトムシ用の透明なケースを買いました。ペットシーツを敷き、母猫の寝床に敷いていた古いバスタオルを切って入れてあげました。お母さんの匂いがあれば安心するでしょう。
ホームセンターでジェルタイプの湯たんぽ(電子レンジで温めるタイプ)を購入。やけどしないようにタオルでしっかり巻きます。
会社の机の下には、コピー用紙の箱を置きました。ここにもペットシーツと母猫の匂いのするタオルを。上から使い古しのひざ掛けでおおって、まぶしくないようにします。給湯室には猫用ミルク、会社用の哺乳瓶も用意万端!
そして出社の朝。
朝のミルクを終えたら、母猫からエンマを預かり、湯たんぽをいれたケースに入れます。丸見えでは困るので、大きめのトートバッグにケースを収めて、いざ出発。エンマは(今では信じられませんが)それは静かな子でした。
出社すると、若い後輩たちがワクワクしながら待っていました。いつもは遅刻する子が、エンマに会いたいばっかりに早く来たようです。
「うわぁ! ほんとに連れてきたんですね!」
子猫を取り出すと、みんな目がキラキラです。
「抱っこしてもいいですか?」
「ミルクやってみてもいい?」
社長が出社してくるまでのつかの間、みんなエンマの世話をしたがりました。
「みんな、ありがとう。仕事の邪魔はしないから、しばらく協力してね」
そしてお願いがひとつ。
「どうか仕事に集中して。この子のせいでみんなが浮足立ってるって思われたら、連れてこれなくなっちゃうから」
そう。仮にも管理職ですから、そこはしっかりお願いしないと。
さあ、通勤猫、エンマの日々が始まりました。
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。