怒りんぼな茶トラ猫 仲良くしたい男の子は恐る恐るナデナデ

 5歳になった湊斗(みなと)くんは、自分が生まれる前からいる茶トラのシュシュちゃんが大好き。だけど、シュシュちゃんは一筋縄ではいかない、怒りんぼ猫さんなのです。

(末尾に写真特集があります)

生まれたてで捨てられて

 シュシュちゃんは、9歳の茶トラの雌猫。可愛い丸顔をしているけれど、怒るとかなり怖い。耳が反り返り、鬼猫の形相に。パパとママにはめったに怒らないけど、なぜか湊斗くんには、ちょっとしたことで八つ当たりする。シュシュちゃんが大好きで、もっとお近づきになりたい湊斗くんなのに。

 シュシュちゃんは、ママのママである、るなさんの再婚相手の満(まん)さんが連れ帰った捨て猫だった。るなさんと満さんは、猫好きのオフ会で意気投合した、猫をこよなく愛する同士である。

 満さんの会社は、周辺を毎朝掃除するのが日課だった。9年前のある朝、近くの小公園に生まれたての子猫が落ちていた。社長が「保護するように」と指示をし、社内で引き取り手を募った。

 満さんは、すぐに家に電話をした。ところが、るなさんからの返答は、介護中の高齢猫にストレスがかかるからと「NO」。社内に貰い手は現れず、仕方なしに手ぶらで帰ってきた満さんを、るなさんと娘たちは責め立てた。「生まれたての子を会社に置いてくるなんて」と、人でなし呼ばわり。

 このとき、育ててくれたのが、結婚して近くに住んでいた、るなさんの長女の明日香さん。ただただ「生きて!」の一念で、ミルクを受け付けない子猫の口をこじ開け、スポイトを差し込んだ日々。「シュシュ」の名は、「可愛子ちゃん」という意味のフランス語からつけた。

「アタシが先」のプライド

 シュシュちゃんのために埼玉県の一軒家に引っ越した亮(りょう)パパと明日香ママに溺愛され、愛らしい猫に成長したシュシュちゃんだったが……。

 5年前の春、大好きな「アタシのママ」がしばらくいなくなり、得体のしれない生き物を大事そうに抱えて戻ってきた。「何なの、ソレ」と、シュシュちゃんは、遠くから凝視したまま、固まっていた。「アタシのパパ」も、その子を抱っこして「可愛い、可愛い」を連発しているではないか。

 その日から、シュシュちゃんは、ちょっと怒りんぼになってしまったのだ。

「ボクも猫になってみたいな」と転がる(3歳のとき)
「ボクも猫になってみたいな」と転がる(3歳のとき)

 すくすく大きくなったその赤ちゃん、湊斗くんが「シュシュお姉ちゃんと遊びたいな」と近づくと、「なれなれしくしないでよ」とばかり、たちまち耳が反り返る。そっと触ろうとするものなら、「何すんのよ!」と、シャアッと手が出る。咬みつくこともある。

 でも、引っ掻かれても咬みつかれも、湊斗くんは、めげない。シュシュちゃんが大好きだから。なんとか仲よくなりたいと、猫じゃらしを振ったり、そばで転がってみたり、寝顔をそっと見つめたり。

(シュシュちゃん、ナデナデしたいなあ)

 そんな湊斗くんの思いは少しずつ少しずつ通じ、気が向けば背中をそっと撫でさせるまでに、なっていく。

トリオの光景

 去年の冬の初め。また、ママがしばらくいなくなった。そして、赤ちゃんを抱っこして戻ってきた。その時のシュシュちゃんの反応は、「あ、またですか」というような、あっさりしたものだったという。

 この赤ちゃん、栞里(しおり)ちゃんの登場は、シュシュちゃんと湊斗くんの微妙な緊張関係にも変化をもたらした。

 栞里ちゃんも、シュシュちゃんが大好き。なんせ、おばあちゃんとママの「大の猫好き」のDNAを、お兄ちゃんと共にしっかり受け継いでいるのだ。寝返りを打ちながら、シュシュちゃんににじり寄っていく。

 シュシュちゃんも、そんな栞里ちゃんに、怒ることも、手出しをすることもない。ママが気づくと、至近距離でふたりでゴロンゴロンしているのだという。栞里ちゃんは、幼児用おもちゃよりも、猫じゃらしにいちばん反応するほどの「猫娘」だ。

トリオでの団欒風景(写真提供・明日香さん)
トリオでの団欒風景(写真提供・明日香さん)

 最近では、湊斗・栞里・シュシュのトリオでくっついて過ごすシーンもしょっちゅう見られるようになった。「出産後にはシュシュに淋しい思いをさせてしまったから、もっともっと可愛がってあげなくては。シュシュは湊斗や栞里が来る前からの大事な家族だから」というパパとママの思いが通じて、気持ちも安定してきたのだろう。

 どうやら、湊斗くんとシュシュちゃんの距離がなかなか縮まらないのは、お互い「ビビり」同士という性格のせいらしい。ビビりながら触るから、触られるほうもビビってしまうのだ。でも、これからは、天真爛漫な栞里ちゃんを仲立ちに、どんどん仲よくなっていくことだろう。

 5歳になった湊斗くん。シュシュちゃんのおやつやお水のお皿を運んで「どうぞ」したり、ママがシュシュちゃんにブラッシングしているのをそっと手伝ったり、お兄ちゃんらしい気配りを見せているこの頃だ。トリオでいるときのシュシュちゃんの目は丸い。

 湊斗くんに聞いてみた。「シュシュちゃん、まだコワい?」。 ニッコリ笑顔と共に、こんな答えが。

「うん、ちょっとコワい。でも、カワイイ。もっと仲よくなりたい」

 3きょうだい仲よく、すくすく大きくなあれ。

(文・写真 佐竹茉莉子)

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