警察に届けられた飼い主不明の犬 期間内に新しい家が見つかる

   路上で拾われた小型犬のチワワが警察署に持ち込まれた。捨て犬など飼い主不明の犬や猫が拾われて警察に届けられた場合、警察や動物愛護センターなどで一時保護されるが、3カ月たっても飼い主が現れなければ、最悪の場合、殺処分される恐れもある。このチワワには、幸い引き取りたいという人が現れた。

(末尾に写真特集があります)

   待ち合わせをした都内のドッグカフェ。クリーム色のチワワが、美佐子さん(58)の腕にちょこんと抱かれていた。周りで犬がワンワン鳴いても、まったく動じない。

「この子は友好的で、人も犬も好きなんです。ねっ、『かぼす』君」

   預かり主から仮に付けられた名前を呼ばれると、チワワは嬉しそうに顔を見上げた。目がキラキラしている。

「推定8歳の保護犬です。オモチャでよく遊ぶし、実際は34歳くらいかもしれません。『かぼす』という名前は会ったとたんに浮かんだんです。本当はもっとかわいらしい名前も考えたけど、やんちゃっぽい雰囲気にぴったりかなと」

美佐子さんの家でくつろぐかぼす
美佐子さんの家でくつろぐかぼす

警察署に届けられたチワワ

「かぼす」は昨年10月半ば、東京都江東区の警察署に届けられた飼い主不明の犬。近くの路上で保護した人が直接、持ち込んだ。

   首輪や名札はなく、マイクロチップも着けていなかったが、体や足はさほど汚れていない……。そのため飼い犬だと思われたが、迷い犬の届けのないまま何日か経ち、警察署から都の動物愛護相談センターに移される予定だった。

   チワワの存在を知ったボランティアが、警察署に出向き、“3カ月間は所有権を取得できない”という趣旨の書類にサインをして、センターに送られる前に預かった。

   美佐子さんはそのボランティアと知り合いで、相談されたのだという。

「チワワを保護したのですが、預かりませんか、と電話をいただきました。ほとんど迷わず、ふたつ返事で『私でよければ』と答えました。ボランティアさんは犬のためを考えてシビアに選択するはずですが、私を信頼してくれたからこそ真っ先に連絡をくれたのでしょう。それが嬉しかったし、もしチワワの保護犬がいたら紹介して欲しいと、こちらから連絡しようと思っていた矢先だったんです……」

昨夏とつぜん旅立ったてんちゃん
昨夏とつぜん旅立ったてんちゃん

2カ月前にチワワを見送ったばかり

  実は美佐子さんはその2カ月前、愛犬のチワワ(11歳)を亡くしていた。ボランティアはそれを知った上で、連絡をよこしたのだった。

「『てんちゃん』というオスのチワワで、爪を切ってもらいに近所の動物病院に連れて行った時にアクシデントが起きました。直前までピンピンしていたのに、診察を終えてトリミングルームに移ったとたんに、突然、パタッと倒れて……」

   トリマーが慌てて獣医師を呼んで救命措置をほどこしたが、蘇生できなかった。急性心不全らしく、獣医師もあまりに急なことに、涙を浮かべながら玄関の外まで見送ってくれたという。

「心構えも何もなかったので、私はただ呆然とするのみ……もう1匹、『光太郎』というミニチュアダックスフントがいたので、重度のペットロスにはならなかったけど、元気に動いていた子が急にいなくなったのがショックでした。うちはカメや鳥や金魚もいて、皆のお世話をすることで、悲しみが少し紛れたのかもしれませんが……」

美佐子さんとかぼす
美佐子さんとかぼす

 10年前から飼い始めた金魚は数十匹もいて、“金魚仲間”とのつながりも強いのだとか。実はその仲間の一人が「かぼす」を紹介してくれたボランティアだった。

「金魚も好きだけど犬も好きという関係で、ブログに『てんちゃんが死んだ』と書いたのを読んで、彼女が気にかけてくれたんですね……。気の強いてんちゃんと、フレンドリーなかぼすはキャラが違い、生まれ変わりとは思わなかったけど、亡くして間もない時に出会ったので、これも“縁だな”と感じました」

人に慣れ、おすわりも出来た犬

 家に来た日、「かぼす」はトコトコと室内を探検したあと、光太郎のそばに寄って、ごはんも完食したという。

「おやつを出すと、喜んで食べました。『かぼす』は“おいしいもの”と“おすわり”を知っていた。つまり、おやつをくれて、おすわりを教えてくれた人がいたということです。それに、私が寝たら、何の迷いもなく布団に入ってきて、初日から一緒に寝たんです」

   抱っこも好きで、光太郎を先に抱くと、「僕も」といわんばかりに割り込んできた。

   ただ、散歩には慣れていないようで、リードを付けると動かなくなった。そこで、光太郎と一緒に外を歩かせるようにした。2カ月かけて家の前の数十メートルを歩けるようになったそうだ。

「宅配の自転車を見て驚いて、横に飛びはねたことがあるんですよ(笑)。犬の横っ飛びなんて初めて見たけど、可愛いかったです」

 行きつけの動物病院に「かぼす」をシャンプーに連れていくと、先生やトリマーに「新しい子?」と驚かれたそうだ。

「『預かり中で』と答えたら、いいおうちに来たねと言ってもらえました。てんちゃんのことがあったから、先生たちも喜んで下さったたようです。まもなく所有権が移り、晴れて我が家の犬として登録できます。特別なことはしてあげられないけど、元気に暮らせればいいな」

   1月半ば、新しい家の一員として、「かぼす」の新しい生活が始まる。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
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