旅立った愛猫によく似た子猫が庭に出現 「世界に色が戻った」

   人生の岐路に立った時に、出会った三毛猫。13年間ともに暮らし、支えになってくれた猫は、やがて病で旅立つ。泣き暮らしていると、なんと2カ月半後、そっくりな三毛の子猫が自宅の庭に現れたのだった。

(末尾に写真特集があります)

   東京・吉祥寺の閑静な住宅街にある白い2階建ての家。リビングに面した庭には、梅や白樺、ツツジなどが植えられている。その庭先で、リードを付けられた縞三毛の猫が日向ぼっこをしていた。

「『ポチ実』はシャイで、僕に対しては反抗期(笑)。足元にスリスリもしますけどね」

 シンガーソングライターの山田稔明さん(45)が、「ね、チミ」と呼んで大きな体を抱き上げる。“ああ捕まっちゃったわ”というふうに、ポチ実がその横顔を見つめる。

青空の下、外をのぞくポチ実(山田さん提供)
青空の下、外をのぞくポチ実(山田さん提供)

庭先に現れた子猫

   山田さんとポチ実は、この庭で出会った。

4年前の秋、突然現れたんです。生後2カ月くらいでしたが、とにかくびっくりしました。可愛いし、あの子にそっくりで、目をこすっちゃったほど。生まれ変わりなのかと」

 あの子というのは、ポチ実が現れる2カ月半前に、腎不全で亡くなった先住猫「ポチ」のことだ。あまりに似ていたので、「ポチ似」と呼び始め、その後「ポチ実」になったという。

 山田さんは18歳で佐賀県から上京。大学卒業後に映像製作会社に就職したが、夢を捨てきれず、音楽活動を続け、1999年に大手レコード会社からバンド「GOMES THE HITMAN」としてデビューした。だが、思うようには売れず、“最後の1枚”になるかもしれないCD製作に臨むことになった。そのジャケットを飾ったのが、猫のポチだった。

庭で遊ぶポチ実(山田さん提供)
庭で遊ぶポチ実(山田さん提供)

「猫ジャケットに」

「どんなジャケットにしようかと考えている時、たまたま写真家・斎門富士男さんの『baby cat』という写真集を見かけたんです。斎門さんが葉山で一緒に暮らす猫たちとの日々を写したものでした。表紙の子猫が魅力的で、“猫ジャケ”にしたいなと思いました」

   企画が進み、斎門さん宅にロケにいくと、山田さんを見るなりタタタッと近寄ってきた三毛猫がいた。写真集の表紙になっていた子猫のポチが美しく成長していたのだ。しかも、ふいに膝に乗ってきた。

「その瞬間、恋に落ちましたね(笑)。斎門さんもその瞬間「君、気にいられたね」とシャッターを切り、それがCDジャケットになったんです。でも、売り上げは伸びずレコード会社の契約は終了。落ち込みましたね。その後、斎門さんが引っ越しをすることになり、ポチを引き取ってくれないかと。もちろん快諾しました」

   ポチと歩み始めると思うと、挫折し希望を失っていた山田さんの心が、パッとときめいたという。猫を幸せにするために、音楽を続けていく覚悟が決まった瞬間でもあった。

在りし日のポチ(山田さん提供)
在りし日のポチ(山田さん提供)

インディーズで音楽活動再開

 山田さんはポチと暮らすため、都心から、吉祥寺のペット可マンションに移り、インディーズで音楽活動を再開した。すると新しいファンがついた。

「バンド活動と平行して自分以外の歌手のための楽曲も作るようになったんですが、猫が登場し過ぎるなんて言われ、コンペで没になったこともあります(笑)。生活のためにバイトもしていたんですが、疲れ果てて帰るとポチが待っていて、それが嬉しかった」

 ポチに寄り添い、寄り添われながら日々を過ごすなか、山田さんの書く歌詞は半径数メートルの日常をスケッチした私小説のようなものへと変わっていった。ポチと暮らして10年経った頃、気分を一新しようと、今の家に移った。

「ブログに加えインスタグラムを始めて、ポチの様子を投稿すると、猫好きのフォロワーが増えました。ポチのファンになって僕の音楽を知り、ライブに来てくれるようになった方もいます。新居の2階に作ったスタジオで、ソロアルバムの製作を始め、ミュージシャンを招いて録音したり、ポチに会いにくる友人も増えたりして、家が賑やかになりました」

   ポチと“ふたりぼっち”から、ポチを介して、人とも深く繫がるようになっていったのだ。

庭でポチ実を抱く山田さん。「大きくなったね」
庭でポチ実を抱く山田さん。「大きくなったね」

ポチロスを乗り越えて

 しかし引っ越して3年後、充実した生活を送るなか、ポチは生涯の幕を閉じた。山田さんは「いつでも会えるように」と、部屋中にポチの写真を貼った。

   それでも涙が止まらなかった。飼い主の願いを聞き入れるという噂を聞き、「また会えますように」と猫返し神社にもいってみた。だからこそ、ポチによく似た子猫が庭に現れた時には「信じられない」と叫んだのだ。

「生まれ変わりのように感じて、保護した時は、止まった時間が動き出し、色がなくなった世界に天然色が戻ってきた感じでした。ポチを送る時は『介護して看取るって、こういうことなのか』と思ったけど、ポチ実が来て少しずつ慣れていくときは、『初恋ってこんなだったかな』と思いましたね」

 インスタグラムに「ご報告があります。山田ポチ実になりました」と子猫の写真を投稿すると、大きな反響があった。

 ポチとポチ実。2匹は似ているけれど、やはり違う。大人になってから暮らしたポチは妹分的で、ポチ実は我が子のようだという。

「健康に気をつけて、ポチ実には20歳の成人式を迎えさせてあげたい。そうして見送った頃に僕のほうは60歳を過ぎていて、さぁてこれからどうしようなんて考える。そんな夢をみているんです」

(友永翔大・撮影)

山田稔明さんのインスタグラム
「太陽と満月」(YouTube)
「ポチの子守唄」(YouTube)
藤村かおり
ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。

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