大家族ワンニャンハウス 犬猫5匹のボスは女子に甘い猫アーサー

仲良しきょうだい、クリスとココ。いつも一緒。こうやって同じ格好で、よく寝てました
仲良しきょうだい、クリスとココ。いつも一緒。こうやって同じ格好で、よく寝てました

 前回 は我が家が多頭飼育になった、そもそものきっかけのお話でした。両親が交通事故を起こしたことで親のペットを引き取ることになり、猫2匹から猫4、犬1の大家族に。さあ、どうしよう…!

(末尾に写真特集があります)

犬猫5匹 昭和な平屋建てに仮住まい

 交通事故の翌朝、母は他界。父は前頭葉損傷で意識不明のまま。服用していた薬の影響ですぐには手術できず、24時間以上待ってからの執刀となりました。

 おかげで命だけはとりとめましたが、脳の前頭葉を半分ほど除去。言語や認識をつかさどる部分ですから、ほぼ、コミュニケーションは不能となりました。目は開いていても言葉は通じません。声は発しても、意味を成しません。自分で起き上がることも、何かをする(食事する、トイレへ行く)こともできません。

 それでも、生きていてくれることに心から感謝しました。母には何もしてあげられなかった分、父だけでも、介護のまね事ができるだけで幸せでした。

 しかし、父が入院しているのは静岡です。親の家は名古屋。私たちの家は東京。取り急ぎすべての動物たちを名古屋に合流させましたが私たちの仕事の拠点はあくまで東京ですし、この先のことを考えねばなりません。

 保険が下りるとはいえ、父の医療費はいつまでかかるかわかりません。私たちが経済的にしっかりしないと、父の医療も介護も、動物たちとの生活も立ち行かなくなります。一日も早く東京へ戻って仕事を再開する必要がありました。

 しかし私たち夫婦が暮らしていた分譲マンションは、ペット可とはいえ抱いて運べる程度の小型犬まで、というのがルール。中型犬を含めて5匹と同居するのは到底無理です。かといって動物5匹連れで借りられる物件など、そうすぐには見つかりません。そこで夫は、自宅からワンブロックのところにある、古くて小さな貸家に目を付けました。間取りはお風呂場とトイレと2Kのいかにも昭和な平屋建て。

「暫定的にここに動物たちを住まわせて、一緒に住める家がみつかるまで自分たちが通おう」というわけです。

 大家さんに事情を相談したところ、ペット5匹すべてOKをいただきました!名付けて「ワンニャンハウス」の誕生です。

 夏も近づいていましたが、前の住人が置いていったクーラーがあったので暑い日も安心です。家から仕事道具などを持ち込み、なるべく彼らと一緒に過ごせるようにしました。はじめは夜になるとマンションに戻っていましたが、どうしても彼らの様子が気になります。結局、ワンニャンハウスに泊まる日が増えてゆきました。

ジェントルマンな長老猫「アーサー」

 何かとバタバタが続いた我が家でしたが、ワンニャンハウスに収まると、動物たちも落ち着きを取り戻しました。そしていつしか、長老猫のアーサーを筆頭に、犬猫ヒエラルキーができたようです。

 アーサーは長老らしい貫禄でみんなを統率しました。取り立ててリーダーシップを発揮するわけでもないのですが、ほかの猫たちもアーサーには一歩譲るようなところが見られるように。どうやら彼がボスに収まったな、という場面がいくつもあったのです。

 たとえば、猫の爪切り。

 爪切りが好きな猫なんていませんよね。毎度毎度、ぐねぐねと体をよじって逃げようとします。抵抗の仕方も猫ごとに違うのが面白いところですが、アーサーは長年の習慣なのでいまさら騒ぎません。

リーダー猫、アーサー。ベロのしまい忘れ率もダントツでした
リーダー猫、アーサー。ベロのしまい忘れ率もダントツでした

 抱っこして爪切り片手に前脚を握ると、やれやれといった風情で「ふーぅ」と大きくひとつため息。あとは好きにさせてくれます。

 アーサーの次に、アメリカンショートヘアのココちゃんを捕まえました。生まれ持ってのお嬢様気質。ごはんの取り合いにも悠然としているようなところがありますが、爪切りは大嫌い。なーなー騒いで、軟体動物かと思うほど身をよじって逃れようとします。こちらも逃がすまいと猫なで声でなだめながら、がっしりと捕まえにかかります。

 すると…。

 その様子をじっと見ていたアーサーが、私の手にそっと前脚を添えました。それでも私が暴れるココを抑えようとすると、ちらっと私の顔を見てから、私の手をそっと、痛くない程度にかみました。

「嫌がってるから、やめてあげて」

 え?アーサー、そういうことなの?

 軽くかんだ後、だまって私の顔を見つめています。アーサーの態度にびっくりしたスキに、ココはまんまと私の手から逃れて押し入れの天袋へ退散。

 まさかね…偶然だよね。

 そこへのほほんと通りかかったのが、ココのお兄さんのクリスです。

「はいクリス!よく来たね。爪切ろうね」

「ぴゃーっ!」

 どっかから空気でももれてるんじゃないかっていう声を上げて抵抗します。いつものことなので、「はいはい、わかったわかった」とおさえて爪切り続行。さっきと同様、アーサーは横で黙って見ています。

「んなぅ!きゃぅっ!」

 痛いわけもないのに(まだ切ってもいない)、クリスの抵抗はいつもやかましいのです。すると…

 ぽかっ!

 えっ?

 アーサーがなんと、クリスの頭に猫パンチです。

「うるせえ!男の癖に爪切りぐらいでめそめそすんな!」(飼い主の勝手な脳内変換)

 緑の瞳でキッとクリスをにらんでいます。クリスはまるで一喝されたかのようにぽかーん。ついでに私もぽかーん。

「アーサー。あんた、女の子には優しいのね…」

この連載を始めてから行ってみたら、まだありました!ワンニャンハウス!
この連載を始めてから行ってみたら、まだありました!ワンニャンハウス!

 用心深く見ていると、確かにアーサーは女の子たち=ココとディーナには甘いことがわかりました。お気に入りのおやつを横取りされてもムスッとしたまま黙っていますが、それがクリスだったら容赦しません。

 くつろいでいたクッションを取られても譲ります。気まぐれにすり寄ってくる小娘ディーナには毛づくろいまでしてあげるジェントルマンっぷり。

「どうなるかと思ったけど、なんとか集団生活におさまるもんだねえ」。狭い空間での生活が彼らの一体感を生んだのでしょうか。大きなけんかもせず、ワンニャンハウスの日々は一緒に暮らす家がみつかるまで、2カ月ほど続きました。

【前の回】猫6匹のわが家、なぜこんな数に? きっかけは私の親の死だった
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浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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この連載について
毎日が猫曜日
猫と暮らし始めて、気が付けば40年! 保護猫ばかり6匹と暮らすライターの、まさに「カオス」な日々。猫たちとの思い出などをご紹介します!
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