初めて飼った犬は元野良犬 超ビビリが家族の努力で心を開いた

 ペットを迎えるなら、店で買うのではなく、施設から引き取ろう。3年半前、3人家族が話し合って迎えたのは、初めてみる人や音を怖がる元放浪犬だった。おびえきった態度に困惑しつつ、家族は仲良くなろうと、日々奮闘……。すると、犬にも人にも変化が起きた。

(末尾に写真特集があります)

 東京・杉並区のマンションに暮らす雑種犬の「アキ」(メス)は、推定5歳。訪ねた時は、居間の奥のケージの隅のほうにいた。きりっとした顔を一瞬こちらに向けたが、名前を呼ぶと、プイッと顔を左に。近づこうとすると、今度は右側に顔をそむけた。

「元野犬で警戒心が強くて。でも、さっきまでソファの上でくつろいでいたんですよ」

 飼い主の今国智章さん(48)が優しい口調でいう。

「これでも、アキにとっては大進歩なんです」と妻の妙子さん(39)。

 娘の可奈さん(13)がケージの入り口から手を伸ばすと、その手に顔を寄せるようにして、尾をちょっと動かした。

保護施設(ミグノン)を出発する日。少し不安そう? 
保護施設(ミグノン)を出発する日。少し不安そう? 

野良犬の中の1匹

 アキが家にやってきたのは2014年の秋だった。妙子さんが当時を振り返る。

「前から犬か猫を飼いたいと思っていました。娘が小学4年生になって、しっかりしてきたので、そろそろいいタイミングかなと思い、探し始めたんです」

 智章さんは幼い頃に犬を2匹飼っていたが、妙子さんは初めてだった。

「ペットショップやホームセンターで買うのでなく、飼い主のいない保護動物を引き取りたかったんです。そこで家の近くにある保護施設をネットで探して、猫や犬の譲渡会というのがどんなものか見てみようと思いました」

 最初に行ったのは、杉並区内であった猫の譲渡会。その次に訪れたのが、渋谷区で開かれた保護団体「ミグノン」の譲渡会だった。そこで見初めたのが、アキだった。  

「ミグノンが動物愛護センターから引き出した野犬のグループの1匹で、もともとは都内の公園を放浪していたそうです。3匹同時に捕獲され、アキはワキワキ、ほかの子はマダマダ、ヒジヒジと名付けられ譲渡会に参加していました。すでに1歳でした」

 3匹は同じ場所に繋がれていて、一家が近づくと、後ずさりした。アキはほかの2匹に踏まれて下敷きになった。家族みんなが「あの子は?」「控えめでいい」と興味を持った。アキはその時すでに他の家でのトライアルが決まっていたが、妙子さんは、縁を感じたという。

「何となく戻るような予感がして、ブログなどを確認しながら数回後の譲渡会に行ったら、再会できました(笑)。でも、本当に迎えて大丈夫だろうかと、家族でよく話しあいました」

 アキは公園にいた時に脅されたこともあったのか、非常に怖がりで、小さな子どもも苦手のようだった。それでも「仲良くなりたい」という思いで、申し込んだ。

1年経つと可奈さんの側ですやすや、体もふっくら
1年経つと可奈さんの側ですやすや、体もふっくら

挨拶代りに玄関で…

「アキは初めて家に来た時、マンションの玄関でウンチをしました。緊張するとお腹が緩くなるようで、1階のフロアがもう大変(笑)。挨拶の儀式は、まずお掃除からでした」

 智章さんの言葉に、妙子さんもうなずく。

「しばらくはケージにタオルをかぶせ、こちらからアクションを起こさず、自ら出るまで待ってと、ミグノンのスタッフに言われました。3日くらいしてケージから顔を出しましたが、『この子は難しいのでトレーナーを付けた方がいい』と言われ、紹介してもらったんです」

 野良生活をした犬は、接し方を間違えると、もっとビビりになり、人間離れを起こすという。そのため、犬だけ訓練所に預けるのでなく、“家族全員”が犬と一緒にトレーニングを受ける形にして、2週間に一度、トレーナーに家に来てもらうことにした。智章さんは訓練のために仕事のスケジュールも調整したという。

「最初にしたのは、トリーツ(おやつ)を家族一人一人が手であげる練習。トリーツを入れたポーチをウエストに付けて、繰り返しました。意外なことに、いちばん先にアキが心を許したのは、当時11歳の可奈でした。子どもが苦手と聞いていただけに、娘の手からトリーツを食べた時は感動でしたね」

 続いてアキは妙子さんの手からもトリーツを食べて、「待て」「伏せ」などを覚えていった。

 その後は一緒に歩く練習。まずリビングを歩く。室内を一緒に歩けるようになったら、次は部屋の外……、と時間をかけて、歩く範囲を広げていった。ところが、智章さんだけは、いつまでも“手からフード”の訓練が続いた。

「次の訓練までの間、トレーナーさんから一人一人に宿題が出されるんですが、アキが僕に馴れないので先へ進めず、毎朝ご飯の時、一粒ずつあげるのが僕の課題でした(笑)」

 アキは2カ月もすると、部屋からマンション共有部に出られるようになった。廊下や階段の上り下りをして“戸外までの環境”に慣れた後、1月半ばになって、ようやく戸外に出る日がきた。来た時にウンチをまき散らした玄関をまたぎ、太陽の下に出た。

 でも一筋縄ではいかない。

2年経つとこんなにいいお顔(2016年12月)
2年経つとこんなにいいお顔(2016年12月)

動じず淡々と接する

「表に出ると最初、腰を低くして、震えてキョロキョロ。緊張でまたも下痢。犬の散歩は意気揚々としたイメージがありましたが、なんかウチは違う(笑)。まるで“修行”でした」と妙子さん。

 朝、可奈さんが学校に行き、智章さんが仕事に出かけた後、妙子さんが1人で散歩にいく。トレーナーに教わった通りトリーツを使い、歩く距離を少しずつ伸ばすようにしたのだ。その修行のような散歩をするうちに、妙子さんはあることに気付いたという。

「例えば、あちらには人がたくさんいるなあと私が迷うと、アキも戸惑う。犬と付き合うには心を決めないとダメ。道端で下痢しても、私が『ああ……』と戸惑うとアキにすきができて、危ないことになるので、動じないで、淡々と処理するようになりました」

 犬はみな一緒ではなく、背景や個性によって“人とのよい距離”が違うということもわかった。妙子さんがそう気づいてからは、アキのほうから寄ってくるようになったという。今では毎晩、妙子さんと同じ部屋で寝ている。

取材時のアキちゃん、ちょっとてれくさそう(2018年6月)
取材時のアキちゃん、ちょっとてれくさそう(2018年6月)

 いつしか妙子さんは「とてもいいリーダーになった」と智章さんがいう。

「妻は勘がよいとトレーナーさんにも褒められていたけど、この3年で本当に強くなったと思う。生き方そのものがぶれなくなったね。悲しい顔をしたり、くよくよしたりしなくなったよ」

 そんな智章さんも、夜のアキの散歩に1人で行けるほど“躍進”した。そして、アキは“ビビり漏らし”がなくなり、3キロも体重が増えた。可奈さんとは相変わらず気が合い、「癒し合う」関係だ

 散歩を楽しめるようになったアキの次の目標は、ドッグランデビューだという。

「塀の高い貸切ドッグランを見つけたんです。涼しくなったら家族みなで行きたいです」

藤村かおり
ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。

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この特集について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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