飼っていた犬そっくりのおもちゃ、人生の宝物 北原照久さん

 世界的おもちゃコレクターとして、また『開運!なんでも鑑定団』のレギュラー鑑定士として広く知られる北原照久さん。横浜山手にある『ブリキのおもちゃ博物館』には、北原さんの愛犬で看板犬でもあるロビーの姿も。北原さんの膨大なコレクションの中には、犬のおもちゃや人形、ぬいぐるみ、犬をモチーフにした雑貨も数多い。時代を映し出すそれらのアイテムを通して、人と犬の関わり合いが見えてくる。

看板犬のロビー 撮影:山本倫子
看板犬のロビー 撮影:山本倫子

世相を映す犬のおもちゃ

 これまでに70冊以上の書籍を発表しつづけている北原照久さん。その中には文字通り、犬をモチーフにしたコレクションを収めた「DOGS」という本もある。

「15年も前の本ですけどね。最初はランダムに集めていたおもちゃや生活骨董、雑貨も、数が増えると分類したくなる。改めて犬を扱ったものがたくさんあることに気が付いて、一冊にしたんです」

 無類の犬好きを自認する北原さん。これまでにも数多くの犬たちと暮らしてきた。

無類の犬好きという北原照久さん
無類の犬好きという北原照久さん

「犬の思い出は、スピッツから始まっています。子どものころ、物心ついたときにはうちにもスピッツがいたんですよ」

 北原さんの実家は、東京都中央区京橋にあるスポーツ用品店。北原さんが2、3歳のころ、1950年代の日本ではスピッツが流行していた。

「犬にも流行はありますよね。その当時はアイドル歌手にもニックネームがスピッツって言う人がいたぐらいです(松島アキラさんのこと)。白くてふさふさした毛並みに真っ黒の目や鼻。それが可愛らしかったせいか、少女漫画に登場したりしていましたね。モール(針金に毛羽をつけたもの)を使ったモール人形という、戦前からある人形があるんですが、戦後あたりから、人の足元には犬が添えられるようになった。犬を飼うことへの憧れの表れなのかもしれませんね」

モールやリボンを使った、レトロな人形。モールの毛並みが犬の愛らしさをひきたてている
モールやリボンを使った、レトロな人形。モールの毛並みが犬の愛らしさをひきたてている

 おしゃれな洋服に身を包んだモール人形の少女。ふんわり広がったピンクのスカート、手にはピクニックバスケット。そして足元には愛らしい犬の姿。

「少しずつ生活が豊かになり始めた。子どものおもちゃや人形には、時代の憧れや向かおうとする理想の姿が映し出されるんですね」

北原さんとくつろぐロビー
北原さんとくつろぐロビー

犬はおもちゃ界のアイドルに

 戦後、電気仕掛けやぜんまいで動くおもちゃが登場するようになると、犬のおもちゃはますます大きく、多彩になる。よちよちと歩き、しっぽを振り、時々わんわんと吠える。そんなおもちゃを、玩具店の店頭で見かけた覚えのある人も多いだろう。

ずらりと並んだ犬のおもちゃたち。昭和の終わりごろまで、おもちゃやさんの店頭でよちよち歩いていたのを見た方も多いのでは?
ずらりと並んだ犬のおもちゃたち。昭和の終わりごろまで、おもちゃやさんの店頭でよちよち歩いていたのを見た方も多いのでは?

「今はこんなおもちゃ、まったく見かけなくなりましたよね。子どもたちの嗜好が変わってしまって、どこも作っていない。音が出る、光る、動くというだけで、60年代の子どもは夢中だったんです」

 姿形もだんだんリアルになり、ブリキの体に毛足の長い布を張り付けて、より犬らしくなった。口にバスケットをくわえていたり、ボールを追いかけたり。お座りしたり、お手をしたり。犬の動きをよく観察して作られていることに関心する。

「おもちゃを見ると、犬がいかに愛すべき伴侶だったかがわかります。いつもそばにいて、一緒に歩んでくれる存在。だからこそ、リアルな動きをする犬のおもちゃが生まれたのでしょう。犬を飼いたい、犬が欲しいという子供たちにも大人気だったのではないでしょうか」

 犬って、みんなおんなじ仕草をするんですよね、と北原さん。犬が人間の靴を噛んでいるおもちゃを見て、亡くなった愛犬、オリバーを思い出したことがあるという。

「横浜にブリキのおもちゃ博物館を開いて、初めて飼った大型犬がオールドイングリッシュシープドッグのオリバーでした。子犬のときから一緒に暮らして、看板犬として活躍してくれた。後から来た犬たちには優しい先輩で、僕ら家族やスタッフにはよき相棒だった。そのオリバーが亡くなったときは本当に悲しくて。女房と『もう犬を飼うのはやめようね。死んだら悲しいから』と話していたんです。そんなとき、知人が、オリバーにそっくりな子犬を『悪いけどちょっと預かって』って持ってきたんです」

 子どものころからの犬好き。もちろん、その子犬を預かることに。

「するとその子犬が、オリバーが子犬のころに噛んで遊んでいた靴の同じところを同じように噛むんですよ。偶然なんでしょうけど、生まれ変わりのように思えて」

 その子犬が、二代目オリバーになったのはいうまでもない。

犬のおまわりさんが掲載された展覧会の図録
犬のおまわりさんが掲載された展覧会の図録

愛犬をモデルにした作品も

 北原さんがコレクションしているのは、古いおもちゃだけにとどまらない。実は現代作家の絵画や造形、ミニチュア作品のコレクターでもある。横尾忠則氏や奈良美智氏などの有名アーティストはもちろん、素晴らしい作品を作っている日本人作家の発掘にも余念がない。

「なんでも集めてると思われるでしょうが、心の琴線に触れたものしか買いません。そこには有名無名の違いも、価格の高い低いも関係ないんです」

 そんな収集作品の中には、北原さん自身が作家にオーダーしたものも少なくない。

「山口孝幸さんていう革人形作家にお願いして作ってもらったのがね、この犬のおまわりさん。女房の弟が飼っていたブルドッグのコマちゃんがモデルなんです。事情があって飼えなくなって、我が家へやってきた。一見恐ろしげに見えるブルドッグだけれど、ものすごくおとなしくて賢い子でした」

 コマちゃんがやってきてしばらくしたある日。ブリキのおもちゃ博物館にひとりぼっちの子猫が現れた。トラオと名付けられた野良の子猫は、スタッフの手でガレージで飼われることに。そのトラオの面倒を実によく見たのが、誰あろうコマちゃんだったという。

「小さなトラオの世話をしてくれて、まるで親代わり。トラオもよくなついてね」

 2匹ともすでに他界しているが、そのストーリーが山口さんの手にかかると、犬のおまわりさんと迷子の子猫に結実した。大きな背中におぶわれて、安心して眠るトラオ。やさしい目をしたブルドッグの警官、コマちゃん。

「動物と暮らしていると、どうしてもストーリーが生まれますよね。それをこうした作品に閉じ込めて手元に残せる。アート好き冥利につきると思いますね」

 縁あって北原家へやってきた動物たちと、貴重なコレクション。一見無縁なようでいて、北原さんの思いや愛情が紡ぎだすストーリーでつながっているという。

「飼っていた犬にそっくりなおもちゃ。飼っていた犬をモデルにした作品。どれもこれも、僕の人生の宝物です。これからもどんなストーリーが生まれるか、楽しみにしてるんですよ」

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きたはら・てるひさ

1948年、東京都生まれ。「ブリキのおもちゃ博物館」館長。貴重なコレクションは河口湖北原ミュージアム、北原コレクションエアポートギャラリー(羽田空港第一ターミナル)などで常設展示。『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京系)には1994年の初回から出演。出身地、東京都中央区の京橋エドグランのアンバサダーも務め、地下1階タウンミュージアムにて11月23日まで「北原コレクション SFロボット」が開催される。毎週月曜日夜10時、中央FM「北原照久のラジオデイズ」に出演中。

浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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