オスのはずの子猫はメスだった 20代女性、初めての猫飼い
保護された猫には、さまざまなドラマがある。20代の女性は、初めて飼う猫はオスがいいと決めていた。だが、譲渡の直前、オス猫と思われていた子猫がメスだとわかった。さらに生まれたのは、貨物列車が行き交う線路脇の過酷な環境だと知った。
居間には、白く華奢な子猫がいた。オモチャめがけて、棚からジャンプし、ダーッとダッシュ。と思うと、今度はテーブルの上に飛び乗る。本当に俊敏だ。
東京都内在住の愛美さん(29)は、母と弟と3人暮らし。子猫の「ごまもち」が家にやって来てから1カ月半になる。愛美さんが猫を飼うのはこれが初めてだ。
「生後約5か月で、とにかく活発。寝る時はお餅みたいにビヨーンと伸びるんです(笑)」
女子は苦手、猫もオスがいい
出会いは、保護猫サイトだった。
「気になる模様のオス猫がいて、問い合わせたら、すでにトライアルに出ていて。それで紹介されたのが『ごまもち』でした。もう1匹いた兄弟の子猫には申し込みが多いのに、『ごまもち』には、もらい手がないと聞き、『私が一緒に暮らす』と強い決意で、預かりボランティアさんの家に見にいきました」
それまで根なし草のように日本や海外を行き来してきたが、自分以外の人や動物に責任を持ちたいという気持ちに変わったのだという。
預かりボランティアのもとで子猫を一目見て「可愛い男の子だ!」とすぐに気にいった。愛美さんがメスよりオスがいいと思っていた。それは体験からなのだという。
「女子が多い学校や職場にいたんですが、つるんだり、噂話したり、何かと面倒で……。それで女子の世界が苦手になって。プライベートでも男友達が多くなり、ペットも男の子がいいなって思ったんです……」
ところが、いざ迎えようとすると、「ごめんなさいメスでした、どうしますか」と、預かりボランティアから告げられた。活発な様子や雰囲気から受け入れた時にオスだと勘違いしたのだという。
愛美さんは「ごまもち」の性格に惹かれたため、性別に関係なく迎えたいと答えた。仮につけられていた名前「ごまもち」もそのまま受け継いだ。
「避妊した後に迎えましたが、やっぱりボーイッシュ。初日からデーンとくつろいで、次の日にはベッドで寝そべりました。猫ってみんなこんな感じなのかなと思ったんですが、昔、猫を飼っていた母に聞いたら、そんなことないみたいですね」
少しでも一緒にいたくて、愛美さんは毎日、昼には自転車で職場から家に戻って、「ごまもち」を見ながらランチを食べる。そして、しばし一緒に昼寝をするのだという。
線路脇で生まれた野良の子猫
「ごまもち」は生まれてしばらく野良猫として過ごしていた。
愛美さんら家族は引き取った後に知ったのだが、「ごまもち」の一家は、都内の線路脇に隠れるように暮らしていたのだという。
預かりボランティアさんが説明する。
「踏切に近い引き込み線の脇に、何年も前から夕方になると猫が集まっていたそうです。本当は不法侵入になるのだけど、餌やりさんがゴハンをずっとあげていたんですね。餌を待つ間にも貨物列車が通るので、跳ねられた猫もいて、すごく危険な状況だったようです」
近隣の人が心配し、聞きつけた地域猫の団体が救出に入った。
「スタッフは一目見て、これはすぐ保護をしないと危険だと判断し、その足でスーパーから小さな段ボールをもらい、枯草の下で鳴いていた子猫2匹を捕まえてくれました。捕獲していなければ、どうなっていたかわからないですよね」
団体が撮影した救出前の写真には、線路を勢いよく渡る猫の一家の姿が写っていた。
もともとはもっとたくさんの兄弟がいたのだろう。もしかしたら、「ごまもち」はそのすばしこさで、危険な線路脇でも綱渡りのように生き延びることができたのかもしれない……。
愛美さんのお母さんは、そうした生い立ち振り返りながら「大事なのはやはり室内飼いね」としみじみ話した。
「20数年前に猫を飼っていた頃は、出入り自由にする家が多く、我が家でも家の敷地内に出していました。でも、ノミがついたり、行方不明になったりして、やはり家の中で飼うのがいい。『ごまもち』はドアを開けると、ちょこんと帰りを待っていることがあるけど、外には出たがらないですね」
みんな子猫に夢中
話をしていると、弟の陸人さんが仕事から帰ってきた。居間に入るなり、「ごまは?」と子猫を覗きこんだ。
陸人さんは自室に「ごまもち」を入れたいのだが、あまりに散かっているので、愛美さんから「まだだめ」と言われているそうだ。「ごまが何か変なものを食べたら大変だと(笑)。早く片づけて一緒に寝るのが目標です」
弟の話に愛美さんは頬をゆるめる。その愛美さんにも心境の変化があるのだという。
「男性に求めるものが変わりました。ガッツがあって仕事をバリバリする人がもともと好きですが、条件に『猫好き』が加わりました。いつかそんな人と結婚したら、ゴマと一緒に嫁ぎたい」
「えー、さみしいよ」「急にはだめよねえ」と、弟と母が口をはさんだ。
小さな子猫は、わずかな間に家族の心にすっかり溶け込んでいた。
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