ハチワレ猫を本当に飼う? 迷う時間はもう残されていなかった(6)

 野良猫を保護すると決まったら、まず必要なのは猫を運ぶためのキャリーバッグだ。猫の飼育書には「保護した野良猫は家にはすぐに上げずに、その足で動物病院に連れて行き、健康状態を確認せよ」とある。人にもうつる感染症を持っていたり、ノミやダニを家に撒き散らす危険があるからだ。

(末尾に写真特集があります)

 私は、ペットグッズを扱う店へ行って現物を見たり、インターネットで物色し、プラスチック製の少し大きめの、頑丈そうなものを購入した。

 家にキャリーバッグが届くと、ハチワレを引き取ることがいよいよ現実味を帯びてきた。同時に、嬉しい、とは別の感情が湧き上がってきた。

 無事に保護し、病院に連れて行き、家に連れ帰ったとしても、果たしてなじんでくれるのだろうか。こちらが生涯面倒を見る気でも、当のハチワレがそれを望まないかもしれない。外に出られないストレスによって、家の中を荒らすかもしれない。そのような状況になった場合、私とツレアイは耐えられるのだろうか。

 動物保護団体から引き取る場合は、相性などをみるためにトライアル期間があるらしい。動物と実際に暮らしてみて問題がなければ正式譲渡、となるケースも多いと聞く。

 しかし、今回はぶっつけ本番だ。

 私はアパート脇の駐車場で、あいかわらず毎日ハチワレと並んで座りながら、保護する日をいつにしようかと、思いあぐねていた。

誰か通らないかな(小林写函撮影)
誰か通らないかな(小林写函撮影)

 ある日、アパート前に行くと、ハチワレは縁側で日向ぼっこをしていた。私を見ると鳴きながら足元までやって来た。しゃがんでなでていると、縁側のサッシが開き、年配の女性が顔を出した。

 彼女は私と目があうと微笑んだ。私は会釈をした。そして「この猫、いつもここにいますよね」と話しかけた。

 「そうなの、いつも午前中はうちの縁側で日向ぼっこをしているのよ」

 彼女はそう言い、縁側から外に出てきて、ハチワレをなでた。

 「私も猫が好きでね、これまで何匹も飼ったわ。今のアパートでは飼えないけれど。妹は野良猫の保護に関わる仕事をしているの」

 私は、初対面のこの女性に、ハチワレを家で飼おうとしていること、ツレアイも了承してくれたこと、それでも、まだ不安があることを打ち明けた。

 「でも、元は飼い猫みたいだし、これだけあなたになついているのだったら、大丈夫じゃない?それに、猫は賢いわよ。外で暮らしていた分、家に落ち着くまでには時間はかかるかもしれない。でも、『ここが安全』とわかれば、自分の居場所を見つける動物だから」と彼女は言った。

 「そういうものなんですか……」

 「そうよ。とにかく一度連れて帰ってみたら。もし無理だと思ったら、ここに戻しに来ればいいじゃない」

 いくらなんでも、それはまずいだろうな、と思った。でも、気持ちは軽くなった。

 女性は、もしあなたがこの猫を引き取ったら教えてね、急に猫がいなくなったら近所の人たちが心配すると思う、「里親がみつかったらしい」と私から伝えておく、と言ってくれた。

ハチワレと日向ぼっこ。(小林写函撮影)
ハチワレと日向ぼっこ。(小林写函撮影)

 その2日後のことだった。

 いつものようにアパート前に行くと、姿を現したハチワレの歩き方がおかしかった。右前足が地面に着けられないようで、よく見ると、足の先が腫れていた。

 心配になり、翌日の昼ごろ、またアパート前に行った。すると女性が2人、ハチワレを囲んで立ち話をしていた。1人は、以前から顔見知りのアパートの住人で、「足の状態が、昨日よりひどくなっているのよ」と言った。

 寝そべっていたハチワレは立ち上がり、3本足で歩き出した。「骨折?」「怪我?」と言い合うこちらの心配をよそに、道路の真ん中に移動すると、その場に転がって私たちの方を向き、「なでてちょうだい」のポーズでお腹を見せた。

 病院に連れて行かなければ、と思った。もう迷っている時間はない。

 「この猫を飼おうと思っているんです。夕方、キャリーバッグを持って迎えに来ます」

 私は女性たちにそう宣言した。

【前の回】ハチワレ猫を保護したい 反対されても決意は揺るがなかった(5)
【次の回】ハチワレ猫をついに保護 人生初の動物病院へ、汗びっしょり(7)

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。

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この特集について
猫はニャーとは鳴かない
ペットは大の苦手。そんな筆者が、ひょんなことから中年のハチワレ猫と出会った。飼い主になるまでと、なってからの奮闘記。
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