40代で初めての猫飼い 瀕死だった保護猫も元気に

 共働きで子どものいない夫婦が、保護猫2匹を家族に迎えた。夫婦にとっては初めての猫との生活。予想以上に楽しく、瀕死の状態だった猫も、今ではのんびり幸せに暮らしていた。

(末尾に写真特集があります) 

 都心の高台にある10階建ての大きなマンション。吹き抜けのロビーを通って上階に上がり、二匹の猫が住む部屋を訪ねた。

「この子が『ぽん太』。人が大好きな男の子です」

 茶白模様の猫とともに、飼い主の福島正巳さん(49)と妻の寿子さん(50)が広い居間で迎えてくれた。視線を感じて、ふと上を見ると、窓際の猫柱に、耳の垂れた小顔の猫がちょこんと座っている。

ふっくら健康そうなぽん太。マラソン行くの待ってよ!って甘えるんだ」
ふっくら健康そうなぽん太。マラソン行くの待ってよ!って甘えるんだ」

「あの子が『たれぞう』。あっ、女の子ですよ(笑)」

「ぽん太」と「たれぞう」はともに4歳で、3年半前に迎え入れた。夫妻が初めて飼う猫だという。

「私は実家で犬を飼っていましたが、夫婦で40代後半になって、初のチャレンジになりました。共稼ぎなので、犬は定年しないと無理かと思っていましたが、猫との生活はうまくいっています。結婚して21年目ですが、毎日が新鮮です」

 猫に目が向くようになったきっかけは、夫婦共通の趣味のランニングだった。 

「ランニングを10年くらい続けているんですが、2人で走るコースにある公園の木に猫が登っていることがあり、今日もいる、猫って可愛いね、なんて話していたんです。その後、たまたま糸井重里さんの『ほぼ日』のブログを見ていたら、福島の震災時のミグノン(動物愛護団体「ランコントレ・ミグノン)の保護活動について綴ってあり、そこからミグノンのブログを見るようになりました。そこで『ぽん太』のことを知ったんです……」

セクシーポーズを決めるたれぞう
セクシーポーズを決めるたれぞう

悲惨な生い立ち

「ぽん太」の当時の名は「宇治茶」、あだ名は「うじちゃん」。変わった名だが、それは保護された時の壮絶な状態によるものだ、と寿子さんが教えてくれた。

「ぽん太は生後2週間の頃に、都の愛護センターに兄弟2匹で収容されました。ミグノンさんが引き出しに行った時は、衰弱していて、『助からないので、そのまま置いていっていいよ』とセンターの方が言ったそうです。でも命があるなら、とミグノンが連れ帰り、育てたそうです。腸にうじ虫がわいて、お尻から出ていたそうです」

 うじちゃんも兄弟猫も、虫がいなくなるとミルクを飲めるようになったが、兄弟猫はその後に体調を崩して亡くなった。うじちゃんは無事に育つかな? と夫妻は心配しながら数カ月にわたってブログをチェックし続けたという。

「譲渡会にも出られるほど元気になったと知り、『会いにいってみようか』と夫婦で話し合って出かけました。SNSで多くの人が心配して見守っていた猫なので、自分たちとは縁があるかわからなかったけど、とにかく会ってみたくて……」

 譲渡会に行くと、うじちゃんの引き取り手は決まっていなかった。傍にスコティッシュフォールドのミックスのような子猫がいて、その子にだけ申し込みが集まっていたのだ。それが「たれぞう」(当時の名はヘイコ)だ。生後1か月で都内の川べりで保護された猫だった。

幼い頃のぽんたとたれぞう(宇治茶とヘイコ)=ミグノンのブログより
幼い頃のぽんたとたれぞう(宇治茶とヘイコ)=ミグノンのブログより

 ぽん太は兄弟が亡くなった後、年齢が近い「たれぞう」と一緒に育てられていたのだ。 

 寿子さん夫妻は、2匹が仲良く育つ様子をブログで見ていたこともあり、「できれば2匹を迎えたい」と申し出た。共稼ぎで、昼間は留守になるので、猫同士で遊べるほうがいいという思いもあった。

「犬しか飼ったことがなかったので審査に通るか、自信はなかったんですが、2匹を一緒にもらってくれる家を優先するということで、ご縁をもらいました」

「ぽん太」と「たれぞう」は、新居に来ると、2匹一緒にカゴに入ってくっついて眠った。正式譲渡後は3段ケージから出て、2LDKの部屋を興味深そうに探検した。

大きく育った現在のぽん太とたれぞう
大きく育った現在のぽん太とたれぞう

大型マンションで行方不明に

「たれぞう」は少し憶病だったので、追いかけたりせず、夫婦はごろんと床に転がり、近づいてくるのを待ったという。そうして徐々に距離を縮めていった。

 だが、家に来て半年が経ったころ、事件が起きた。

 深夜に「たれぞう」がいなくなったのだ。正巳さんがその時のことを振り返る。

「ある晩、寝る前に『たれぞう』がいないことに気づいて、部屋中を探したのですが、見つからない。もしやと思い、玄関の外を見たのですが、気配がありませんでした」

 夫妻宅では玄関のドアに鍵のかかる網戸を取りつけており、風を通すためにドアを開け放つこともあった。「たれぞう」は体が小さく、網戸の下からくぐり抜けたらしかった。だが、そこは170戸以上の大きなマンションで、敷地内を探すのは容易ではない。

「1階から10階まで階段で歩き、踊り場や廊下をすべて見て回りました。警戒心が強いので人と会ったら逃げるだろうし、中庭に出たら見つかりにくいし、顔面蒼白でした」

 寿子さんがいう。

「明け方になって、いったん部屋に戻ろうとした時、主人が一つ下の階のポーチの前で寝ている『たれぞう』を見つけたんです。何度も探した場所ですが、どこかに隠れていたんですね。迷ってしまったのかもしれません」

 朝になれば、大勢の人たちが出入りする。その前に見つかってよかった、と夫婦は胸をなでおろす。以来、網戸の下にもポーチの下にもガードを付け、脱走に気をつけている。

ぽん太を抱く福島さん夫妻
ぽん太を抱く福島さん夫妻

「たれぞう」は現在2.7キロ、「ぽん太」は6.7キロ。性格も体格もぜんぜん違う2匹だが、それぞれの個性で夫妻にアプローチするようだ。

 この日、夫妻と話をしていると、「ぽん太」だけでなく、「たれぞう」も輪に入ってきた。

「すごく珍しい。普段、『ぽん太』はお客さんが来ると参加するけど、『たれちゃん』はツンデレなので、離れて様子を見まていす。私たちを呼ぶ時も、わざわざ隣の部屋に行って、“こっちに来てよ“と鳴くんです」

 思ってもみない猫達の仕草や行動に、夫妻は夢中のようだ。

「僕はだいたい仕事から帰った後に10キロくらい走りに行くのですが、シューズのひもを結んでいると、『ぽん太』が“ねえねえ、行くの?”というように、肩に前足をかけて邪魔をする。仕方ないのでシューズを脱いで、おやつをあげて、その隙に今だ、と走りに行くんです」

 明るい夫妻のもと、悲しい生い立ちを感じさせないほど、2匹は健康的で幸せそうに暮らしていた。

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は17歳の黒猫イヌオと、3歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この特集について
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ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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