3本足で末期腎不全の猫「くーたん」 難病の飼い主と生きる
黒猫の「くーたん」。ノラだった子猫時代のケガで右前足を失った、3本足のメス猫だ。1歳の若さながら、末期にあたるステージ4の慢性腎不全で闘病している。飼い主は、証券会社にフルタイム勤務しながらオペラ歌手としても精力的に活動する西尾京子さん(43)。自身も難病「エーラス・ダンロス症候群」の患者で、常に全身に痛みを抱えて暮らしている。
(末尾に写真特集があります)
彼女とくーたんが出会ったのは2017年9月のこと。東京都内で猫の保護活動を行う「一般社団法人Love & Co.」の代表・今村友美さん(43)が自宅で看病をしていた猫だった。
「交通事故が原因と思われるケガで、保護した方から今村さんに相談があったときには、足が腐っていたそうです。獣医さんからは、足のケガから敗血症を起こし、腎不全になってしまったのでは、と聞いています」と西尾さん。
西尾さんは、以前も今村さんから猫を引き取っていた。猫エイズの感染猫で、サバトラの「さばてぃ」。肝硬変で亡くなってからも「また引き取られにくそうなコがいれば」と伝えていた。その後、すでに慢性腎不全のステージ3後半だったくーたんを迎えることに決めた。
猫の慢性腎不全は、継続的なケアが必要になる。しかし、西尾さんは明るくこう語る。
「病気の猫を引き取ることはそんなに難しいことじゃないんです。くーたんの皮下輸液も、朝と夜に10分ずつだけ。病状が悪化して強制給餌になれば大変だけど、それはどんな猫でも、病気になったり、老猫になったりしたら必要になる可能性があることですし」
これまでに迎えた猫は、くーたんを入れて7匹。蓄膿症で元ノラ猫のソマリ、人との生活にトラウマを抱えた長毛猫……。深い事情のある猫ばかりを、保護団体などから迎えて来た。
出会いを待つ猫たちを迎えて
現在いっしょに暮らすのは、元の飼い主に飼育放棄された「おチビちゃん」、多頭飼育崩壊を2度経験した「フェージャさん」、そしてくーたんの3匹。飼うのは3匹と決めているという。理由は「この家でお世話が行き届き、どの猫も快適に過ごせる限度だから」。
災害時には連れて避難することも考え、キャパを超えた匹数は飼わない。だが、1匹が亡くなったら、間を開けずに、新たに引き取り手のいなそうな猫を迎える。くーたんには、先住猫が亡くなった翌週に会いに行った。
「ペットロスはあるけれど、出会いを待っている猫もたくさんいるから。定員に空きが出たらすぐにうちに迎えて幸せにしてあげたい。自分がもっと健康ならアクティブな保護活動ができたかもしれませんが、それができないので」と語る。
猫たちは生きるモチベーション
西尾さん自身の難病はコラーゲンに関わる遺伝性疾患で、関節が不安定なため頻繁に亜脱臼を起こす。中学生の時に関節が外れやすくなり、20代になって関節に痛みが出た。以来、常に全身に痛みを抱えている。
痛みに負けて動かないでいると、筋肉が落ちて病状も悪化する。そんな病を抱える西尾さんにとって、くーたんと2匹の猫たちは、「生きるうえでのモチベーション」という。
「今日は気圧が低くて、痛みが強いな。ベッドでじっとしていたい。そんな日だって、猫たちはおなかをすかせて鳴いている。だったら、動かないと」
痛みでつらくても、くーたんの輸液や猫たちのお世話をして、体調を崩さないように自己管理する。お世話のための収入を得るべく、仕事もがんばる。
そんな西尾さんに「くーたんや猫たちとは?」とたずねてみる。「癒し」といった言葉は返ってこなかった。
「生きていることに対して、私が全責任を請け負っている存在」
凛とした強いまなざしで答え、さらに言葉を続ける。
「『猫を飼う』ということは、人を育てるのとはちがった責任を負っているんじゃないかとも思うんです。最期まで責任を持たなければならない、という意味で。人は成長するにつれて意思が形成され、いつかは独立した存在として親から離れていく。でも猫はずっと猫のままだから」
猫たちのための環境づくりと通院のために引っ越して来た日当たりのいいマンション。窓辺でまどろむくーたんをそっと抱き寄せた西尾さんのまなざしは、柔らかく、温かいものに変わっていた。
(本木文恵)
一般社団法人 LOVE & Co. (ラブアンドコー)
2016年3月設立。代表理事でデザイナーの今村友美さん、理事でディレクターの矢沢苑子さんの2人で活動。飼い主のいない犬猫の保護・譲渡活動を行いながら、里親募集を兼ねたコーヒーや雑貨を販売し、売り上げを活動資金に充てている。
HP: http://love-and-co.net/
instagram:@loveandco_coffee
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