上京して憧れの一人暮らし 3匹の猫との生活を満喫

 東京で憧れだった一人暮らしをスタート。でも、独立した理由の一つは「猫が飼いたい」だった。そんな20代女性のお宅にお邪魔した。

(末尾に写真特集があります)

 東京都西部。3階建てのアパートの一室が、ちはるさん(24)の“城”だ。

「昨年3月に長崎から上京し、8月から猫と暮らし始めました。猫が暮らしやすいように最初に住んだワンルームから2DKに引っ越してきたんです。外観は古いけど快適です」

 キッチンにはキャットフードの大きな袋があり、爪とぎなどを置いた部屋を通りぬけて奥の居間兼寝室に入ると、3匹の猫がいた。

“ようこそ”というように、三毛の「あんず」(メス、11か月)と、黒猫の「ゆず」(オス、11か月)が近づいてきた。オッドアイの「ひなこ」(メス、1歳)は、ちょっと離れた場所からこちらを見ている。

「みんなキャラが違うんです。積極的な『あんず』とマイペースな『ゆず』はきょうだい。ビビりの『ひなこ』は、『あんず』と女子同士の“センター争い”をします(笑)」

ケージのハンモックから顔を出す「ひなこ」
ケージのハンモックから顔を出す「ひなこ」

独立して猫を飼うのが夢だった

 ちはるさんは、2年目の歯科衛生士。昨年春、仕事を見つけて上京した。親元から遠く離れての一人暮らしは寂しくないかと思ったが、猫たちとの暮らしが楽しくて、正月もGWも帰省しなかったという。

「おばあちゃんが猫嫌いで、猫を飼うのを許してもらえなくて……。だから、大人になったら、猫を飼うって決めていたんです。故郷から一度は離れてみたかったし。意志を貫いて、夢を叶えました」

 猫と出会ったきっかけは、保護主募集のネットサイトだった。いろいろ検索して、可愛くて気になる「ひなこ」に譲渡希望の申込みをした。しかし、しばらく待っても連絡がなかったため、「ひなこは人気がありそうだし、単身者だから審査に落ちたのだろう」と諦めた。再び募集サイトを見て、保護猫カフェ「ボ二ズハウス」に連絡して出かけた。

「ちょうど保護センターから引き出して間もない猫のきょうだいが5匹いて。前面にぐいぐい出てきた『あんず』と、唯一黒い毛だった『ゆず』をもらうことにしたんです」

 2匹を家族にすると決めて帰宅する途中、「ひなこ」の保護主から思いがけない連絡がはいった。「譲渡先としてお選びしました」。そう告げられて、ちはるさんは戸惑った。

「いきなり3匹で大丈夫かなと。でも、どの子も断れない。それでボ二ズハウスに連絡して、正直に事情を話したら、『できる限りサポートしますよ、困ったら何でも言って』と仰ってくださって。その言葉に励まされ、3匹と暮らすことにしたんです」

左が保護猫カフェにいた時の「あんず」(後ろ右に「ゆず」がいます)
左が保護猫カフェにいた時の「あんず」(後ろ右に「ゆず」がいます)

猫3匹との暮らしが始まる

 まず『ひなこ』を家に迎え、1カ月後に『あんず』と『ゆず』を受け入れた。初めは“シャー、シャー”威嚇し合っていたが、10日も経つと仲良くなった。

 お腹が緩かったり真菌がいたり、世話は大変だが、ちはるさんはすぐに猫たちのとりこになったという。何より驚いたのは、猫の人懐こさだった。

「猫は機嫌のよい時しかそばに来ないと聞いていたけど、そんなことはない。頭をゴンゴンぶつけてきたり、すごく甘えん坊。ボールを投げるとくわえて戻ってくるし、ボールを集めて一か所に隠すこともある。実家のミニチュアダックスと変わらないんです」

 ただし、犬のように「待て」や「おすわり」はできない。ちはるさんがテーブルで食事をしようとすると、3匹が飛び乗って邪魔をする。

「熱いお茶をこぼすと危ないし、人のものを食べるのもよくないので、私の食事中は3匹を一斉にケージに入れることにしました。あともうひとつ、ケージに入れる時間があるんです。それは、朝、メークをする時」

 お化粧道具をテーブルに出すと、猫たちは目を輝かせ、チークをくわえて他の部屋にいったり、アイライナーをコロコロと前足で転がしたりして、一向にメークが進まない。「もう返して~」とテンヤワンヤなのだとか。

 実はちはるさんは、最近、職場を変えた。以前の職場は朝8時半ごろに出て、仕事終わりが夜9時を回ることもあった。猫と過ごす時間がもう少しだけ欲しくて、「定時にきちんと終了し、早く帰れるように」と、家から近い医院で働くことにしたのだ。

「同僚も時々遊びに来ますが、賑やかなので“猫カフェみたい”っていわれます(笑)。猫がいるお陰で友達も増えたし、『この子たちのためにがんばらなきゃ』って思えるから、原動力になっています。猫と暮らせてよかった。将来、いろいろな形で保護猫活動をしたいな」

ちはるさんに抱かれる「ゆず」君
ちはるさんに抱かれる「ゆず」君

単身かどうかより人柄を重視

 愛護団体によっては「一人暮らし」を譲渡先として避けるところもあるが、『あんず』と『ゆず』をちはるさんに託したボ二ズハウスの古橋典子さんはこういう。

「単身や新婚を理由に譲渡を断られて傷つく希望者さんはたくさんいます。結婚や出産を機に、ペットを手放す人が実際にいるからそうなるのかもしれませんが、家族がいても、無責任なことをするケースだってありますからね。大切なのは家族の有無や猫飼い初心者かどうかより、その方の人柄だと思うんですよ」

3匹いると賑やか、個性もいろいろ
3匹いると賑やか、個性もいろいろ

 ちはるさんに任せたポイントはどんなところにあるのだろう。

「若い人は吸収力があるし、自分の意思も責任感もある彼女なら、3匹でも大丈夫と思ったんです。ちはるさんに限らず、里親さんとはみな『ファミリー感覚』。猫を譲渡して終わりではないんです。ちはるさんは私に報告するために、猫のブログとツイッターを始めてくれました。良いことも悪いこともありのままに書いて、まず自分で考えて努力して、それでもわからなかったら質問してくれるので安心です。これからも見守りたいですね」

 ちはるさんの初めての猫との暮らしは、あったかい“東京のお母さん”に見守られつつ続いていく。

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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