ようやく心を開いたビビリ猫 飼い主の先生にも変化が
初めて飼い始めた猫は、なかなか懐かず、なでることさえ嫌がった。そんな猫が、ある日、初めてベッドに乗ってきた。トライアル開始から3カ月、やっと心を許した瞬間だった。そんな猫との経験は、飼い主のベテラン教師の学校での姿勢も変えていた……。
(末尾に写真特集があります)
東京都北区、マンション12階にある高校教諭・かおりさん(47)の自宅を訪ねた。部屋に入ると、「ナル」(メス、推定3歳半~4歳)は奥のほうに逃げこんでしまった。じっと固まり、こちらの様子をうかがっている。
「とてもシャイな子なんですよ。抱っこされるのも苦手だものね、ナルちゃん!」
かおりさんが呼びかけると、ナルはちょっとだけ耳を動かした。
かおりさんは数年前から“猫と暮らしたい”と思っていた。何度か譲渡会にも出かけたが、「一人暮らし」「フルタイムで働いている」と答えると断られたという。
そんな頃、友達が動物病院で、猫保護のボランティア「ねこねこ亭」のスタッフと偶然会った。
「親友が猫を飼いたいのに断られてしまう私のことを獣医師に相談してくれて、その場で先生がねこねこ亭のスタッフさんを紹介し、見合い話が進んだんです」
自宅で面談をし、数匹紹介された中から、ナルを選んだ。多頭飼育が崩壊して残された猫だった。昨年7月、トライアルが始まったが、ナルは想像以上に“警戒心”が強かった。
アドバイスを受け、かおりさんは最初の数日、ナルをケージに入れて、表を布で覆った。ナルはかおりさんの前では食事をしなかった。だが、仕事から帰ると、お皿が空になっていた。明かりを暗くして寝ると、ひょこひょこと出てきて部屋を探検した。
「1週間くらいで鼻に触れるようになりました。翌月になると、私が座る近くで寝るようになりました。距離が近づいたので、首輪をつけたらパニックになって、ナルが“しょげぽよ”(落ち込んだ)な感じで。あぁー、振り出しだ、と(笑)」
かおりさんは心が折れそうになったこともあった。だが、あるネット動画を見て、はっと気持ちが変わったという。
「ナルたちが多頭飼育崩壊の現場から救出された時の動画がアップされていたんです。リアルなゴミ屋敷の様子を見てショックで。こんな中にあなたがいたの? 心配しないで、私が一生守るから、と」
その日から、自然とナルに声をかけるようになった。
「今日は寒かったね」「ベランダに鳥ちゃんが来るといいね」
そうするうちに、ナルはかおりさんに身体を触らせ、応えるように鳴くようになった。「テレビを見ていると、離れた所から『ニャー(こっちを見て)』。片手間になでると、『ニャー(集中して)』と、コミュニケーションがとれるようになりました」
だが、2カ月がたち、親密になりかけた頃、かおりさんの学校が文化祭シーズンに入った。準備のために朝早く出かけ、遅く帰宅。気持ちも急いていた。
そんな時、ナルはあごの毛が抜け始め、テーブルでおもらしをした。
「私の気持が学校のほうに向いて、急につれなくなった、とナルが不安になったんでしょうか。文化祭が終わった翌日の休みに、疲れて昼間ベッドに寝ていたら、はじめてベッドに飛び乗ってきたんです」
その日の夜には足元、数日後にはお腹のそば、冬になると、かおりさんの頭の横で寝るようになった。心を許したのだ。
かおりさんの中に「一緒にいよう」という確信と自信が生まれた10月初旬、ナルは正式譲渡となった。
ねこねこ亭のスタッフは今回の譲渡に関してこういう。
「(多頭で育ち)心に傷を負ったナルがどういう家にいけば幸せになれるかを考えました。人との生活がいいものだということを、“ゆっくり知ってもらう”には、独り暮らしで、留守が長い家でも大丈夫だろうと思ったのです」
初めての猫と暮らしは、勤続25年のベテラン教員としてのかおりさんにも変化を招いた。生徒に対しても、よく話しかけるようになったのだという。
「いつも指導することを優先してしまい、あまり声にはしませんでした。それが『ウンチできて、いい子だねえ』とナルちゃんに言うのと同じように、『あんたたち掃除よくしたねえ、いい子だねえ』と、自然と口から出るようになったんです(笑)」
生徒たちにもその変化が伝わったのだろう。今春、かおりさんが転勤で学校を離れる時、何人もの生徒が号泣したという。
「もっと先生に優しくすれば良かったーと、泣いてくれる子もいました。本当に愛しく、慕ってくれたことをありがたいと思いました。このような思いができたのも、ナルちゃんとの出会いがあったから。この年になって、あらためてコミュニケーションの大切さがわかった気がします。ナルと楽しくずっと生活していきたい!」
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