猫白血病ウイルス感染の捨て猫 新しい家族に見守られて元気に

知恵子さんに抱っこしてもらうムク。好奇心で目がきらきら、毛もツヤツヤ
知恵子さんに抱っこしてもらうムク。好奇心で目がきらきら、毛もツヤツヤ

 猫にはパルボウイルスや猫白血病ウイルスなど、発症すると完治が難しい感染症がある。そんな病気にかかって一度は人に捨てられながら、新たな家族と出会って、ノビノビと暮らす若い猫がいる。その「ムク」に会いに行った。

 

(末尾に写真特集があります)

 

 東京都内のマンション(4LDK)が、雑種の猫「ムク」(推定1歳)の現在の家だ。8月末、飼い主の山本やす子さん(62)と娘の知恵子さん(38)に迎えられ、リビングに入ると、黒白の猫がいきなりテーブルに飛び乗ってきた。


「この子がムクです。ほかにも猫が4匹いますが、皆、隠れてしまって」


 そう、やす子さんが微笑む。ムクは“僕を見て”といわんばかりに、お腹をみせてひっくり返った。


「最近太ってきたので、むちむちムっちゃんと呼んでいるです」と、娘の知恵子さんも笑う。

 
やす子さんと知恵子さんと「ムクの足の先は白くて肉球が黒いんです」
やす子さんと知恵子さんと「ムクの足の先は白くて肉球が黒いんです」

  知恵子さんがおもちゃを投げると、ムクは、パーッと追いかける。大きな体なのに、動きが俊敏だ。元気がありあまっている健康的な猫に見える。


 だが ムクは難しい感染症のひとつ、猫白血病ウイルス感染症(FeLV)に罹患している。


「私たちは症状や状態を十分にわかった上で、家に迎えたんです。もう本当にかわいくて、メロメロ。ムクが来てから家族の会話も増えましたよ」(やす子さん)

 

 

◆人懐っこい猫との出会い

 ムクが家に来たのは7月中旬。山本さん親子は、その2か月ほど前、近所で生まれた子猫を見つけて、保護ボランティア宅に預けた。その子猫の様子を見にいった時、ボランティアから「実はこんな子がいるんです」と、ムクの話を聞かされたのだという。


 知恵子さんが説明する。「若いのに発症してリンパ腫もできていました。保護されている他の猫に感染しないように、2階に隔離して世話しているということでした。人に慣れていないのかな、なんて思ったら、ぜんぜん違って。部屋に入るや否や、喉を鳴らして膝に乗ってきたのよね」


「猛アピールで、遊んで遊んで、とすごかったわよね(笑)。うちにも猫が4匹いるけれど、もう見たことないくらいの人懐っこさで、心奪われてしまって」(やす子さん)


 母娘は、ムクの生い立ちにも心を動かされたのだという。


 ムクは昨年秋、ちょうど台風が来る前に都内の公園のフェンスに紐で繋がれていたところを救出された。血液検査すると、ウイルス感染がわかったのだという。


「白血病だから捨てられたのか、遠くに行かないように繋がれていたのか。私たちにわかったのは、まれなほど性格がよく、限りなく愛くるしい子だということです」とやす子さん。

 

隔離の為、ムクは猫ではなく犬と生活していた(ボランティアの神保枝美さん撮影)
隔離の為、ムクは猫ではなく犬と生活していた(ボランティアの神保枝美さん撮影)

 母娘に対するムクの歓迎ぶりを見て、保護ボランティアも驚き、「トライアルしてみませんか」と声をかけた。もちろん母娘は「うちに猫がいるし」「どうする?」と即答はできなかった。そのままムクと遊びながら、1時間ほど悩んだ。

 

 

◆家にも病気の猫たち

 実は、やす子さん宅にいる4匹のうち2匹も、白血病ウイルスに罹患している。元野良の母猫マミー(5)と息子の猫シンバ(4)だ。


「5年前、私の職場の近くで保護した猫が、子どもを3匹産んだのですが……母子感染していたんです。他の家にもらわれた2匹は残念ながら、病気で昨年亡くなりましたが、うちで引き取った母猫マミーと息子のシンバは今も元気にしているんです。そんなこともあって、このまま1匹でいるより、我が家に来てもらったほうがいいかしら、という思いにいたりました」(やす子さん)


 ボランティアがキャリーバッグを取り出すと、ムクは“待ってました!”とばかりに、自分から中に入ったという。そして、やす子さん宅に着くと、臆することもなく歩き周り、探検した。ただ、猫同士の関わりがなかったせいか、先住猫との交流の仕方がわからないような面もあったという。

 

同じウイルスキャリアのシンバと添い寝中
同じウイルスキャリアのシンバと添い寝中

「ボランティアさんの家では、猫とは会わずに犬と遊んでいたので、ちょっと犬っぽいというか(笑)、ほかの猫に舐めてもらうと、驚いてカプッと噛もうとしていました。それでもだんだん先住猫たちに慣れて、いちばんの新入りなのに、今や王様状態!」


 家に来たばかりの頃は環境変化のためかくしゃみをしたという。それも病院で薬をもらい、家に慣れると良くなった。

 

 

◆生きる励みに

 実は、やす子さんも知恵子さんも医療関係に従事している。やす子さんは人工透析を受ける患者さんの送迎をし、知恵子さんは看護師をしている。


「母は送迎の間に時間があるので、家の猫を見る時間があるんです。感染症には栄養とストレスフリーが大切です。症状が少しでも出たら、すぐに対症療法をする。家にはウイルスにかかっていないノンキャリアの猫も2匹いて、5種ワクチンを打っています。100%ではないけれど、できる限りの注意を払って普通に接する、それが我が家流かな」と、知恵子さんが説明する。


 ウイルスを持っていない2匹も、保護猫だ。怪我を負って片方の目を失明した「メイ」(メス、推定4歳)と、飼い主が離婚して行き場を失っていたラグドールの「はな」(メス、7歳)。猫たちはそれぞれ4LDKの空間で「自分の居場所」を見つけて、調和を取りながら、自由気ままに暮らしている。

 

離婚した夫妻から引き取ったはなちゃん(右)と。つかず離れずよい関係
離婚した夫妻から引き取ったはなちゃん(右)と。つかず離れずよい関係

「私の主人は、昔は猫が好きではなかったけど、今ではすっかり癒されている。『俺の部屋にムクが来たから、今夜は一緒に寝るぞー』とか、ちょっと楽しそうです(笑)」(やす子さん)


 やす子さんの夫は、昨年、動脈瘤で片方の足を切断した。今は義足で歩けるが、しばらく寝ていた時に、個性豊かに生きる猫たちの姿が励みになったそうだ。


 あるがままを受け入れて、寄り添う――。


 とびきり明るい家族に見守られ、ムクの毛はツヤツヤと光り輝いていた。

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は18歳の黒猫イヌオと、4歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
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