真夜中の雄たけび! 元野良猫「ゴーちゃん」の切ない訴え

一生懸命に何かを訴えるゴーちゃん
一生懸命に何かを訴えるゴーちゃん

「ウウ、ウウウ」「ニャアアアアッ」


 真夜中の午前3時。東京都内のマンション6階の一室に、野獣のような声が響く。60代のヨリ子さんと夫がそのまま寝ていると、声の主は寝室にやって来て、棚からいろいろなものを落とし始めた。ノート、メガネケース、目覚まし時計……。

 

(末尾に写真特集があります)

 

「うるさいな~」。夫が寝返りを打つと同時に、ヨリ子さんはベッドから起きて台所へ向かった。「ほら、ごはんあげるから」


 夜食の後、再び鳴き声が部屋に響いた。


「ウオオオオオ~」


 雄たけびをあげるのは、推定13歳の雑種猫「ゴーちゃん」。元野良猫だ。

 

 

◆庭に1匹、2匹と現れた猫たち

 ヨリ子さんが初めてゴーちゃんと出会ったのは、2004年9月。東京郊外の一軒家に住んでいた時だった。


「ひどい台風の日、びしょぬれで庭に現れたんです。生後半年くらいでした。それまでにも、近所の猫が庭に来ることがありました」

 

一軒家に住んでいた時代、庭の石の上でくつろぐゴーちゃん
一軒家に住んでいた時代、庭の石の上でくつろぐゴーちゃん

 ヨリ子さんは猫好き。ちょうど前の猫が病気で死んだばかりで、外の猫に興味を持った。1匹、2匹、3匹……と、庭に猫が来ると、現れた順に、「イッちゃん」「ニちゃん」「サンちゃん」と名をつけた。ゴーちゃんは5番目に来た猫だった。


 中には首輪をつけた猫もいて、だんだん姿を見せなくなったが、ゴーちゃんだけはその後もふらっと現れた。


「雨風をしのげるように縁側に段ボールを置いて、そこでしばらく暮らしました。ある日、鼻水を出してガラス戸につけたので、家に入れることにしたのです」


 家の猫にしたとはいえ、庭で遊びたがるため、最初は庭と室内の出入りを自由にさせた。だんだんと庭に出る回数は減り、寒くなる初冬には、ほとんどの時間を家で過ごすようになった。それでも時々出たがるので外に出すと、ゴーちゃんは庭の塀をぐるりと一周パトロールした。翌年の2月頃、メスの子猫が庭に現れた。7番目なのでナナちゃんと呼んだ。ゴーちゃんとの相性がとてもよかったので、ナナも家に招いた。

 

一緒に引っ越してきた仲よしの雌猫ナナ(左)とゴー
一緒に引っ越してきた仲よしの雌猫ナナ(左)とゴー

 そうして、ゴーとナナは、ヨリ子さん夫妻のもとで、のんびり暮らすようになった。洗濯物を干す時など、時々庭で日向ぼっこをした。家と庭の割合はほぼ8:2になった。

 

 

◆引っ越しが呼びこんだ変化

 そんな生活に区切りをつけたのは2013年のこと。引っ越しをすることになったのだ。


「前々から都心のマンションへ移る話がありました。もともと夫は腰が悪く、満員電車に乗らなくていいように、職場の近くに越したいと言っていたので。そんな時、駅に近い新築物件の抽選にあたり、話がトントンと動きました」


 “外出身”の2匹のことは、もちろん心配だった。引っ越しは猫を戸惑わせることになるが、2匹はどんな反応をするだろうか。


「獣医さんに相談すると、その引っ越しのタイミングで完全室内飼いにするのがいい、”慣れていきますよ“と言われました。そして“エイッ”と、引っ越したのです」


 2階建ての約100平方メートルから、平面の70平方メートル(3LDK)へ。階段がなくなったので、一部屋に大きな猫柱を置いて、上下運動ができるようにした。広さは十分にあるが、やはり最初はきょろきょろと戸惑った。やがて獣医さんがいうように、慣れた。ただし、それは雌のナナちゃんだけ。

 

シャギーの絨毯も気に入っているようだが
シャギーの絨毯も気に入っているようだが

「3日ほどでナナちゃんは新居に慣れて、ゴロゴロとくつろぎました。でもゴーちゃんの方は、夜に鳴いて廊下を“行進”しはじめたんです。前より家が狭くなったので、寝室もオープンにして入れるようにしたんですが。そうしたら私たちが起きるまで騒ぐようになって……」


 引っ越して1年くらいは、外に出たがって廊下を歩いて鳴くだけだったが、そのうちにだんだん家人を起こして何かを食べるという要求に切り替わってしまった、とヨリ子さんはいう。


「鳴くのが続いて、どうしようもなく、おやつをあげてしまったんですね。実はもともと持病のあったナナが引っ越して1年半くらいで亡くなり、ゴーが1匹になってしまい、そうした環境変化もあったのかもしれません」

 

 

◆自宅でだけ雄たけび

 ゴーちゃんの性格は、元々おっとり、フレンドリーだった。旅行時に動物病院や友人宅に預けても、すぐに慣れてご飯もモリモリ食べて、ゴロンと転がって甘えるそうだ。そして預けている時は夜鳴きをしない。しかし家に戻ると、「出せー」「くれー」が始まるのだという。


 ヨリ子さんは、雄たけびを気にして、マンションの管理人に「苦情が出ていないか」相談したこともあった。


「幸い建物が幹線道路に近く、防音がしっかりした構造で、迷惑はかけていないようでした」


 ゴーちゃんは、夜中3時におやつ程度を口にすると、もう一度鳴いて、眠る。最近では3時に鳴いた後、早朝6時にまた鳴くようになった。


「こちらの勝手で引っ越ししたし、ゴーちゃんのショックもよくわかる。鳴き声は、怒りとか攻撃的なものでなく、『おい、どうなってんだよ』というような切ない訴えなんですよ」


 最近では夫が疲れている時は夫だけ寝室のドアを閉めて寝て、ヨリ子さんは別の部屋にマットを敷いてゴーちゃんが横に寝ることもあるという。


「それでも起こされますけどね(笑)。同じように夜鳴きをする飼い猫に、動物の安定剤をあげたという知人もいたけれど、少しでも自由にさせたくて。もしも、睡眠が途絶えて自分の寿命に影響があるなら、私の寿命、一部ゴーちゃんにあげてもいいや」

 

今宵も廊下を歩きまわる
今宵も廊下を歩きまわる

 猫も歳をとると、ボケたり、高血圧や甲状腺の問題から大声で鳴くことがあるという。ヨリ子さんはそうした検査も考えつつ、自身の生活を変えようと思いだした。


「もうね、“エイッ”と、秋から超朝型にしようかと思っているんですよ」


 家で翻訳業等をしているヨリ子さんは、早寝をして午前3時に起きてしまおうというのだ。ゴーちゃんはまた、『どうなってんだよ』とびっくりするだろうか。

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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