心育てる授業 「運命分けるのは人間」
「これは犬の話ではないよ。みんなが幸せになるために聞いてほしい」
その言葉に子どもたちは真剣な表情で聴きいった。
昨年11月7日、市川市立宮田小学校で「命の授業」と題する出前授業が行われた。講師は、動物愛護をテーマにした作品を手がける市原市の児童文学作家、今西乃子(のりこ)さん(49)。4~6年生の児童約180人に、捨て犬たちの写真を見せながら語り出した。
施設に収容され、炭酸ガスで殺処分される様子を次々画面に映し出す。「この犬たちは死ぬ直前まで、自分を捨てた飼い主を信じて待ち続けていた」。しんと静まり返り、中には涙ぐむ子も。
今西さんは問いかける。「人間の心ひとつで誰かを幸せにも不幸にもできる。みんなはどっちの大人になった方がいい?」。みんなじっと考え込んだ。
2005年、今西さんは右目と右後ろ脚を切られた状態で捨てられたメスの子犬「未来(みらい)」を引き取った。殺処分前日に動物愛護に取り組むボランティアの女性に保護され、「他の犬の分まで生きてほしい」と名付けられた。その姿を描いた「命のバトンタッチ 障がいを負った犬・未来」など、児童向けの作品を中心に発表してきた。
瀕死(ひんし)の状態から回復した未来を通して命の大切さを伝えようと、07年から命の授業を開始。全国の小中学校などをまわり、これまでに130回を超えた。延べ約2万5千人の前で話し、刑務所で受刑者を相手に講演したこともある。
授業では、全国で年間約13万匹(13年度)の犬や猫が殺処分されている現実を伝えた後、未来の写真を紹介する。保護された時の目や脚に傷を受けた痛々しい姿から、治療を受けてつやつやの毛並みになり、残った3本の脚で元気に浜辺を走る姿まで――。
宮田小での授業の終盤。「ゲストを迎えています」と今西さんが言うと、すっかり成長した未来が登場する。脚を引きずりながらひょこひょこ駆け寄る姿に、「すごい!」「かわいい」と歓声が上がった。
「ボロボロだった犬もピカピカになる。運命を分けるのは私たち人間。誰かを幸せにするということは、自分を幸せにすることなんだよ」。そんなメッセージで1時間半の授業を締めくくった。
6年生の清水優(ゆたか)君(12)は「犬が殺処分されるのは残酷。でも、そうしているのは人間。捨てられる命が減るようにしなければいけないと思いました」。
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千葉県動物愛護管理条例は、県が進める施策として子どもへの普及啓発を掲げる。千葉県動物愛護センターが現在行っている動物愛護教室や親子体験教室などをより広める考えだ。
今西さんは期待する。「結局は人間の心の問題。条例が、命を大切に思う子どもたちの心を育てることにつながれば」
(朝日新聞2015年2月15日掲載)
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