ハイパーな赤柴、キレる黒柴 家族全員を血祭りに、前途多難な多頭生活
子犬を迎えたはいいものの、吠える、噛む、お散歩が上手にできず、どうしたらいいの? そんな「育犬ノイローゼ」の飼い主たちが地方からもやってくるUG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)。
高橋信行店長のもとにはさまざまな犬種がやってくるが、流血するほど飼い主に噛み付く子犬が多いのが、柴犬。2年前のある日、豆柴のきょうだいを迎えたものの、腕を傷だらけにしながら「どちらかを手放さなきゃいけないかもしれない」と悩んだお母さんが駆け込んできた。
激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ!
「柴犬ナメちゃいかん!」
柴犬経験豊富な一家に迎えられた、破壊魔の豆柴
「戻ってきてくれたの?」
小旅行で出かけた先でふと立ち寄ったペットショップ。ショーケースの中の豆柴の子犬に、思わずそう声をかけていた。その赤柴の女の子、すずらんちゃんのお母さんはこう語る。
「2年前に虹の橋に旅立った愛犬にそっくりだったのです。その場でお迎えを決めました」
お母さんはこれまで、10代のころ1匹、その後2匹と、すでに3匹の柴犬を育ててきた。
「先代の2匹は老衰だったのですが、体が大きかったので介護で苦労しました。自分の年齢を考えるともう柴犬は無理かなと諦めかけていたのですが、すずらんは成長しても柴犬ほど大きくはならない豆柴だったので、それなら面倒を見られるかな、と」
家にやってきたすずらんちゃんは元気いっぱい!……というか、元気がありすぎた。
「カーペットはもちろん、床、壁、引き出しの取っ手、スリッパ、バッグ、服、掛け布団……ありとあらゆるものを破壊されました。さんざん暴れて遊び疲れると、電池切れしたかのようにバッタリと爆睡。おもちゃをくわえたまま行き倒れていることもしばしばでした(笑)」
ショップ店員の横暴を見かねて迎えた黒柴
お迎えして3週間が経ったころ。すずらんちゃんがいたペットショップのHPを見ていたら、同じ日に同じブリーダーの元で生まれた子が。もしかしたらきょうだい?と、その子犬がいるショップに行ってみることに。ところがショーケースの中にいた黒の豆柴はガリガリで、その姿にお母さんはショックを受ける。
「丸々とした子犬ならではのかわいさがなくて、表情もない。人間をまったく信用していない暗い目をしていました」
すずらんちゃんと実のきょうだいかを調べてもらうのを待つ間、抱っこすることに。触ろうとするとその子犬は突然キレたように暴れ、噛み付いてきた。戸惑うお母さんを遮るように、別の店員が子犬の口に自分の指を入れた。すると子犬はうなだれ、おとなしくなった。
「噛み防止のための苦いスプレーをかけた指を口の中に突っ込んでいたのです。聞くと、ワクチン摂取のために行った病院でも大暴れし、無理やり押さえつけて叱ったら恐怖からかおしっことうんちをしちゃった、と……。『それから自分には逆らわなくなった』とドヤ顔で話す店員に、この子をここに置いては帰れない! という思いに駆られました」
すずらんちゃんと同じ母犬から生まれた正真正銘のきょうだいと明らかになったことで、お母さんの気持ちは決まった。
黒柴の男の子は「楓」と名付けた。こうして、すずらんちゃん、楓くんきょうだいとの暮らしがスタート。それは混迷を極める日々の始まりだった。
甘嚙みに本気嚙み お母さんの手は血だらけに
すずらんちゃんは体力が有り余っていて、甘噛みが止まらない。楓くんは人間不信が強く、話しかけても反応がなく目も合わない。触ろうとすると豹変し、噛み付いてきた。
「初めて首輪をつけた日。外すときに本気噛みされ、指にザックリと穴が。その後も何かにつけてはキレて、両親をはじめ家族全員が血祭りに挙げられました」
お母さんの手は、すずらんちゃんの甘噛みで傷だらけ、楓くんの本気噛みで血だらけという惨状に。「それまで3匹の柴犬と一緒に暮らし、育ててきた経験がまったく役に立たない。というか、経験を生かす場もタイミングも一切ないほど、これまでの犬たちとは何もかもが違っていました」とため息をつく。
ペットショップの店員から「新しい犬は2週間はケージ内で過ごさせ、先住犬とはケージ越しに対面させる。無理に近寄らせないように」と言われたので、それを守ったが、2匹はケージ越しにガウガウ! 楓くんが噛み付き、すずらんちゃんが「ギャン!」と声を上げた。そんな2匹の様子に家族もだんだん暗い表情を見せ始め、近寄らなくなっていったという。
「まともに抱っこもできず、何をしてもキレる楓を、すずらんと直接触れ合わせることができる日が来るんだろうか。本気で噛んですずらんがケガしたらどうしよう。もしかしたら楓は一生ケージの中に隔離して生きることになるのでは? そうなったらそもそも2匹を一緒に飼うなんて無理なんじゃないだろうか……」
ひとり苦悩を深めていったお母さん。当時の写真を見返しながら目を潤ませる。
「ペットショップでひどい扱いを受けていたのがガマンできずに連れて帰ったのに、もし楓を手放すことになったらまた人間からひどい仕打ちを受けることになる。かと言って、先に迎えたすずらんを裏切るようなことは絶対にしてはいけない……。あのころは本当に苦しくて、毎日毎日泣いていました」
店長の「一緒にしちゃお!」にビックリ
なんとかきょうだい一緒に暮らせるようにできないだろうか。必死にネットを検索する中で、高橋店長のブログにたどり着く。「ピリピリとしてすごく噛む柴犬の女の子が、社会化お泊まりの1週間を経て笑顔になったというエピソードを読み、ここなら、この人にならお願いできるかも……と。本当にわらをも掴む思いだった」
思い切って電話すると、電話口には高橋店長が。「私としてはこれまでの経緯を冷静に説明したつもりでした。ところが店長から『お母さん、落ち着いて』と言われて。自分でも気づかなかったけれど、かなりテンパってたみたい」と笑う。
そしてカウンセリング。ケージ越しにしか会わせられない2匹を同じキャリーケースに入れることはできない。お母さんはすずらんちゃんをバッグに、抱っこできない楓くんはリュック型のキャリーケースにオヤツでなんとか誘い込み、UGまで連れてきた。ところが、店に着くなり店長は「めんどくさいから一緒にしちゃお!」と、2匹を同じスペースに解き放った。
お母さんビックリ! しかし、慣れない場所での緊張もあったのか、ケンカすることもなく初の直接対面を無事に果たした。もちろん、店長は2匹を見て大丈夫と判断し引き合わせたという。
「すずらんちゃんは体力とエネルギーがたぎっているハイパータイプ。群れの中でほかの犬と遊び、お散歩して、どんどん解放すればいけるだろうと思いました。
ヤバイな、と感じたのは楓くん。黒柴らしく繊細で神経質なところがあり、確かにお母さんが言うようにまったく目が合わない。オープンマインドのすずらんちゃんに対して、感情を押し込めていて、触ろうとすると突然スイッチが入りマジ噛みする。闇が深いと感じました」
高橋店長は続ける。
「この連載でも、ブログやSNSでも言い続けていますが、柴犬をナメちゃダメ。うちにカウンセリングに来るご家族で、手足が噛まれて血だらけ傷だらけというのは『柴犬あるある』です。実はカウンセリングしているとき、すずらんちゃんは僕の腕にもガブッ(笑)。子犬のうちならまだしも、成長した柴犬に噛まれたら大ケガします。シャレになりません」
すずらんちゃんと楓くんは、揃って社会化お泊まりへ。その1週間で、「一緒に暮らせるのだろうか」と不安にさいなまれていたお母さんの涙を吹き飛ばす「きょうだいの絆」が生まれる。
(後編に続く)
- UG DOGS アトラスタワー中目黒店
- 住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/ - 店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。